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    yuyuoniku

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    yuyuoniku

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    現パロ高校生兼さんとフォロワが恋愛してるとこ見たかった

    無題和泉守兼定はよくモテる。
    歳の近い女子から好意を持たれるのはもちろん、老若男女問わず、地域でも学校でもアルバイト先でも慕われ、好かれている。

    どんなところが皆を惹きつけるのだろうか、それはやはり彼の人柄だろう。
    天真爛漫で親しみやすく、気骨があるものの自分が悪いと思えばきちんと謝ることができる素直なところもあり、時々見せる悪戯な可愛らしい一面も彼の魅力だ。
    もちろん真っ直ぐ伸びた健やかな肢体も、冬の透明な夜空に打ち上げた花火の灯りが映ったような美しい艶のある長い黒髪も、ギリシアの石膏の彫刻のように整った顔も、縹色の澄んだ瞳もひとつひとつが彼の素晴らしい魅力ではあるが、人柄こそが彼のいちばんの美点だろう。
    気が短くて、しょっちゅう喧嘩をすることすら彼にはチャームポイントになる。



    高校2年生の秋の放課後、和泉守は3階の西の踊り場にいた。
    今朝、下駄箱の中に入れられたコスモス色の淡い便箋に、「放課後、3階西の踊り場で待っています」と丸い薔薇の実のような小ぶりな字で書かれていたからだ。

    この日 和泉守は部活の予定はない。
    この後18時から始まるバイトや、今日返ってきたテストの結果を反芻したりしながら、白砂が西日を眩しく反射する明るい校庭を窓から眺め、手紙の主を待った。
    校庭では野球部の生徒たちが百足のように足を揃えて走っている。統率が取れていて、小気味良い足音と掛け声はまるで合戦場へ赴く兵達の勇ましい歌に聞こえる。
    「百足脚 轟き足の 大行進 」
    また良い句を詠んでしまったと満足げに微笑んだ。
     
    和泉守は時折、野球部に入った自分の姿を想像する。きっとプロからも声が掛かるような素晴らしい選手になっていただろう。筆記体で颯爽と色紙にサインをする姿が思い浮かぶ。オリックスのユニフォームなんか似合うのではないだろうか、ヒーローインタビューを受ける妄想をするとニンマリとした良い気持ちになる。

    2年生の2学期にもなると学校生活には慣れ、部活がない1日は気の緩んだ少し退屈なものになっていく。
    最も、そんな時は勉学に励めば良いのだが、和泉守はあまり机に齧り付くようなことは好きではない。
    国語、は まあ好きだ。本を読むことは嫌いではないし、言葉の旋律を楽しめる俳句などは特に。
    が、和泉守が好きなのは湧き上がる感情を、なんとなく五七五の形にすることで、細かい難しいことを聞くと、子守唄を聴いた時のように瞼が重くなってしまう。
    他の科目も友人たちの協力や教師からのお情けで回避してきているものの、一歩間違えば留年の二文字がちらつくし、事実、今日返ってきたテストの結果もあまり良いものではなかった。
    「国語と歴史だけでも之定に頼るか…」
    隣町に住む、進学校へ通う従兄のことを思いながらぼーっとしていると、後ろから「和泉守くん」と呼ばれた。



    声の方を見ると、話した記憶はあまりないが、確かバレーボール部で 友人も多く 年相応に賑やかなクラスメイトのひとり、モブ川が立っていた。
    「手紙、あんたか」
    「うん」

    先ほど部室からわざわざ持ってきた竹刀の入った袋を握る手がふわっと緩む。
    コスモス色の淡い便箋に薔薇の実の様な文字、だが、もしかして果し状かもしれないと警戒したのは杞憂であった。

    「なんか用か?」と聞く。
    果し状以外でこういう時、何を言われるかは大体が予想つく。
    一寸間が空いて、モブ川はピンと張り詰めた細い糸を弾いたような緊張した声で、「和泉守くんが好きです」と言った。

    (やっぱり)
    予想は当たったが、素直に喜べない。今どんな顔をしているか、不安になって頬に手を振れる。
    和泉守の様子を気にすることもなく、モブ川は「入学した時から好きだった、部活でがんばってるところもかっこいいし、授業中寝てるのに先生に当てられても堂々としているところもかっこいいし、誰にでも優しいところがすごく素敵で尊敬している。あなたとお付き合いできたら嬉しい」と一息に話した。

    モブ川の"告白"を聞いている間、和泉守は必死に思考を巡らせていた。
    今までの人生で、このように好意を伝えられたことは何度かある。
    だが全てままごとの延長線上のものだと思っていた。

    しかしモブ川の瞳を見るとどうだろうか、今までのそれとは異なる、どうもままごとではない、真剣な様子が伺える。身体や声は少しだけ震えているが、瞳には揺らぎがない。

    確かに自分はかっこいい自覚があるから誉められたことは純粋に嬉しい。
    でも、付き合うとはなんだ、好きとはなんだ、今の自分は部活が一番大切で、尊敬している先輩の長曽祢虎徹のように剣道にも仕事にも恋人にも全てに全力を出せるかと言われれば答えは"否"
    だから、彼女のこの真剣な想いに応えることはできない、適当に話を合わせて付き合うなんて不誠実なことはできない。
    そう思うと沈黙を破る和泉守の言葉は「ごめん」だった。

    モブ川は、緊張の糸がすっと緩んだようになり、さっきまでこちらを見つめていた明るい落葉色の瞳をゆらゆら潤ませ、小さく息をしたのち「ううん、大丈夫、和泉守くんは悪くない。聞いてくれてありがとう」と先ほどより声を震わせ、少し笑って言った。
    我に返った和泉守は右耳のピアスを触りながら、しどろもどろに「でもあんたの気持ちはすごく嬉しい、ありがとう」と声をかけることが精一杯であった。



    4時間のアルバイトを終え、仲間と少し談笑して、23時に帰宅する。
    少し散らかった部屋に寝そべると、放課後の出来事が思い浮かぶ。
    「好きってなんだ…」
    天井の"ルパパト"のポスターに向かって呟いても返事はない。
    今来、ニチアサを人生の教科書としてきた和泉守だが、ニチアサの恋愛は現実のものとは違うことに悟ったのは初めて女子に告白された14の頃。
    詳しいことは記憶から掻き消したので覚えていないが、それは和泉守兼定少年の輝かしい日々番付の最下位を冠するほど不名誉な黒歴史でもある。

    「はあ……」
    自分でも驚くほどでかいため息を吐きながら、「姉から借りてきた!」と押し付けてきた部活仲間の加州清光おすすめの漫画を手に取りぱらぱらとページを捲る。
    男女の恋愛模様と青春が描かれたものだが、生まれてこのかた一度も恋をしたことがない和泉守にはいまいち共感ができず、かれこれ1週間、1冊も読めないでいる。
    「清光、すまねえ…」
    手を合わせ、シュウウエムラと書かれた紙袋に漫画を丁寧にそっと戻す。

