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    おもち

    気が向いた時に書いたり書かなかったり。更新少なめです。かぷごとにまとめてるだけのぷらいべったー→https://privatter.net/u/mckpog

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    おもち

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    PsyBorg。やきう部の🔮と、ほけんの先生🐏。

    #PsyBorg

    窓を開けたら夏の音がした。遠くで鳴く蝉の声をBGMに、グラウンドで走る運動部のかけ声、校舎裏のプールで水泳部が水を蹴る音、窓を開け放っているのか吹奏楽部の高らかな演奏も聴こえてくる。生徒たちの重なる声は青春を耳で味わわせてくれる。
    だが外の空気は青い春だなんて言ってられないくらいに夏をまとっていた。触れられそうなくらいモワッと蒸した空気がクーラーで冷えた薬品臭い保健室の中に入り込んでくる。
    さっきまでベッドで眠っていた体調不良の生徒が保護者が迎えにきて帰って行ったから、空気を入れ替えようと思って窓を開けたけれど、これで室内の空気が新鮮になっているのかどうかは甚だ疑問だ。
    空気の入れ替えは諦めてアルコール消毒を念入りにしようか、と開けたばかりの窓を閉めようとしたその時、ふわりと涼しい風に乗って「先生!」という声が届いた。
    真っ白い雪がよく似合う、だけど夏の高い空にも遠く響くような柔らかく伸びる声。弦を弾いた時のようにわずかに揺れて響く気持ちのいい音は俺のお気に入りだった。
    「先生?」
    目の前で聞こえたその声にハッと意識を取り戻し、保健室の窓の正面、グラウンドを囲むネットの向こうからこちらを見つめる浮奇に視線を向けた。
    毎日外で練習をしている野球部なのに、日焼け対策をバッチリしている彼の肌は透き通るように白い。きっと動き回った後だからだろう、頬は上気して赤く染まっていたけれど、それでもなおユニフォームを着ていなければ運動部には見えない。
    「部活中か? お疲れ様」
    「うん、今は休憩。水飲みに行こうと思ったら保健室の窓が開いたのが見えて、走ってきちゃった」
    ちょっと待ってね、と言うと浮奇はパッと駆け出しグラウンドの隅の方へ向かった。そしてすぐに折り返し……ネットのこちら側、保健室の窓のすぐ前までやってくる。手を伸ばして保健室の中に突っ込み、「涼しい〜」と笑みを浮かべた浮奇に俺も笑みを返した。
    「クーラーが効いてるからな。朝ぶりに窓を開けたらすごく暑くて驚いた」
    「めちゃくちゃ暑いよ。死にそう」
    「水分補給をちゃんとして適度に休憩を、まあ、俺に言われなくても顧問の先生たちに言われてるか」
    「ん、でも俺はファルガー先生が言ってくれた方がちゃんと守らないとって思える。倒れて先生に迷惑かけたくないし」
    「……無理はするなよ」
    キャップの下、汗に濡れた髪が額にくっついている。手を伸ばして額に触れると運動をしていた浮奇の体温は熱があるかのように熱く、思わず俺は自分の冷たい手のひらを彼の頬に当てた。途端に猫のように目を細めた浮奇がとろけた笑みを浮かべる。
    ドクドクと脈打つ心臓も、見惚れて機能を停止する脳みそも、夏の暑さにやられているのかも。
    「へへ、先生の手冷たくて気持ちいい」
    「……水分、補給を」
    「それさっき聞いたよ。先生、こんな涼しいところで熱中症?」
    「……かもな。俺もちゃんと水分を取ることにする」
    「うん、そうして。元気でいてよ。今度の試合、見に来てくれるって約束でしょ」
    「ああ、応援しに行くよ。……休憩時間に引き止めて悪い。水を飲みに行くところだったんだよな?」
    「うん、でも俺が先生に会いたくて来ちゃったんだから謝らないで。この後の練習頑張れるパワーもらったよ」
    「……それならよかった。夕方までは俺もここから応援してるから、練習頑張れ」
    「ほんと? めっちゃ頑張る! ホームラン打つ!」
    「ふ、じゃあホームラン打ったら冷たいジュース一本」
    「やった! 約束ね、絶対だよ!」
    浮奇のはしゃいだ声に被さるように、グラウンドから集合を呼びかける声が聞こえた。すぐに振り向いて返事をした浮奇は走り出そうとしてピタリと止まり、パッと俺に顔を向けた。首を傾げて見せると再び窓のすぐ前に戻ってくる。
    「浮奇? もう行ったほうが」
    「先生ちょっとこっち」
    「え?」
    手招かれて俺も窓に近づいた。サッシに手を乗せた浮奇がグッと背伸びをして俺との距離を詰める。
    「ありがと、がんばる」
    微笑んでそう囁き、浮奇は俺の頬に口付けた。チュッと鳴る甘い音に思考が止まった俺が状況を理解するより先に駆け出していた浮奇は、俺が「こら」と気持ちの入ってない声をこぼした時にはもう手の届かない場所まで離れてしまっていた。
    あははっと楽しそうな笑い声が蒸し暑い空気の中を爽やかな風のように吹き抜ける。
    「ちゃんと見ててよ! ホームラン!」
    眩しい笑顔で俺を指差したあと、浮奇は今度こそグラウンドに向かって全速力で駆けて行った。あっという間に小さくなる背中がグラウンドの中で仲間たちの中に混ざって、遠目からだとどれが誰だか分からなくなる……はずなのに、どうしてか、浮奇のことだけはどんなに遠く、同じ背格好の生徒が集まっていたってすぐに見つけることができてしまう。
    うんと年下のまだ青い学生なのに、浮奇は台風のように俺の心をかき乱す。懐かれている、で済ませられないくらいの浮奇の好意を分かっている。分かっていても教師の立場でそれに応えることは不可能だということを、浮奇も分かっている。度を越さないように付かず離れずの距離を保っていたのに、今日の接触はあまりに不用心だった。
    「……あついな」
    じりじりと照りつける太陽の日差しでたった数分で体温が上がってしまった。熱を持った頬も、そう、たぶん、太陽のせい。
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