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    yuyuoniku

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    yuyuoniku

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    フォロワさんの本丸に修行に行くわたしの小夜左文字の話①

    小夜の料理修行 プロローグ「…頼みたいことがあるんだ、もう一度修行に行かせてほしい」
    とある小春日和の昼下がり、越中国に所属する とある本丸の執務室には、審神者と数振の刀が集まっていた。

    「小夜、なんだって??」
    審神者はもう一度と、聞き返す。問いかけの相手は小夜左文字。
    まだ着任して1年にも満たない新人審神者の彼女にとって この小夜左文字とは、4振り目の自分の意思で初めて鍛刀した刀であり、一番最初に修行の旅へ送り出した特別思い入れの深い刀でもある。
    小夜は子猫のような瞳で審神者を見据えてもう一度言った。
    「豊前国の審神者さんの本丸に料理の修行をしに行きたい」
    "豊前国の審神者さん"とは、この越中国の新人審神者が日頃特別世話になっている友人の内のひとりのことだ。
    先日の東京観光では豊前国審神者にも、その近侍の大包平にも大変世話になっていた。

    審神者と共に小夜に呼び出された江雪と宗三は、あまりの衝撃で貧血を起こして執務室勤めの長義や長谷部に抱き抱えられている。
    「なんでまたそんな」
    「この間、遊びに来てた豊前国本丸の大包平さんが作ってくれた料理が美味しかったから」
    「それは僕の料理よりも美味なのかい!?しかもいつの間に厨を使っていたんだ?!」
    この本丸の初期刀である歌仙が、この世の終わりのような顔をして床にへたり込む。
    「歌仙さんの料理も美味しいけど、食べたことがないものだったから兄様達や本丸のみんなにも食べさせてあげたいなって…」
    歌仙のあまりの剣幕に押され小夜は消え入りそうな声で答えたが、覚悟は決まっているようでその瞳は審神者を捉えて離さなかった。
    皆が審神者の方を見た。ううーん…と唸り、暫時 思案し、宗三と小突き合いをしている長谷部に近侍を呼んでくるよう言いつけると、喉に餅が詰まったような苦しそうなかおと声色で、
    「豊前国の審神者さんにお願いはするけど断られたら、悪いけどちゃんと諦めてね」
    と言った。
    「うん、わかった」
    小夜は静かに頷いた。



    わあわあ言いながら執務室を出る、江雪、宗三、歌仙の三振は、普段は険悪な仲なのに手を取り合い、小さな小夜の身を案じた。
    「小夜、他の本丸の刀と仲良くやれるのですか、あなたはすぐ粟田口の者を泣かせるでしょう」
    「きっとうまくやれるよ、みんな僕より強いだろうけど」
    「小夜はひとりで寝れないでしょう、どうしても行くと言うなら僕がついて行きます」
    「別に…ひとりで寝れるし、兄様達いなくなったら本丸のみんなが困るよ」
    「本丸がなんだっていうんですか、特命調査なんて放っておけばいいでしょう」
    プンスコ怒る兄達を押し退け歌仙が寄ってくる。
    「お小夜が帰ってこなかったら僕はどうすれば…」
    「修行の時もちゃんと帰って来れたから、大丈夫」
    小夜は三振を宥めるのに忙しかった。



    数日経ち、朝の放送の後小夜は審神者に呼び出されていた。
    午前8時過ぎの執務室には未だ近侍のソハヤの他に刀の姿はなく、ソハヤも座敷で寝転がりながら審神者向けの新聞についている数独を解いているようだった。

