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    yuyuoniku

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    フォロワさんの本丸に修行行くわたしの小夜左文字の話③

    小夜の料理修行 2話 乱藤四郎と貴婦人のカツ丼2話 乱藤四郎と貴婦人のカツ丼
    新宿から少し歩き、政府の管轄らしい小綺麗なビル内のエレベーター転送装置を使い、最寄駅に転送され、駅構内の非常口と書かれた扉を大包平の持っていた鍵で開くと、あっという間に豊前国本丸に到着した。

    「"転送酔い"は大丈夫か?」
    「ううん、なんとか」
    転送にはかなり多くの"力"を必要とするため、審神者の力で励起されている刀剣男士たちは影響を受けやすい。転送酔いとは、頭痛や吐き気、目眩、脱力感、精神の錯乱、霊力の乱れ等、転送の利用で起こるいろいろな不具合の総称で、顕現されて日が浅い刀剣男士や練度の低い刀剣男士、力が弱い審神者の刀剣男士によく顕れる。
    豊前国本丸所属の大包平はさすがというか、何も影響がなさそうにピンとしているが、小夜は名古屋⇄新宿の転送後も気を張っていたこともあり、ぐるぐると目眩がしていた。

    ふらふらとした足取りを悟られぬよう、大包平の後を続く。
    「この部屋を使ってくれ」
    大包平に案内されたのは、客人が使うようななんとも素敵で広い客間だった。
    「僕には勿体無いよ」
    歌仙だったら飛び上がって喜びそうな美しい部屋に恐々とする小夜。
    「暫く使う予定がないからな、遠慮なく使ってくれ。必要なものがあれば俺に言うんだぞ」
    この本丸の近侍は俺なんだと、得意げに言う大包平。
    小夜は借りてきた猫のように大包平に敷いてもらった座布団の上に小さくなっていた。
    「今日はもう遅いから休め、主への挨拶はまた明日だ。食事は軽いものを持って来させる。風呂はその後に案内しよう、俺は仕事に戻るが何かあれば廊下の突き当たり左側の部屋にいるから遠慮なく声をかけろよ」
    「ありがとうございます」
    ぺこりとお辞儀をする小夜の頭をぽんとすると、大包平は部屋から出ていった。

    「なんだかすごいところに来ちゃった」
    そわそわしながら辺りを見回してみる。
    床の間に飾られた壺、あれは絶対高いやつだから触らないでおこう。
    目眩を落ち着かせるために寝転がってくんくんと畳のにおいを嗅いでみたり、天井の木目を見たり、窓の外をこっそり覗いたりしていると、襖の向こうから声が聞こえてきた。



    「おーい!入ってもいい?」
    明るくてかわいらしい声、小夜は恐る恐る
    「どうぞ」
    と答えると、乱藤四郎が入ってきた。
    「乱藤四郎だよ!あなたが越中国の小夜くんだね。長旅ご苦労様〜!」

    よろしくと挨拶を交わし、乱を迎え入れると、瞬間、ふわっとあまじょっぱいような食べ物の良い香りが漂う。
    小夜のお腹が思わずくうと鳴る。
    乱はふふふと笑いながら、
    「粟田口イーツでーす!」
    と言って、お盆をそっと置いた。

    お盆の上にはふたりぶんの大ぶりなどんぶりとお椀、翡翠のようなお新香がお行儀よく並んでいる。
    「開けて開けて!」
    乱に急かされ、どんぶりを開けるとドーーン!と効果音をつけたいぐらい大きなカツが現れた。
    「わあ…!」
    思わず感嘆の声を上げる。
    口の中が唾液で満たされていくのを感じる。
    先ほどの、油の香ばしさや だし醤油のあまじょっぱい香りが鼻腔を殴りつけるように突き抜けていく。
    どんぶりに尊大に寝そべったカツは、卵のドレスを纏ったわがままな貴婦人のように豊かでふくよかだった。
    ところどころに散らされたミツバはドレスに施された見事な刺繍といったところか。
    ゆらめく湯気、艶々とした卵の照り、ところどころに見える透き通った玉ねぎ、しっとりとしたカツの衣。
    「美味しそうでしょ?ほらほら、食べちゃいなよ」
    乱の悪戯な微笑みも合わさり、小夜の理性は限界であった。