    「恋心 わかんねえなあ チャーハン食いてえ」
    字余りしながら、夜食を食べに和泉守は部屋を出た。



    月日は流れ、和泉守はまた何人かに"告白"をされた。
    モブ川とは別のクラスメイト、隣のクラスの女子、知らない1年生、バイト先の女子大生、練習試合で一緒になる学校の女子剣道部員、どのひともモブ川と同じように真剣な瞳をしていた。
    もしかして14歳の時から今までされた"告白"も同じ瞳だったのかと思うと、罪悪感で心がチクチクして、気が付けなかった自分に腹が立って、和泉守は何かに揺さぶられているような気になった。



    2学期が終わり、なんとか追試を免れ、冬休みは 仕事で新年の挨拶に行けない両親に代わり、ひとりで隣町の従兄の歌仙兼定の家へ行くことになった。
    住まいも歳も近いものの歌仙兼定は、一つ年下の和泉守のことを子供扱い、というかほんの少しだけ甘く見ているような気がするので、和泉守はできるだけ会いたくないと思っている。
    実際、歌仙兼定は理数系以外の勉学はほぼ完璧で、特に美術の才に秀でており、茶道と華道は他人に教えるほどの腕前らしい。
    美術系の大学への進学がもう既に決まっており、悠々自適で雅な冬休みを送っていると母親から聞いた。
    「俺が良い勝負をできるのは喧嘩とかっこよさと数学ぐらいかもしれねえなあ」
    車窓の外の冬の重たい雲に一筋射す美しい光から笑われているような気持ちになって、和泉守は縹色の瞳を吊革広告にいそいそと移した。



    歌仙兼定の家に着くと、玄関で歌仙が出迎えた。
    「久しぶりだな和泉守、明けましておめでとう」
    「明けましておめでと、之定も元気だったか」
    「しばらく見ないうちにまた背が伸びたんじゃないか」
    「之定は…そんな変わってないな!痛ッ」
    身長のことを言うと歌仙から"ノサダパンチ"を喰らうのを忘れていた。新年初のノサダパンチ、歌仙から振ってきた話なのに理不尽さを感じる。

    靴を揃えなさいと言う歌仙にへぇへぇと適当に返事をしながら揃えると、側に見慣れない、華奢な品のある靴がきちんと揃えて置いてあることに気がつく。
    「今客人が来ていてね、紹介するよ」と歌仙。
    「之定にも友だちとかいるんだな、痛ッ」
    人見知りで友だちが少ないのは本当なのに、またノサダパンチを食らう。理不尽である。

    冷えた廊下から居間へ通される。
    扉を開くと居間いっぱいに漂う、灯油のストーブ、みかん、焼けたもち、台所の雑煮か何かの美味しそうな料理、冬ならではの暖かい良い香りが溢れてくる。

    しかし例年の歌仙の家とは違う、甘くて透き通った花のような香りもほのかに漂っている。この家の空気から目立っているわけではないが、客人が特別な存在であることがわかる。
    ふっと視線をやると、その香りの主がふかふかのソファに腰掛けていた。


    年の頃は和泉守と同じ17ぐらいだろうか、乙女と称するには落ち着いており、嫋やかで、しかし厳冬の冷たい空気の中佇む雨粒の宝石を湛えた椿の花のように美しく気高いひとだった。

    和泉守の心臓が跳ね上がる、頭の中をぐるぐると言葉が溢れてくるようだがまとまらない。五感が定まらない。
    一句、何か一句、このひとに詠みたい、贈りたい、そんな気持ちでいっぱいになるが、100周回って思い浮かばない。

    そんな和泉守の気持ちを他所に、歌仙はゆったりとした声で「〜〜、従弟の和泉守だ。和泉守、一緒に〜〜〜ている〜〜だよ」と交互に紹介する。
    「こんにちは…」情けない声しか出ない、歌仙が呼んだ彼女の名前も、彼女の挨拶も、何を言っているかわからない、聞き取れない、目も合わせられない、しかし和泉守の口は勝手に適正な言葉を紡いでいくし、顔の筋肉は適正な表情を作っている、多分。
    初めての感覚にわけがわからず混乱している和泉守を置いて、彼女はいつの間にか帰って行った。
    北風に擦られた花びらの音のような繊細な声と、透き通った椿のような美しい姿だけが和泉守の脳裏に焼き付いた。



    家に帰り、冬休みが終わり、三学期が始まった。
    あの日から自分の中の何かが違う、心臓を直接まさぐられるような感覚。
    部活中、陸奥守に「部長様はぼんやりするのに忙しいのぉ」とからかわれたが、怒る気にならない。

    明らかに様子がおかしいと、心配した堀川国広が「兼さん、冬休みになにかあった?」と聞いてきた。

    堀川は幼い頃から和泉守が面倒を見ている大切な後輩で親友だ。
    通学路でエンカウントするめちゃくちゃ吠えてくるアンドロメダ(近所のマルチーズの名前)から守り、愛らしい見た目から堀川を美少女と勘違いして寄ってくる不埒な輩をぶっ飛ばす。
    和泉守は堀川をとても大切にしており、14歳の頃の黒歴史を唯一打ち明けたのも他でもなく、この堀川だ。
    堀川自身も、和泉守が誰かと喧嘩をすれば必ず味方をし、和泉守の時間割を把握して何を忘れても困らないよう2年生の兄、山姥切国広の教科書を持ち歩いているくらい和泉守を大切にしている。

    これほどお互いを思いやる親友同士では、こんな大変な隠し事はできない、そう感じた和泉守は、通学路に落ちた小石を長い脚で蹴飛ばしながら、ぽつり、ぽつりと冬休みの出来事を語った。

    「兼さん、それって恋なんじゃないかなあ」
    「は」
    思わず腑抜けた声が出る。
    たしかに今までとは様子が違ったが、他人から恋と言われると改めて驚かされるというか…
    「一句贈りてぇってなんのが恋なのか?」
    「うんうん、きっとそう思うよ」



    堀川を家まで送り、自分も家に帰り、夕飯を食べて風呂に入る。
    もくもく昇る湯気を見ながら、「これが恋」と反芻する。
    「『抱きしめて、雨』みたいなやつってことか」
    カラオケの十八番である歌の歌詞を口ずさんでみる。
    「君の目がユラユラユラ・ヒラヒラ 俺じゃない誰かを探す…」
    もしかしてこれは自分のことを歌っているのではないか、と思えてくる。

    いやまさか、自分の恋はこんな悲しげなわけがない、そう笑おうとした瞬間。
    頭の中に稲妻のような天啓が撃ち降ろされた。
    「ひょっとして、之定の彼女だったのか…?!」
    あの人見知りの歌仙に女友だちがいて親しく会話しているところが想像できないし、従弟の自分に紹介しておこうかというほどの仲だし、よく考えたらあの椿のような嫋やかな乙女は美しい歌仙兼定にとても似合っている。
    とんでもないことになった、そう気付くと、のぼせてしまったことも相まって、和泉守は、なにも考えられずに頭を抱えながら呆然と、檜の風呂椅子に腰掛けることしかできなかった。