    「小夜、先日の修行の件、豊前国審神者さんが受けてくださることになりました。明日から夜警部の任を解き同日付で豊前国本丸での修行を任を命じます。本日中に後任の前田藤四郎に夜警部の仕事を引き継ぎして明日の昼過ぎには出発できるように準備すること」
    審神者が"辞令"と書かれた紙を小夜に手渡した。
    「ほんとうにいいの…?!」
    小夜は小さな手で紙を受け取ると嬉しそうにきゅっと足を揃えて立った。
    普段感情をあまり表に出さない小夜が喜んでいるところを見て、審神者も思わず頬が緩む。
    迷惑をかけないように、喧嘩も厳禁、きちんと先方の言うことを聞くこと、お土産は明日見送りに行く時に名古屋駅でマドレーヌを買っていこうね、引き継ぎも無理にしなくていいから先に荷造りして今日は早めに休むこと。小夜が心配でつい言葉が溢れ零れてしまう。
    小夜は審神者の言うことを全てをよく噛み 飲み込むようにひとつずつに返事をして、元気よく執務室から出ていった。

    「主、がまんしてえらかったな」
    寄ってきたソハヤにもたれながら審神者は鼻セレブを抱えてぐずぐずと泣きはじめた。
    「まぁ、長いこと放って置かれるわけじゃあるまいし、心配するなって」



    翌日の昼、審神者、小夜、江雪、宗三、歌仙、ソハヤの一行は、名古屋駅に来ていた。
    現代に馴染むような服装をしているとはいえ、華やかな髪色と恐ろしいほどの美貌の男どもが列を成して歩いているため人目を引いてしまう。
    待ち合わせ場所の新宿までへの道のりで電車や新幹線などの交通公共機関を使用しないが、未熟な審神者にも扱える転送装置があるため、この本丸は遠出の度にわざわざ名古屋駅まで出てこなくてはいけない。
    東山線を出て桜通口近くのエシレでマドレーヌを購入し、なるべく目立たぬようそそくさと太閤口を抜ける。
    一行はビル群の内、一際古い5階建ての雑居ビルの中のひとつにぞろぞろと入っていった。



    雑居ビルには人気はない。廃業したと思しき店達の遺骸やタバコの吸い殻、酒の缶が散乱している他はがらんどうで、エントランスから伸びた廊下の突き当たりのエレベーター内の蛍光灯以外に他に灯りはなく、くすんだ窓からやっと差し込んだ陽の光はこの空間にあってはならないような異質さを醸し出す。
    「何度来ても雅じゃないねえここは」
    埃っぽさに咳き込む歌仙を先頭に廊下を進んでいき、エレベーター横のところどころペンキの剥がれた落書きだらけの重たい鉄の扉を開くと、エントランスや廊下よりもずっと狭くて暗い階段が、ずるりととぐろを巻く蛇のように重なっていた。

    ここからこの階段を3階まで上がるのだが、決まりがある。
    必ず右足から登り、14段ある階段の内使って良いのは印のつけられた6段分だけ。つまり2段〜3段を飛ばして登らなくてはいけない。
    端末の懐中電灯機能を使いながら、暗い階段を6段登って踊り場で休憩、また6段登って2階に到着、そこからまた6段登って踊り場、6段登ってやっと3階にたどり着く頃には、審神者はへろへろになっていた。
    「この儀式ほんと嫌…」
    ぜえぜえと息を荒げる審神者を横目に刀剣男士たちはケロッとした表情をしている。
    「仕方ないだろう、霊力が少ない新人審神者にも使える転送装置は県内だとここと豊橋にしかないんだから」
    「あるじさま、体力ないね」
    「3階までの移動できっかり24段踏むと、この建物に審神者であることを認識させられるというのは本当なんですか?」
    「一応そのはずだが転送装置のエレベーターが起動しないことにはわかんねえなあ」
    息絶え絶えの審神者を引き摺りつつソハヤが、3階と書かれた鉄の扉を開くと、薄暗いビル内はいくつかの扉が張り付くように存在し、一行が出てきた鉄の扉の横には件のエレベーターがひっそりと佇んでいた。
    静かな空間に、いちばん手前の給湯室と書かれた部屋からだろうか、ピチャリピチャリと音がこだまする。
    「なんだか気味が悪いですね」
    小夜を守るように左文字の兄達が寄り添う。
    「エレベーター以外何も触らないようにしろよ」
    ソハヤの冷ややかな声を聞いて、審神者は給湯室のドアノブからサッと手を離した。

