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    ebizou_1127

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    容植 01

    中華時代劇あるあるの1つ、幼い頃の約束。
    丁容様がちび汪植たんと宮中で出会っていたとしたら?
    二人が交わした、小さな約束。

    (ふせったーに出したものを移植しました)

    #成化十四年
    14thYearOfChenghua
    #容植
    toleration
    #汪植
    wangShik
    #丁容
    dingRong

    容植01 约定汪植が、特別の計らいで貴妃様付の侍従となって以来、初めての夏を迎えようとしていた。


    侍従の勤めと内書堂での勉学に明け暮れる生活を送っていた汪植は、このところの暑さで睡眠も浅く、体調は思わしくなかった。
    しかし、今夜は陛下が貴妃様の宮殿へお渡りになる予定で、その準備の為に急いで宮殿へ戻らなくてはならず、迷路のような宮城の中を、筆記具と書物を抱えたまま、急ぎ足で歩いていた。


    いつも目印にしている大きな松の木の所までやってきたその時、黒い小さな何かが、ジジジッと音を立てて飛んできて、汪植の帽子に当たった。


    「ひゃぁっ」


    びっくりした汪植は、思わずしゃがみ込んでしまった。

    目の前の地面を見ると、蝉が裏返しになってその脚をジタバタさせていた。


    「蝉…」


    思わず手を伸ばして、ひっくり返っている蝉を掴もうとした時、背後に誰かの気配を感じた。


    「お待ち下さい」


    その柔らかい声の方向を振り返ると、背の高い細身の人物が立っていた。

    西日を背に受けているので、顔は良く分からない。

    帽子の形からして、どうやら太監らしい。


    「その蝉をどうなさるおつもりですか?」


    ひょろりと背の高い太監が、優しい声で尋ねた。


    「…帽子に当たって…びっくりしただけです」

    「では、私が捕まえてもよろしいですか?」


    汪植がほんの小さな子供であることは分かっている筈なのに、その太監は丁寧な口調を崩さない。


    「捕まえてどうするの?漢方薬にでもするのですか?」


    まだ生きている蝉が急に可哀相になった汪植は、少し責めるような声音になってしまった。


    「いいえ、本来ならそうするべきでしょうけれども…私は最期までこの蝉に生命を全うしてもらいたいだけなのですよ」


    太監はそう言って、汪植の足元にいた蝉を素早く掴むと、松の枝にそっと載せてやった。

    ふと、帽子が汚れていないかどうか気になった汪植は帽子を取り、蝉が当たったと思われる場所を確認した。

    よかった、汚れてはいないようだ。

    早く戻らなくては。

    汪植が立ち上がろうとしたその瞬間、目の前がぐにゃっと歪んだ。

    立ちくらみだ。

    間の悪いことに、まだ帽子を被っておらず、そのまま地面に頭を酷く打ちつけて、倒れてしまった。


    「大丈夫ですか」

    「大丈夫…」

    「大丈夫じゃないでしょう?急いでいたのではありませんか?どちらまで戻られるのですか?」

    「万貴妃様の…」

    「分かりました。さぁ、私の背中に」


    そう言うと、土が付いてしまった顔と髪を掌でさっと拭い、有無を言わさず汪植を背負って、歩き出した。


    「ごめんなさい、ごめんなさい」


    汪植は申し訳なくて、何度も詫びた。


    「いいんですよ。それよりも蝉の話をしたいのですが、聞いてもらえますか?」


    その太監は、汪植の返事を待たずに、蝉の羽化がどれだけ美しく神秘的であるかを熱心に話して聞かせ、その話は李商隠の詩「蝉」にも及んだ。

    詩の解釈はほぼ汪植と同じであったが、一箇所だけ汪植とは違う所があった。

    【蝉は露を飲みて食わず】と言われ、清廉潔白な生き物とされているが、実は樹液を吸って生きているので、何をもって清廉潔白とするのかは、正に本人次第ではないか、と言ったのだ。

    汪植は、内書堂で受けた講義での解釈を、そのまま飲み込んでいた事を恥じた。

    自分の名を名乗り、その太監の名を尋ねたが教えてはくれず、その代わりにと、ひとつだけ約束をしてくれた。

    「来年の夏、一緒に蝉の羽化を見よう」と。



    その後、礼を言おうと何度かあの松の木の近くへ行ってみたが、それらしい太監に会うことは出来なかった。

    諦めきれなかった汪植は、蝉の声が少なくなってきた晩夏、再び松の木へ行った。

    精一杯背伸びをして、出来るだけ高い場所にある松の枝に、


    「次の夏、貴方と約束をした蝉の羽化を一緒に見たいです」


    としたためた文をくくり付けた。



    次の夏も、その次の夏も、やはりあの太監には会えなかったが、あの背中で聞いた声と、その体温に安堵したことはいつまでも心に残っていた。

    それから数年が経ち、汪植は西廠提督を拝命し、何人かの候補者から副官を選ぶ事になった時、全員に同じ質問をした。


    「李商隠は、蝉に何を託したと思う?」


    皆、判で押したように、こう答えた。


    「清廉潔白な生き物である蝉に託したのは、己の不遇と恨みです」


    しかし、丁容だけが


    「蝉は露を飲みて食わずと申しますが、実際は樹液を吸って生きています。己の不遇を嘆いているのではなく、全ては心掛け次第だということを託したのではないか、と個人的に解釈しています」


    と答えた。

    …あの太監と同じように。




    「お前があの日の太監なのか?」


    と丁容に問い質せば良いだけなのに、汪植は尋ねようとはしない。

    丁容もまた、あの日の小さな子供が汪植であることを知っているのに、その話をしようとはしない。

    ただ二人は、夏の始まりの夕方や明け方になると、西廠の中庭や裏庭の木の側へ行き、何も言わずにしゃがみ込んで、じっと蝉の羽化を眺めている。

    ただ、それだけのこと。
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