    翌朝6時半、昨夜湯冷めして風邪を引いたのか、鼻を啜りながら和泉守は家の近くの神社に来た。
    「ブェーーーショッ!!!ふぃ〜…」
    豪快なくしゃみには定評がある。
    大寒の夜明け前の冷たすぎる空気の中 立ち塞がる鳥居は、人を寄せ付けない厳かさがあり、彼の他は誰もいない。
    軽く一礼して、何百段あるかわからない石段を駆け登る。
    露に濡れた石段に滑りそうになりながら、躓きながら、登りきり、ニノ鳥居を潜った。

    「はあ、はあ、」
    日々鍛えているとはいえ、鼻詰まりを抱えて石段を駆け上がるのはさすがに息が上がる。
    身体も熱く、額に汗が滲むのがわかる。
    大きく深呼吸をして肺に空気をたっぷり含む。刺すような冬が、肺の中で暖かく飼い慣らされていくように感じる。

    次に一礼して、手水舎の柄杓を右手に取る。左手を清める、持ち替えて右手を清める、また持ち替えて口を清める、両手で持ち手を清める。
    肌に触れる冷たい水が火照った体に心地よい。

    そして大きな鈴をガラガラと鳴らし、ポケットの中の家中から掻き集めた5円玉を10枚と50円玉を1枚、ジャラジャラと入れ、剣道で対戦相手とまみえるときにするよりも深々と2回礼をし、大きな手で2回柏手を打つ。
    社に向けて、日の出前の傾光性の花のように手を合わせ 祈りを捧げる和泉守の姿は驚くほど神聖で、知らない人が見ればきっと彼を神と見紛うほど、崇高であった。
    口の中でモニョモニョと何かを唱える。
    幼少より、和泉守は何かをやると決めた時、決意を表明するため この小さな神社へ参拝することを習慣にしている。
    手慣れた参拝は恐らく今までしてきた決意の数々の表れだろう。

    「よし」
    と、もう一度社に礼をし、決意に満ちたりた力強い足取りで石段を降り、和泉守は朝練へ向かった。



    「兼さん、椿の君のことなんだけど」
    気持ちを打ち明けて以降、堀川は自主的に独自の交友関係を駆使して和泉守の想い人(仮称:椿の君)の情報を集めている。
    「あぁ、ありがとな…」
    他人に頼って情報をコソコソ集めていることに情けなさを感じつつも、歌仙の恋人である可能性がある以上は無闇に刺激することはしたくないし、諦めるくらいなら泥臭く努力していこうと決意した以上、グッと我慢してありがたく情報を享受する。
    幸いにも椿の君と、堀川と同じ塾に通う篭手切江は同じ学校で、篭手切の親戚の五月雨江は椿の君の妹と懇意であることから、歌仙ルートの情報に頼らなくても良いことは救いだった。
    しかし篭手切情報では椿の君は普段学校では仲の良い女子生徒と過ごしているが、放課後は所属する部活が同じ歌仙兼定と一緒にいるところがよく目撃されることが明らかになってしまった。

    椿の君が歌仙と親しいという話を聞いた時、和泉守はほんの少しだけ落ち込んだ。
    しかし相手が歌仙でも負けたくない。
    椿の君を振り向かせるためなら、テストは全部100点取るし、美術だって努力するし、花も生けるし茶だっていくらでも飲んでやるし、数学なら120点取るし、喧嘩もかっこよさも負けない、そんな気持ちでとりあえず、電話で歌仙に自分から「勉強教えてくれ!」と申し出た。
    テストの点を上げるのも、敵(といっても従兄だが)を知る意味でも、椿の君との接触の機会を得るためにも、和泉守の中ではこれが一番最善の策だった。



    3月の初め、正月ぶりに歌仙の家に行くと、卒業式を終えた歌仙が薄縹色の瞳を輝かせながら卒業祝いの茶器を眺めていた。
    「和泉守が勉強を教えてほしいなんて珍しいことがあるものだな、想い人でもできたのかい?」
    茶器を愛おしそうに撫でながら、歌仙が言う。
    「いるって言ったらどうなんだよ」
    もしかしてこちらのことを全てお見通しで、煽られているのか、と疑心暗鬼になりつつ、平静を装って答える。

    「理由はなんであれ、変化を求め続けるのは美しいことだよ」
    「はぁ?」
    「まだわからないだろうね」
    「いいからこれ、教えてくれ」
    正直 歌仙は教える時の言葉選びが下手くそだが、時間をかけて丁寧に説明してくれるので 古典への苦手意識が若干和らいだ気がした。

    部活とバイトの合間を縫い、また歌仙の家を訪れるかもしれない椿の君との接触を狙いつつ、勉強もしつつ、歌仙とは時折つまらないことで喧嘩をしつつ、3月は慌ただしく過ぎてゆく。

    以前はあまり会いたくないと思っていた歌仙だが、実際しょっちゅう会うようになると、素直ではないもののひたむきで真心のある青年であることがよくわかる。雅だとかいいながら茶器を愛でているが、両親には内緒でヴィジュアル系のバンドの曲ばかり聴いているということをこっそり和泉守だけに打ち明けてくれた。
    意外さに笑いそうになる気持ちを抑え「まあ、いいんじゃねえの、確かにかっこいいし」と言うと茶器を愛でる時と同じ瞳で「そうだろう、そうだろう!」と桜吹雪を舞わせているような喜び方をしていて、自分と少し似ているなと和泉守は思う。
    椿の君を諦めることはできないが、和泉守は歌仙のことを前よりずっと良い奴だと尊敬できるようになった。



    3月下旬、春休みも終わりに近づき、桜の花も散り始める頃、その日は突然訪れる。

    昼下がり、歌仙から日本史のながーーい講義を受けていると「こんにちは」と玄関からあの声がした。
    花びらの擦れるような可憐な声、彼女だ。

    ずっと待ち望んでいた再会なのに、言葉がうまく出てこず、次に会ったら一句送ると堀川に向かって意気込んでいた自分を情けない、玄関へ向かった歌仙に取り残され、和泉守は思わず立ち上がってその場をぐるぐる回る。
    玄関から廊下、だんだんこちらに近づいてくる足音、話し声、開かれる扉。

    「和泉守…勉強のしすぎでおかしくなったのかい?」
    「いや、気分転換に回ってるだけに決まってんだろ?!」
    だいぶ苦しい言い訳に、歌仙の後ろにいる椿の君もくすくすと笑う。

    勉強は休憩、居間のこたつに椿の君も座った。
    贔屓にしている菓子屋の色とりどりの美しい練り切りを歌仙ひとつひとつ丁寧に並べていく。
    これがかわいい、こっちはきれい、と小さな菓子を子供のようにはしゃぎながら楽しむ様は、正月に出会った厳冬の中佇む気高い椿、というよりは、初春の柔らかさに綻んだ優しげな椿のようで、和泉守は心が暖かく弾むような気持ちになった。

    みんなでおやつの練り切りをいただいた後、椿の君からも勉強を教えてもらう。
    前より近くで見る椿の君は、砂糖で作られた精巧な椿の花のように甘美で優しげで、育ちの良さが滲むようなゆったりとした話し方、やわらかな雰囲気の言葉、聡明で教え方がとても上手いところ、全てが和泉守の心に刺さりまくる。
    暴れ出しそうになるぐらい嬉しい気持ちを抑え、和泉守史上最高に真面目な態度で美術史の話を聞いた。