    "下"ボタンを押す。
    ギギギギギギと少し嫌な音が聞こえて、暫くするとエレベーターがやってきた。
    ようこそ、とでも言いたげな雰囲気で扉が開くが、不気味な雰囲気であるものの中は普通のエレベーターのようにみえる。
    小夜は怖がる様子もなく、皆の間をすり抜けささっと乗ると
    「じゃあ、いってきます」
    と言った。

    突然、エレベーター内の電灯が、ジジ…と音を立てながら明滅し始める。
    江雪と宗三は焦った様子で、
    「やっぱりこれに乗せるのはやめましょう、なんか、やばいです!」
    「これは帰って来れなくなるやつでしょう!僕は知っていますよ」
    口々に言う。不安から語彙力がなくなっている。

    もう既に何度か転送エレベーターに乗って移動したことのある審神者、歌仙、ソハヤも、実際不気味だし どこかの誰かが神隠しにあったという噂も聞いたことがあることから"絶対"大丈夫とは言い切れず、案外大丈夫だからとか 思ってる以上に乗り心地良いよとか、フワフワとした言葉しか掛けられない。
    "ひとの身の安全"を重視したとして、時間をかけて公共交通機関を使っても良いのだが、審神者や刀剣男士達は、ジュウトウホウイハンに引っかかる可能性や歴史修正主義者に狙われた場合の対処等、いろいろを加味すると転送装置を使う方がリスクもコストも低い。
    行かないでと弟を引き止める左文字の兄達を見ながら、審神者は自分がもう少し優れた審神者であればもっと安全な転送装置が使えたのにな…と情けない気持ちでいっぱいになっていた。

    小夜は安心させるように兄達の手をぎゅっと握り、刹那、見つめ合うとふわりと手を離す。
    「大丈夫だから、いってくるね」
    審神者達と目をひとりずつ合わせ終わったのを見届けたかのように、ゴゴゴゴゴと音を立てて扉が閉まる。

    小夜はリュックサックの小さなポケットからジップロックに入った審神者の血液漬けの鍵を取り出すと、エレベーター内のボタン群にひっそり在る鍵穴に差し込みガチャリと回した。
    エレベーターの窓から心配そうに覗き込んでいた審神者一行に小夜がひらりと手を振った瞬間、エレベーターはまたギギギギギと音を立てながら、ゆっくりと降下していく。
    どうやら装置の起動は問題なかったようだ。



    「行ってしまった…」
    絶望的な顔をする江雪。小夜を送り出した一行の間には通夜のような時間が流れていた。
    「あなた、小夜が帰って来なかったらどう責任を取るんですか、あなたが先方まで送り届けられれば少しは安心できたのに…ほんと力不足のダメ審神者なんですから」
    宗三が美しい額に青筋を立て、恨めしそうな声で沈黙を破った。
    「宗三左文字、貴様は主がどんな気持ちでお小夜を送り出したかわからないのか????」
    「あなたが魅力的な料理を作っていれば小夜は修行へ行きたいなんて言わなかったんです!!かわいい弟を2度も修行へ送り出す兄の気持ちがわかりますか?!あなたに!!!」
    「僕の料理が魅力的じゃない、だと…?」
    静かだったビル内がバトルリングになる予感がする。
    二振りが拳を掲げ、戦いのゴングが鳴ろうかという時、ピロリンとソハヤの端末の音が響いた。

    「はいはい。無事に到着しましたって小夜の端末から通知がきたから安心しろよお兄さん方。ほら、コンパル寄って帰るぞ」
    給湯室の扉に執心の審神者を引き剥がしつつ、ソハヤは呆れた様子で全員に声をかけ階段を下っていった。
    不毛な言い争いを続けながら歌仙と宗三は、しくしく泣きながら江雪は、それぞれが階段を下っていった。
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