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    na75go

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    na75go

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    せっかく好きになったジャンルでは1回くらいちゃんと書きたいと思っているので何だったら行けるか悩んだ末のまさかのハロパロ爆轟。
    ちょっとずつ続いたら良いですねぇの気持ち。
    まだ名前すら呼んでねえ…

    #爆轟
    BakuTodo

    age.15 月も星も届かない森の奥で、狼は手にした一つの灯りを手に草を踏んだ。
    人も獣も寄り付かない深い木々の隙間を縫うように進む目には、夜闇に惑わされる事なく真っ直ぐと進むべき道を見据えて静かに光を纏うようで。
    自らの足音のみが静寂に飲まれるのを耳にとめながら、狼はゆらりと尻尾を揺らして歩く。
    野鳥の鳴き声も虫の羽音も無いわりに妙に煩いのは、そこに命だけは確かにあるからだ。
    ただ全てが息を殺し、狼が行き去るのを待っている。
     人も獣も、あらゆる命が息をひそめる森の奥を訪ねる者は無い。
    狼すら、集落の大人たちに「決して近寄ってはならない」と言い聞かせられて育った場所。
    夜をものともしない狼でも時間をかけて向かう先にいるのは、古くから森の領主と呼ばれるものだ。
    それは森を守る。
    それを怒らせてはならない。
    それに触れてはならない。
    それは災厄に繋がるものである。
    しかし、幸いをもたらすものでもある。
    ただ静かに、触らず、敬い静寂をもって相対せずに居るように。
    幼いころからずっと聞かされてきたおとぎ話。
    集落を纏める長といずれその座につく者だけが出入りを許されて、今は狼のみが立ち入るようになった場所には、ささやかな月明りだけが降り注いでいる。
     進んだ先にやがて訪れるその場所は、錆付いた門扉の向こうに荒れた庭が広がる洋館だ。
    優美で繊細な佇まいのその屋敷は、しかし壁には蔦がへばりつき、手入れのなされない庭は雑草が伸び放題のまま景観を損なっている。
    手をかけた門扉の立てる軋んだ音が耳に刺さり、狼は一度鋭く舌を打つ。
    眉を釣り上げて見上げた先の窓は、2階の一室だけぼんやりと灯りが灯っている。
    館の主人が寝起きする一室。
    歩いてきた森の道なき道と変わらない感触を踏みしめながら無駄に広い庭を抜けて玄関扉を開け放つと、狼は迷いなく階段を上がっていく。
    横目に見える部屋の隅や普段誰も立ち入らない場所はホコリが積み重なり信じがたいほどに空気が悪いのだが、館の主人と狼が立ち入る場所だけは塵ひとつ無く美しく保たれている。
    一段ずつ上がっていく赤い絨毯におおわれた階段も同じく、狼の足音を優しく抱きとめる。
     館の主人は外に出ない。
    誰に言い含められた訳でもなく、ただ用が無いと言って。
    ほんの数部屋、自分が生活するのに必要な場所だけ最低限の清潔を保たれた屋敷を、狼は嫌悪した。
    初対面から屋敷の主人をどやしつけて重い腰を上げさせて、少しずつ踏み入ってもホコリの立たない場所を広げてきたのだ。
    せっかくキレイにしたのだからもう汚すなと言いつけた狼を、屋敷の主人は不思議なものを見るような目で見つめた後、ほんの少しの逡巡の後に頷いて見せてからは、一度清掃の手を入れた場所はそのままの状態が保たれている。
    舐めた野郎ではあるが、その素直さを狼は気に入っていた。
     やがてたどり着いた扉に手をかけて、開け放つ。
    こもった空気の匂いに眉間のシワを刻みながら踏み込むと、1人の青年が狼を見て、そして狼の顔を不思議そうに眺めた後で、ようやく窓を締め切ったままだった事に気付いたらしい。
    ヒョイと振られた指に呼応してようやく開かれた窓から新鮮な空気が入り込む。
    「遅せえわ。」
    「わりい。」
    全く思っていないどころか口うるさいとでも思っていそうな平坦な声音だが、これは平常運転だ。
    全く悪いとは思っていないのは確かだが、付随して余計な感情が含まれていない事に理解が及ぶ程度には 狼はこの男の事を理解している。
    「今日は早かったんだな。」
    「オカゲサマで、集落は平穏そのものだからな。」
    「そうか。じゃあ、まあ、またしばらくよろしく頼むな。」
    ようやくほんの少し表情を緩めた男に、狼は頷きだけを返した。
    集落から持参した籠を、男の目の前にあるテーブルに乗せてから対面に置かれた椅子に腰を落ち着ける。
    少し乱暴な動作であったので、脇に積まれていた本が落ちそうになるのを男が手のひらで受け止めたのを見届けてから、手にしていたカンテラを置いた。
    さほど大きくないスペースはそれだけでいっぱいになったが、男は気にするでもなく読みかけだったらしい本に視線を落とす。
    色違いの瞳が小さな火のゆらぎを取り込んでゆらゆらときらめく様を眺めてから、やがて狼もテーブルに積まれた本の一冊に手を伸ばした。
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