    新学期が始まり3年生になった和泉守は、最後の大会が迫った部活も、繁忙期を迎えるバイトも忙しくてなかなか歌仙の家に行けずにいた。
    テストの結果が返ってきたので、報告ついでに電話をしてみる。
    「テストの点、20点上がってた」
    「やるじゃないか、僕の教え方が良かったんだね」
    「へぇへぇそうですね」
    世話になったのは事実なのでありがとなとお礼も言う。

    「そういえば、〇〇が会いたがっていたよ」
    「え」
    まさか歌仙から彼女の話をしてくるとは。動揺を必死に隠しながら適当に相槌を打って電話を切った。
    「俺に会いたい…?!」
    嬉しすぎて寝床に飛び込み脚をバタバタさせる。嗚呼なんて喜ばしいことだろうか、天井の蛍光灯が、ニンマリしている和泉守のまだあどけなさの残る少年のような顔立ちをこうこうと浮き彫りにした。



    春が終わり、梅雨入り前のじっとりとした暑さの、強い日差しが若葉を美しく照らすような土曜日の昼下がり、高校最後の大会の予選を来月に控えた剣道部員たちは、和泉守の近所のあの石段の神社に必勝祈願に来ていた。

    部長の和泉守、副部長の陸奥守、加州、大和守、堀川、OBとして時折稽古の様子を見にくる長曽祢も一緒だ。
    和泉守指導のもと全員で参拝を済ませ、絵馬を書く。
    「ねえおみくじ引こうよ」
    「僕、大吉しか引いたことないよ」
    「大和守さん、いつも大吉の番号を選んで引きますもんね!」
    「わしは去年大大吉を引いたぜよ」
    「陸奥守はボールペンで大を増やしてたからなぁ」
    みんなが賑やかにおみくじを引く。

    「番号選べば大吉が出るのか?」
    箱の中をガサガサしながらおみくじを選び、パッと手に取った91番のおみくじを開く。
    「吉、改変前途去 月桂又逢円 雲中乗禄至 凡事可宜先」
    漢文にも強くなったのでなんとなく読める。
    「兼さん、なんて書いてあったの?」
    「やり方を変えて先手を打て、みてえなことが書いてあるな」
    「いいことが書いてあるね!」
    「でも吉だしなあ…」
    思わずずるずるとへたり込む。
    「あっ、兼さん!ここ見て」
    和泉守のおみくじを熱心に読んでいた堀川が、指を指したところには「恋愛 ためらうな」と書いてある。

    「よっしゃあ!」
    さっきまで座り込んでいたのに急に拳を高く掲げ、ガッツポーズをする和泉守の元へみんなが寄ってきた。
    「和泉守、好きな女子がおるがか?」
    「なんか今年入ってからずっとおかしかったもんね」
    別に冷やかされているわけではないのだが、なんだか小恥ずかしい。
    「ダァーーーッ!!!!!!!!!!!!好きなんだからいいだろ!!!!!!!」と和泉守は顔を赤くして咆哮を上げた。

    神社の裏の公園で談笑して、みんなで揃いのお守りを買って、石段を降りる。
    また明日、と口々に皆が家路へ向かおうとする中、和泉守は長曽祢に呼び止められた。
    ばらばらの方向へ散って行く、部員たちを見送り、二人と二人の影帽子だけが残った。

    「悪いな、呼び止めて」
    「いや、問題ねえよ」
    ガードレールに腰掛けながら、最後の大会の決意とか、部長として緊張していないかとか、子供の頃の思い出話をする。
    長曽祢と和泉守は小学生の頃からの長い付き合いで、話は尽きない。
    不意に家族の話になったので「長曽祢さんは、彼女とは上手くやってんのか?」と思わず尋ねた。

    長曽祢には、16歳の頃から付き合っている恋人がいる。不器用で、大切に思うあまり突き放してしまうところがあまりにももどかしく、和泉守は長曽祢を一度殴ってしまったことがある。

    「ああ、仲良くやってるよ」
    時々喧嘩もするけどなと、頬を赤らめながら言う長曽祢は、やはり幸せそうで羨ましくある。
    長曽祢の恋人は今県外の大学へ出ているが、夏祭のころには帰ってくるらしい。

    「和泉守、これ」
    「なんだ?」
    差し出された小さな紙の袋を開けてみると、桃色の恋愛成就と書かれたお守りが入っていた。

    「長曽祢さん…」
    「お前にはあの時殴ってもらったからなあ」
    「やりすぎたとは思ってるって、悪かった」
    ふたりで笑い合い、礼を言いながら、立ち上がる。
    「お前なら全部上手くやれるよ」
    「ありがとな、長曽祢さん」
    蝉時雨の降り注ぐ蒸し暑い夕方、もらったお守りをぎゅっと握りしめて、和泉守は家路に着いた。
    長く伸びた色の濃い影帽子が、力強くアスファルトを踏み締めた。



    予選の大会を順調に勝ち進み、和泉守たちは無事に地方の大会まで出場できることが決まった。
    夏になってから歌仙にも、椿の君にも会えていない。歌仙に対しての対抗心も変わらないし、椿の君のことを忘れたことは一時もなかったが、おみくじの通り 先手を打つといえど、焦って部活も恋愛もおざなりになっては良くない と、和泉守は虎視眈々と好機を狙っていた。

    そわそわしながら歌仙に電話をかける。椿の君の近況をさり気なく聞いてみるいい感じの切り出し方のシミュレーションは済んでいる。
    2回呼び出し音が鳴り、あの柔和な声が聞こえた。
    「もしもし」
    「之定、久しぶりだな」
    「久しぶり、期末テストはどうだった」
    「去年の2倍の点数だぜ」
    「それはすごい」
    ふふ、と歌仙の品の良い笑い声が聞こえる。
    「之定は大学どうなんだ」
    「上手くやってるよ、そういえば幼稚園で一緒だった古今と再会した」
    「古今!懐かしいなぁ、昔地蔵と4人でバトルロイヤルごっこしたよなぁ」
    「その話はもういいだろう」
    「悪かったって」
    「…何かあったのかい」
    歌仙は脳が筋肉でできていると思うことがよくあるが、ひとの機微には聡い。

    「いや、あの、県大会で優勝してさ、地方大会まで進めることになった」
    「文武両道ですごいじゃないか、それでこそ兼定の一族だ」
    「再来週の土曜日なんだけど、」
    「応援に行くよ、弁当が必要だろう」
    「ありがとな」
    和泉守の好物のエビフライを入れようかと、嬉しそうに話していた歌仙が、何かを思い出したように、あっ、と声を上げた。

    「〇〇も誘っていいかい?和泉守に会いたがっていたから」
    「ナッ?!別にいいけどよ…」
    モニョモニョと口籠るが、内心望んだことであったため声に嬉しさが出てしまう。
    しかし、歌仙と椿の君のデートの場に俺の地方大会が選ばれるのか、と思うと微妙な気持ちにもなる。

