提出したノートの隅に書いた落書きに、怒るでも注意するでもなく"good"なんて小さく書いて返してくれるおかしな先生。優しいその先生が好きで学校をサボることが減った。今までよく教室を抜け出していた俺が教室で大人しく席に座っていることに先生たちが「おっ」って顔するのはムカついたけれど、その人だけは教室に入ってきて俺を見つけると優しく目を細めてくれるから、俺はほとんどそのためだけに教室にいた。
「浮奇〜、今日暇? カラオケ行かない?」
「ん……カラオケ……?」
「そう。ていうか、午後ずっと寝てなかった? 体調大丈夫?」
「……んんー、大丈夫。けどカラオケは今日はやめとく、また今度」
「オーケー。最近ちゃんと授業出てるね、進路でも決まったの?」
「ふ、ううん、全然」
「?」
「なんでもない。出席日数のためだよ」
「ふーん? まあいいや。じゃあまた明日……じゃないか、来週〜」
「ん、また来週。バイバイ」
「ばいばーい」
友人が手を振って出て行った教室の外、横切った人影に俺は音を立てて立ち上がりすぐにカバンを持って廊下へ出た。少し先に背中を見つけたけれどまだ人のいる廊下で大きな声は出したくなくて、早足でその人を追いかける。ほとんど中身の入っていないカバンは荷物でもなんでもないから体は軽かった。
「先生」
「ん? ああ、浮奇。今日もちゃんと来てたんだな、偉い」
「えへへ、もっと褒めて。先生の授業ないからどうするか迷ってたんだけど、来てよかった。会えたもんね」
「……俺の授業を気に入ってくれてるのは嬉しいけれど、他の先生方の授業もちゃんと出ておいで。それと夜はちゃんと寝て朝起きること。ごはんもちゃんと食べるんだぞ」
「ふ、はぁいお母さん」
「ふふ。暗くなる前に帰れよ」
「あ、待って待って。ちょっとこっち」
「うん?」
まだちょっとしか話せてないのに、もうバイバイしようとしたでしょ。そんな簡単に逃してなんかあげないから。