    「いただきます!」
    しっかり手を合わせて箸とずっしりと重たいどんぶりを手に取る。
    小夜は一瞬、どこから手をつけていいか悩んだ。
    (カツからいくか、ご飯もいっしょにいくか、たまごはどうする、どの位置から攻める)
    カツはそう、戦いなのだ。
    最初の一口が戦いの結果を左右する。
    カツもカレーも、米との配分を考えなくては敗北の原因を作る。
    空腹で暴れ出す理性を落ち着かせ、冷静な索敵を行った結果、このカツ重は、ここ、中心から攻めることにした。
    さくっと箸でカツ重の心臓部に切り込む。
    肉の大きい中心は食べ辛く、高度なお箸技術を要する。
    ぐぐっと重たいカツを救い上げ、箸の上にゆったり座る貴婦人を眺める。
    ぷるぷるとした卵の艶、柔らかそうな分厚い肉、淑やかな衣、豊かな香り、全てが美しい。

    ばくり、フラ・アンジェリコ作の最後の審判のサタンのようにカツにかぶりついた。

    カツはまず、芳醇な脂の風味を小夜の舌に湛えた。そしてすぐに押し寄せるようにジュワッと広がるだしの旨味、仄かに甘い肉の風味、まろやかな醤油の塩味が口いっぱいに広がる。
    「いい顔するねえ」
    頬袋いっぱいに幸福を含んでいる小夜を見て、乱は呟いた。

    "最後の審判"のキリストから見て左側は地獄を表すが、そのサタンは恐ろしい顔立ちで呪われたもののうちの三人の一人を噛み、他の二人を掴んでいる。きっと相当お腹が減っていたのだろう。今の小夜がその状態だ。
    カツを頬張るが、箸は次のカツを捉えている。

    (こんなに美味しいのを食べてるのだからメモしないと)
    そう思いながらも箸はどんどん進んでいく。
    カツの中心から逸れた端っこの衣は、口に含むとさっくりしていてとても歯触りが良い。
    時折、添えられた味噌汁とお新香も口にする、箸が止まらない。小夜が自分が完全にカツのペースに呑まれているということに気付いた頃には、器は全て空になっていた。

    「おいしすぎてなにもわからなかった…」
    箸を置いた小夜は、まるで苛烈を極めた初めての池田屋攻略の後のように呆然としていた。
    ペンを取ったが「めちゃくちゃ美味しかった」ぐらいしか書けない。
    美味しさを他人に伝えるということは非常に難しい。

    カツ丼のうまさにぼんやりしていると、いつのまにか乱によって器は片付けられ、小夜は風呂に連れ立たれていた。

    「洗い物ごめんなさい、僕がやらなくちゃいかなかったのに」
    「いいって!お客さんなんだから気にしちゃダメだよ〜」
    「明日は手伝わせて」
    大浴場のもくもくとした湯気に包まれながら、小夜は話しかけてくれた何振かの刀達に挨拶をした。
    風呂場で挨拶とは、と冷静になると恥ずかしくもなったが、今思えば飾るものがなにもないのがかえって良かったと思う。
    豊前国本丸の左文字達とも会って挨拶をした。彼らは、自分の本丸の兄達と比べてとても穏やかだし、太閤左文字は明るくて楽しい良い刀だったし、他所の本丸の自分というのはなんだか不思議な感じがしたけど、彼は自分よりずっと大人で兄弟達と同様穏やかで優しげな雰囲気だった。
    「僕もいつかああなれるのかなあ」
    風呂場を出て、左文字の刀達へ想いを馳せながら本丸を歩いているとどしん、と何かとぶつかった。
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