    会場や時間を伝えて電話を切ってふぅと一息つきながらごろりと横になった。
    「まあここでいいところ見せれれば之定にも勝てるかもしれねえな!」
    天井のルパパトを眺め、自分を奮い立たせてみる。相変わらずなにも返事はないが。
    何はともあれ椿の君とまた会えるのが嬉しい。高揚感で その夜は全く眠れなかった。



    地方大会まで1週間を切り、稽古は激しさを増す。連日朝早くから夜まで、部活が休みの日は昔世話になっていた道場に顔を出してまで、和泉守は剣道に励んでいた。

    陸奥守が「ちっくとは休まんと身体を壊すぜよ」と声を掛けてきたが、休んでいる暇はない。
    椿の君に見合う今よりもっとかっこいい男になると社の前で決意した以上、宿題だって妥協したくはない。
    厳しい稽古と宿題、バイトの重なった疲労がピークに達した頃、和泉守は怪我をした。

    道場で激しく打ち合いしている時、後輩の中学生にぶつかり、彼に怪我をさせないように咄嗟に庇った結果、床についた右手首を捻ってしまった。
    幸いぶつかった中学生に怪我はなく、稽古中は痛みもなかったため、その日はそのまま稽古を続けたが、家に帰ってから酷く熱を持ち、ズキズキと痛むようになった。

    保冷剤で冷やし、同じような怪我をしたときに堀川からしてもらったテーピングを思い出しながら試みる。
    右手のテーピングを左手だけでするのは本当に苦労する。
    17年間生きてきて、ずっとやってきた剣道で結果を出して、好きなひとに良いところを見せられる、そんな大切な時期に怪我をする自分が情けなくて悲しくて、こういう情けないところが無いのが椿の君が和泉守でなく歌仙を選んでいる理由なのではと更に落ち込んでくる。
    「はあ……」
    でっかいため息をつきながら天井のルパパトを眺めているうちに和泉守は眠ってしまった。



    和泉守が厳しい稽古に励んでいた頃、歌仙兼定は電話をしていた。
    「もしもし、急にすまないね。暑い日が続くけど元気にしてたかい?………ああ、そうか、それは良かった。先生も元気か、………うん、また顔を出しに行くよ」
    電話の相手は和泉守の想い人、椿の君だ。

    「和泉守が、剣道の地方大会に出るんだ、君も良かったら応援に来てほしい。…………ふふ、和泉守も君が気に入っているようだからね、ニチアサの話もしたらきっと喜ぶよ」
    ではまた土曜日に、と電話を切る。

    「陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆへに みだれそめにし 我ならなくに、と言ったところか……手のかかる子達だ」
    歌仙はゆったり微笑み、外の虫の聲に耳を傾けながら、透明なガラスの風鈴をちりんと揺らした。



    地方大会当日、和泉守は体育館の人気のない通路のソファでテーピングをしながらウォーミングアップの時間を待っていた。
    手首の腫れは治ったが、まだ本調子ではない。
    「着いたのが右手で良かったなあ」
    和泉守は自分に言い聞かせるように呟いた。

    テーピングも、コツを掴んだのでひとりでもなんとか巻けるようになった。
    最初に必要な分を切って、形を整え、ぐるぐると固定する。

    「っあれ?おっかしいなあ…」
    それでも上手くいかないことはあるもので、ブツブツいいながらもう一度テープを切っていると、和泉守くん、と不意に名前を呼ばれた。
    聞き覚えのある花びらの擦れる美しい声、都合が良い時に聴こえる幻聴かと思ったが、彼女はいた。

    「ワァッ」思わず立ち上がり、ハサミもテープもボロボロと落とす。
    椿の君も わぁ と言いながら拾ってくれる、ハサミを拾う時、手が触れ合った。
    「ごめん」と思わず謝る。
    和泉守が耳の先まで赤くなっていることに、節電で薄暗くなっている廊下のお陰で気付くことなく、椿の君は心配そうな顔をして、テーピングを巻く手伝いを申し出てきた。

    怪我をしているところを見られることは情けない気持ちでいっぱいだが、好きな人に触れてもらえるというのはとても幸福なことで、和泉守は内心躍り上がりそうなぐらい喜んでいた。心臓が炭酸の強いメロンソーダみたいにバチバチしている。
    「之定は?」
    どうやら歌仙は長曽祢と話をしているらしい。
    そういえば長曽祢の兄弟たちは歌仙と同じ学校に通っていたことを思い出す。
    ささやかな世間話をしたが、緊張から会話は続かず、すぐに二人の間には沈黙が漂った。

    テーピングが終わり「ありがとう」と顔を上げてお礼を言う。
    椿の君の冬の夜空のような濡れた美しい瞳と視線がぶつかる。
    なんだかまだ見てはいけないような、清らかな御神体を見てしまったようなような気持ちになり、じゃあ、行くから…と立ち上がって行こうとした瞬間、胴着の袖をぎゅっと掴まれた。

    びっくりして硬直していると、椿の君が、これ、と言いながら和泉守の手に何かを握らせると、ぺこりと一礼して、鮮やかな青色のスカートの裾を翻しながら走っていってしまった。

    椿の君の残り香につつまれて、ぽかん、と立ち尽くす。
    はっと我にかえり、恐る恐る手を開いてみると、目の覚めるような縹色の縮緬でできた小さな美しいお守り袋が春に食べた 練り切りのようにちょこんと座っている。

    「へへ…」
    思わず笑みがこぼれた。
    好きな人から貰った初めての贈り物だ。
    胴を外して、裏側の中輪に貰ったばかりのお守りを丁寧につける。
    三つのお守りが仲良くぶら下がっているのを見て、和泉守は心を躍らせながら会場へ向かった。



    試合が始まる。板間の上を踏み込む音、細かい足捌きから生まれる空気を含んだ袴の唸る音、竹刀が擦れる音、鍔迫り合いの不協和音、選手たちの懸声、有効打突のパンと弾けるような乾いた音はとても小気味良く、聞いていて清々しい気持ちになる。

    和泉守は試合中、面金から覗く椿の君が真剣に自分を応援してくれる様に高揚感を抱きながらも一戦一戦を冷静に勝ち、難なく午後の準々決勝まで進むことが決まった。

    和泉守の剣道は、どちらかというと激しく打ち合い相手を押し倒すような勢いの、撃剣のような荒々しいもので、相手に挑発されたらすぐに乗ってしまうところなどは長曽祢によく注意されていたが、今年の夏からはおみくじの"やり方を変えて先手を打て"を意識して、凪のように静かに相手の動きをよく見て出端を挫くような、一撃を確実に刺す剣道に変えた。
    短い期間でこれだけ技術をモノにできたのは、仲間たちのおかげであった。

