黒のパーカーを被った男がふらふらと人ごみを歩いている。不思議と誰ともぶつかることなく雑踏を抜けると、男はふらりと路地に入り込んだ。どこかに行くあてもなさそうに、ふらり、ふらり、と歩きながら時折、立ち止まってはぼんやりと上を見上げる。ビルの隙間からは真っ青な空がのぞいていた。そうして、また、ふらりと歩き出す。あっちへ曲がり、こっちへ曲がり、どれくらい歩いたのか、ぽっかりと開けた空間に出た男の目の前には何かの店舗だと思えるガラス張りの飾り棚。今時珍しくもないヒューマノイドが一体、椅子に座っていた。柔らかそうな黒髪に白い肌、まろい頬につやつやしたピンクの唇。少年型ヒューマノイドの瞳は閉じられているが薄っすらと微笑んで見えた。まるで吸い寄せられるようにその少年の前へすすむと、男は静かにそれを見つめた。
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