    午前の部を無事に終え、ほっと安堵しながら部員全員と長曽祢、歌仙、椿の君で豪勢な重箱や、差し入れのたくさんのお菓子を囲む。

    重箱の中身は和泉守の好きな食べ物でいっぱいだった。エビフライ、唐揚げ、ハンバーグ。
    おひたしや煮物等旬の野菜をふんだんに使った華やかなもの、歌仙の家ではあまり見かけないようなポテトサラダも入っていた。
    「之定!!この明太ポテトサラダも!!めちゃくちゃうまい!!!!卵焼きの味付け変えたのか?チーズ入ってる!!!」
    口いっぱいに頬張りながら歌仙の方を見る。

    「口に物を入れながら喋るんじゃない…」と眉間に皺を寄せる歌仙、その皺はエベレストのクレバスより深いだろう。
    「それは〇〇が作ってくれたんだ。黙って味わって食べたらどうだい」

    「すごい!兼さんしょっぱい卵焼きも明太子も大好きだもんね!」
    「ヴァ、モ"..!ヴ」
    「最高にうまい!一生食べたい!言いゆーぜよ」
    堀川と陸奥守の二刀開眼に挟まれて、涙目になりながら頬張る和泉守を、椿の君は頬を花の蕾のように柔らかく色づかせながら、ふんわりとした微笑みで見つめていた。

    午後の部、準々決勝での和泉守は大分無理な戦いをしたが、なんとか引き分けに持ち込み、準決勝では相手から面を2本取って勝ったものの、団体としては準決勝敗退という結果になった。

    「良い夏だったね」
    「うん」
    安定たちの穏やかな潤んだ声を聞きながら、和泉守も会場を後にした。



    帰りの支度をしていると、また、和泉守くんとあの声がする、椿の君だ。
    テーピングをしてもらった人気の少ないソファまで移動して、忘れ物をしたとか適当に理由をつけ、荷物を見てもらうように頼み、自販機へ行く。

    自販機前には長曽祢がいた。
    「和泉守」
    「長曽祢さん」
    「飲み物か?」
    「ああ…女子って何飲むんだ?」
    「プリンシェイクは間違いないだろ」
    「根拠は?」
    「うちのが好きなんだよ」
    長曽祢は恋人の話をする時、変にムッとした顔をしようとするので、教科書の近藤勇の写真にそっくりな顔になる。

    長曽祢と相談して、プリンシェイク、ミルクティー、麦茶、コーヒー、ピーチネクターの5つを選ぶ。
    いいと断ったのに、準決勝のご褒美だと言いながら奢られた。
    「ほれ、これだけあれば"椿の君"も好きなの選べるだろ」
    「長曽祢さん...!」
    和泉守は長曽祢のこういった男気溢れるところを本当に尊敬している。
    「腹壊すから一気に飲むなよ、集合時間は16時だからな」
    そう笑って言って、自分のプリンシェイクを振りながら長曽祢は去って行く。
    ありがとう!と礼を言うと、プラプラと手を振って、機嫌が良さそうに角を曲がっていった。

    買ってもらった飲み物を腕いっぱいに抱えて、ついでに売店でパピコも買って、急いで戻る。

    「悪い、待たせたな」
    なんだかいっぱいガチャガチャ抱えて走ってくる和泉守を見て、椿の君は驚いたような笑顔を向けた。
    「どれがいい」と差し出すと、椿の君は遠慮がちにミルクティーを選んだ。
    和泉守はコーヒーを選んだ。

    カプッと缶を開ける音が廊下に響く。心臓がバクバク言ってる音が聞こえないようにコーヒーをごくごく飲む。
    「苦ッ!!!!!!!!」
    ゲフゲフと咽せると椿の君がハンカチを貸してくれて、赤い魔法瓶の水筒に水を注いで差し出してくる。
    「ごめん……」
    ハンカチを借り、水まで飲ませてもらって、情けないところをまた見せてしまったと、がっくり肩を落とす和泉守は、叱られた犬のようで、情けないというよりは哀愁を纏っている。

    「パピコ、あんたも食べるか?」
    ぢゅーぢゅーパピコを吸う音だけが響く。

    和泉守のぢゅーぢゅーが止まる頃、沈黙を破ったのは、椿の君の言葉だった。
    すっごくかっこよかった、和泉守のまっすぐな人柄が表れたみたいに美しい剣道だった、もっと好きになった。
    他にもたくさん言葉をもらったのに、好きな人が自分を見てくれていたこと、かっこ悪いところも見せたのに、なんか聞き間違えかもしれないけど好きって言われたことに驚きすぎて、和泉守の脳は処理がしきれない。
    「卵焼きと明太ポテサラすっごく美味くって、テーピング巻いてもらったから全然いたくなかったし、お守りもらったからすげえ頑張れて今日のワンピースも似合ってるし来てくれて本当に嬉しいし俺も好きだし…」と和泉守も捲し立てるようにお礼を言うので精一杯で、全てを言い切る頃、ちらと見た椿の君の瞳が冬の夜空の花火のようで思わず見惚れてしまった。

    (なんで言えば良いんだこういう時!一句が出てこねぇ!)
    めちゃくちゃ嬉しいはずなのにもどかしくて、くるしくて、土方歳三の写真みたいな厳しい顔をしてるかもしれない、
    今まで俳句なんていっぱい浮かんできたはずなのに、この数か月間椿の君のことはなにひとつ詠めたことがない。

    遠くから、「和泉守ー!」と声が聞こえる。椿の君も そろそろ行こうと言ってくる。
    (ここで逃したらもう機会がない…!)
    和泉守くん?と椿の君がこちらに寄ってくる、

    「ここで一句!!!!!!」
    静かな廊下によく通る和泉守の声が響く。
    急に大きな声がしてビクッと固まる椿の君、ほんとは、和泉守もびっくりしている。

    「打ち上げで カラオケ行くけど あんたどうする」

    (グアアアアアアーー!!!!!!終わった!!!!!之定にもっと国語習っとけばよかった!!!!!!!!)
    冷や汗がだらだらでる。さっき飲んだコーヒーのせいか、パピコのせいか、腹も痛い。遠くの和泉守ー!がこだまして聞こえる、走って逃げたい、重傷だ。

    麗しい顔に苦悶を通り越して虚無を浮かべている和泉守を見て、椿の君は小さく微笑み、控えめで、しかしはっきりした声で「おぼつかな君知るらめや足曳の山下水のむすぶこころを」と呟いた。

    「おぼつかな…?」
    頭の上にはてなをいっぱい飛ばす和泉守に、椿の君はカラオケ楽しみですと明るい声で笑いかけた。



    歌仙と椿の君とは一旦別れ、重たい防具を引き摺り、ガラガラの電車に乗って、打ち上げ会場の和泉守のアルバイト先のカラオケまでやってきた。
    店長と軽く挨拶をして、部屋に入ると部員たちは緊張の糸が切れたようにソファにどろどろと転がり始めた。
    「はあー悔しかったーー」
    「ほんと、長くて疲れたあー」
    「おんしゃあ気を抜きすぎちや〜」
    「陸奥守さんがいちばん溶けてますよ」
    2年ほどの時間だったが、この面子で剣道ができて本当によかったと和泉守は思う。
    賑わいながらあれこれ食べ物を注文していると、こんこんとノックがして、歌仙と椿の君がやってきた。

    皆で健闘を讃え、乾杯をして、各々が好きな曲をいれていく。
    ミュージカル刀剣乱舞の曲を嬉しそうに聴いている椿の君、流行りの曲を堀川と揃って歌う椿の君、ポテトをふーふーしながら摘む椿の君、加州と化粧品の話で盛り上がる椿の君、気分が良くなってヴィジュアル系な曲を歌いきった後 他の人には内緒にしてくれと懇願する歌仙を宥める椿の君、全てが愛おしくて、自分が歌っている間もタンバリンを叩いている間も、ずっと目で追ってしまう。
    (之定、内緒にしてくれって言いながら手を握るなよ!!!)
    むっすりしながら5杯目のメロンソーダを飲み干す。

    時間が経ち、特に椿の君と会話をすることがないまま、部屋まで来た店長からお前ら21時半だからそろそろ帰れよと告げられ、最後に一曲ずつ歌うかという長曽祢からの提案で各々が曲を入れていくことになった。
    しかし、最後に和泉守が曲をいれようとしたところ、隣の堀川が「兼さんの分は入れたからね!いつものやつ!」とにっこり笑いかけてきた。
    この微笑みはあれだ、有無を言わさないタイプの国広スマイル。

    「いつものってなんだよ…」と残っていた6杯目のコーラ入りメロンソーダをズルズル飲みながら、ちょっとだけ不機嫌な顔で加州の歌う情熱のシンフォニアでしっかりタンバリンを叩き、和泉守の番になった。

    "抱きしめて、雨"の軽快なドラムと、金管楽器の華やかな音、ベースとピアノの踊るような音、これは確かに、いつもの曲だ。
    イントロを聴きながら堀川の方を恨めしげに見る。
    (国広ォ…!)
    今歌うのか、これを。
    堀川がにこにこしながらサムズアップをしている。
    椿の君の方を見る。ぽかんとしている、どうするんだよ知らない曲かけちまったんじゃないのかこれ。
    焦ってマイクを握る手が力む。後ろから長曽祢さんに本気でやれよって言われる。
    なんか近くないか距離。周りからの圧がすごい。
    部屋中が異様な空気になる中、和泉守は歌い始めた。

    (ここからはカラオケの壁のわたし、ュ肉が見た現パロ高校生兼さんとその仲間たちと椿の君ことわたしのフォロワーの幻想です)

    ♬イントロ←ちょっと焦る兼さん、かわいい、フォロワも訳が分かってなくてかわいい

    1番の君だけ〜までは画面見ながら抑えめで歌う兼さん、かわいい
    フォロワは既に死んでるが
    でも、君だけ〜の途中で歌仙から「その程度じゃないだろう"いつも通り"本気でやれ!!!」って早口でブチギレられてヤケクソになる

    2番から兼さんは"いつも通り"の加州仕込みの振り付け有りの抱き雨してくる(歌仙含むほかの子たちも練習してきたので謎に全員で踊り始める、兼さん完璧に踊るけど、内心全員何故踊れるのか焦ってる、ここだけボリウッド)


    恋の雨に刺されて(目を伏せて胸に手を当てる)
    傷つきながら抱くから(手を差し出しつつ瞼をゆっくり上げる)
    離さないよ(ドッカリと隣に座る)
    離れないよ(腰を抱く)
    何を捨ててもいい(画面見てたのにゆっくり目を合わせてくる)
    ↑6コンボ決まってフォロワは死ぬ

    毎 I love you 君だけ で全部指差して見つめてくる、ヤケクソ兼さんはもう照れたりしないのでガン見、もう極、優勝、
    その後はもうどうなったかはわたしの口から語ることはできない。
    とりあえず結婚式には呼んでください…



    【なんかめちゃくちゃ書けなかったけどこういう設定ありました紹介しとくかのコーナー】

    ○椿の君(兼さん推しのフォロワーさん)
    私立の高校通ってる2年生→3年生
    なんかほんと美人、ジルスチュアート似合う清楚な乙女
    小さい時から歌仙と同じ教室でお茶とお花習ってて、歌仙の数少ない女友だちのひとり
    歌仙と一緒の華道部で、委員会もたまたま同じなったり、仲が良い
    美人だし教養あるので近付き難いかと思いきや、計算ごとが苦手だったりちょっと抜けてるところがあってとてもかわいい
    実はニチアサが好きでルパパトが好きで、たまたま出会った和泉守くんもルパパト好きと聞いたので運命感じてしまう、付き合い始めてからは多分デートでヒーローショーとか行くんですかね
    料理上手
    兼さんが大好き‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️

    ○和泉守くん(兼さん)
    公立の高校に通ってる2年生→3年生
    顔もいいし性格もいいし声もいいからとにかくモテる
    ニチアサが大好きで未だにヒーローショーとか行きたくて仕方ない、でも大人なので小さい子に譲るために後ろの方で腕組んで見てるしそれがかっこいいと思ってる、実際かっこいい(ほんとは近くで見たくてウズウズしてる)
    野球も好き、オリックスファン
    好きな食べ物は茶色いものとしょっぱい卵焼きとポテトサラダ
    案外照れ屋というか、情けないところもあるんだけど最後はキチッとかっこよくきめてくるのでギャップがすごい
    カラオケで堕としてくるタイプの男
    兼さん推しフォロワーさんのことがめちゃくちゃ大好き‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️ガチ惚れしてる
    もうカッコ悪いところ全部見せた気がしているので色々吹っ切れて照れもなくなってるし今後がものすごいことになりそう
    全然五七五じゃない俳句読みがちだが、国語の教師陣からはもしかしたら天才なんじゃないかとか思われてる

    ○長曽祢さん
    今はたちぐらい
    長曽祢長曽祢って書くのマジで慣れなくて苦しかった、ほんとごめんね長曽祢さん、、
    高校卒業してすぐに家を出て、フリーターをしながら教育学部のある大学へ通うためのお金を稼いでる
    道場で小さい子に教えるとかのバイトもしてるし、母校の剣道部の練習も見てくれてる、教えるのがうまい!剣道四段
    真面目で不器用で頑固なところがあるけど、兼さんたちとは楽しく年相応にはしゃいだりしててかわいい
    蜂須賀と浦島は中高一貫の歌仙たちと同じ私立に通っているが、長曽祢さんだけは自分が望んで剣道部のある公立の高校に入った、家庭の事情が結構複雑
    今は遠距離恋愛してるけど、長曽祢さん推しフォロワーさんのことをほんとうに深く愛している

    ○長曽祢さんの彼女(長曽祢さん推しのフォロワさん)
    プロットの時点で、この長曽祢さん絶対長曽祢さん推しフォロワーさんの彼氏じゃんって思ってたら、兼さん推しのフォロワさんが「この長曽祢さん長曽祢さん推しのフォロワーさんと付き合ってますよね?!」って言ってくれて笑った
    今は県外の大学に通ってる、控えめだけど案外大胆なところもあって、いっぱいごはん食べるところが長曽祢さんは大好きだって言ってました
    長曽祢さんにとって長曽祢さん推しのフォロワーさんは暖かい陽だまりなのだろうね
    毎年夏祭りで迷子になる
    長曽祢さんの学パロも最高だな〜っていう幻覚見てる、そのうち生産したい

    ○蜂須賀2年生→3年生
    ○浦島中等部年生→1年生
    私立の学校に通ってる
    家庭が複雑で、長曽祢さんは出て行ってしまったけど、二振とも長曽祢さんのこと尊敬してるし大好きだし本当の兄弟だと思ってる(蜂須賀は素直ではないが浦島にあれこれ言って長曽祢さんのことを気遣ってる)
    蜂須賀は歌仙と生徒会仲間だったので今でも手紙のやりとりしてたりする、蜂須賀は今生徒会長やってる
    浦島くんって制服にパーカー着るタイプだよな、白いスニーカーが似合いすぎる、笹貫くんと仲良い

    ○堀川くん1年生→2年生
    国広ォ!好きだ
    ナイス脇差
    まんばちゃんの弟なので高校1年生
    長曽祢さんと同学年の山伏お兄さん(仏教系大学生に通ってる)もいる
    交友関係めちゃくちゃ広い、悪そうなやつ「も」全部友だち
    国広さん!って呼ばれてる
    女子人気高い王子様だけど全員振ってる

    ○安定1年生→2年生
    ほんとかわいい、めっちゃ食う
    他人の彼女を平気でちゃん付けして呼ぶし、すぐに仲良くなるし恋愛相談めちゃくちゃされる(聞いてないけどポテト食べながらタイミングよく相槌打つので相手はしゃべってスッキリする)
    今3年生の女子5人から告白されてるけど保留にしてる
    いちごミルクとドクターペッパーをストロー2本刺して同時に飲んでたりする
    おっとりしてるのに剣道やると怖い、鍔迫り合いが怖い

    ○清光1年生→2年生
    美容大好きだけど剣道も大好き
    防具もめちゃいいにおいする、なんで?
    お姉ちゃんがいる
    少女漫画読んだりするけどガッツリ男、女友だち死ぬほど多いし男にもモテる
    フォロワーさん殺しの抱き雨の振り付け考えたのは清光

    ○陸奥2年生→3年生
    なんだかんだで兼さんのこと大好きだし、兼さんもむっちゃんのこと大好き
    わたしが方言わからなさすぎて上手く喋ってもらえなかったのほんと申し訳ない
    カラッとしてて明るい性格だけど、ふとした時に怖い顔してたりする
    住んでる場所とか家族構成とか謎が多いし授業中たまーにいなかったりする
    めちゃくちゃ賢いからたまにわざとテスト間違えたりするところある、問題が間違ってる時も一番早く気づく、天才

    ○歌仙3年生→大学1年生
    ほんと〜にいいやつだな歌仙は
    紛れもないキューピッド役、
    多分ふたりの結婚式で誰よりもデカい顔をすると思う、かわいい
    多分3月にはふたりが両思いなの気づいてるのでいろいろ気を遣ってくれてた
    高校の頃生徒会長やってた
    高三の頃、数学の補修で一緒になった2年生のバンギャの後輩と出会って人生変わってしまった、ヴィジュアル系バンドにハマってる
    家が厳しい(歌仙がそう思ってるだけでそうでもない)ので内緒でCDを買ってるが、大学2年生になってバンギャの後輩と再会したことをきっかけに現地に行くようにもなる
    幼稚園の頃仲良かった古今と大学で再会して、この後学祭でこのふたりはめちゃくちゃ大暴れする予定
    社会勉強のため、土日は近くの美術館でバイトしてて、バイト代は遠征費用に消えてく
    自覚ないけど兼さんは勝手に歌仙に劣等感持ってるが、歌仙はほんとうは友だち多くて明るくていいやつな兼さんのことが羨ましいなと思ってる、そういう気持ちが学祭のステージでのデスボイスにつながると思う

    【おまけその2】
    準決勝の兼さんの試合描写したかったけどクソ長くなってしまうのでおまけとしてここに書いとく

    大将で5番手の兼さんの時点でもう準決勝敗退は決まってるんだけど、兼さんは椿の君のために戦うんですよね
    審判の始め!の声で立ち上がる兼さんってめちゃくちゃ美しいと思うんですよ、水面に降り立った鳳凰みたいな
    団体として負けたことは悔しいけど自分の勝利が椿の君のため"だけ"のものになることがちょっとうれしいし、自分のために好きな剣道できるので、いつものようにのびのびとした荒い剣道してほしい
    小手狙う風のフェイントかけて、相手のガラ空きになった面を(隙だらけだぜ、てめぇ)ってなりながらスパーンと打ち抜くとこ見えた、で、激しい打ち合いで相手からも小手取られてあと1本先に取った方が勝ちみたいな状態になるんだけど、試合時間残り15秒で鍔迫り合いになった時、鍔迫り合いしてる相手の向こうで椿の君見つけて、うれしくなったりしてほしいし、気迫でちょっとたじろいだ相手の隙を逃さず押し飛ばして後ろに下がったところをすっごい遠距離から長い手足を活かした片手面決めて圧巻の残心を見たい(右手痛めてるからね、左手だけで片手面を打つかっこい〜だね!)
    後ろで髪ひとつ結びにした時、面の後ろから髪が出てくるじゃないですか〜、、和泉守くん面打ち抜いた後、すっごいツヤツヤした髪靡かせてそうで最高だな
    でも1本は取られたからそれがかっこわるいと思ってちょっと落ち込んでほしい、、

    【椿の君が兼さんに送った歌】
    椿の君が兼さんに送った歌、「おぼつかな君知るらめや足曳の山下水のむすぶこころを」は大江為基っていうひとが恋人であった赤染衛門という中古三十六歌仙のひとりの女性に詠んだ歌です
    「あなたは知っていますかわたしが山陰を流れる水のように密かにあなたを思っていることを」という意味(わたしの解釈)ですごく素敵
    椿の君も兼さんのことが最初から気になってはいたし、3年生の夏には大好きになってたけど わかりやすく愛情を伝えるわけではなく、和歌を贈るところに年頃の乙女特有の奥ゆかしさが表したかった、、
    あえて男性の詠んだ歌をおくるところに椿の君の兼さんを絶対逃さないという溢れ出るガッツが漲ってて良い

    赤染衛門というひとは後に大江匡衡(この人も中古三十六歌仙)というひとと結婚して、おしどり夫婦になるらしい(彼氏と同じ名字だけどいいんか?!と思ったが、多分平安時代の名字ってなんか役職だったりするんですかね、知らんけど)
    赤染衛門集という本には匡衡との歌のやりとり、為基との歌のやりとりがたくさん集まってるらしいのでいつか読みたい
    匡衡は為基のことどう思ってたんやろか、、バチバチな関係だと良いですね

    あんまり関係ないけど歌について調べてる時、赤染衛門の友だちに和泉式部っていう子がいて家同士でも歌のやりとりがあったらしい
    細かいことが書いてありそうな論文あったけど文章多すぎて読めねえだったのでまた今度ゆっくり読みます
    和泉式部は兼さん全然関係ないけど、すごく奔放で恋多きかっこいい女性だったみたいだね


    おしまい
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