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    m_teatime11

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    m_teatime11

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    hgwrがmtdの女と知らずに恋したあの子の事を同期のちょっと不思議な男友達に恋愛相談しつつメンケアされる話(?)

    萩原研二×男夢主になる予定──運命とは時に残酷で、無慈悲に誰かの人生を傷付ける。

     11月7日。俺にとっての運命とは正しくこの日である。
     世間からしたら、そういえばちょっと前にこんな事件あったな、くらいの認識だろう。しかし、俺は確かにその場に居合わせて、爆弾と対面して、命の駆け引きをした。
     忘れられるわけが無い。他の隊員達の焦った声や防護服越しに感じた熱を、恐怖を。死を目前まで迫られたあの瞬間を、忘れられるはずが無いんだ。
    「はぁ……」
     あれから数年。なんとか一命を取り留めた俺は、日常生活を送るのには申し分ない程回復した。普通に歩けて、普通に話せる。
     ただ、右手が少し震えてしまうだけ。ただそれだけなのに、全てを失った様な気分になってしまう。
     アレだけの爆発のど真ん中に居て、この程度で済んだ事を喜ぶべきかもしれない。生きているのだから良いじゃないか。仕事だって現場には出れなくても続けられていて、金銭的にも困っていない。
     そう楽観的に考えようとしても、喪失感は少しも消え去ってはくれなかった。
    「……どうしたもんかな──っ!?」
     沈んでいく一方だった心に、突然ヒヤリと冷たい何かが触れて、意識が現実へと戻される。
    「えっ! 何!?」
     振り返ると、目を丸くして固まる女の子の姿があった。片手には俺に差し出す様に冷たいお茶の缶が握られていて、これが頬に当てられたのだと分かる。
    「ビックリした〜……ってごめん。俺の反応に君が驚いたよね」
     驚いて固まったままの女の子の手を優しく引いて、自分が座っていたベンチの隣に誘導する。自分より遥かに小さい女の子はちよこんと腰掛けると、ハッと我に返ったのか、不安そうに俺を見上げてきた。
    「あぁ、大丈夫! ちょっと驚いただけで、嫌だった訳じゃないから!」
     だから頭を上げて。顔を見せて。
     ペコペコと何度も謝る女の子をなんとか落ち着かせて、改めて冷たいお茶を受け取った。
     俺の姿が見えたから少しお話したかった。なんて可愛すぎるお誘いに、つい舞い上がってしまう。少しと言わず何時間でも付き合うよ、とおちゃらけて言えばクスクスと花が咲いた様に女の子は笑った。
     彼女と出会ったのは、定期的に通っている病院の片隅だった。自分では何ともないと思っていても、念の為に行って来いと上司に紹介された精神科のある病院。
     そこで出会った、俺の運命の人。なんて言ったら同期達は腹を抱えて笑うに違いない。
     でも、本当にそう思っているのだから仕方ないだろう。大袈裟だと言われても、それだけ好きになってしまったんだから──
      
     体の傷は治っても、心の傷はそう簡単に治らない。実感は無くても体は素直だった。
     また11月7日。事件に躍起になる親友になんの声も掛けられないまま、リハビリの為に病院へ来ていた。
     きっとアイツが捕まえてくれる。そう言い聞かせて、現実に背を向けて、一心不乱にリハビリをしていた。
     それが良くなかった様で、その日はまだ大丈夫だと言う俺の意見は上手く流されてしまい、早々に帰り支度をさせられた。
     取り繕うのは得意な方だと思うが、プロには敵わない。何かに追われているような、焦って先が見えていないような。自分でもよく分かっていない感情が全て見透かされていた様だ。
     仕方なく帰ろうかと歩いていたら、院内が徐々に騒がしくなっていった。近くにいた看護師に聞けばなんでも不審物が見付かったとか。
     警察官としてはそんな話を聞いて知らんぷりする訳にはいかない。身分を明かして案内された場所には数年前に見たきりだった、物々しい箱が鎮座している。
     手が震えた。足が動かなくなった。あの時の熱を、痛みを思い出して、呼吸の仕方まで忘れてしまった。
     その後の事は良く覚えていない。恐らく他の警察官が到着して対応してくれたのだろう。気が付いたら真っ暗な家にいて、親友からの着信が一件だけ入っていた。
     その日見た爆弾は、数年前の物と同じで、同じ犯人で、捕まえることは出来なかったらしい。悔しそうにしながらも何処か落ち着いて報告してくれた親友、松田陣平に醜い感情が湧き上がる。
     怒りや嫉妬、自分の不甲斐なさに嫌気がさしてしばらくは誰にも会わないよう自宅に籠った。
     自分らしくない。分かっていてもどうしようもない現実。このままでは駄目だと、縋る思いで訪れた別の病院で、また呼吸が乱れた。
     今日は11月7日では無い。それにここは別の病院だ。そう何度も同じ事が起きてたまるか。
     どんなに言い聞かせても一度乱れた呼吸は落ち着いてくれない。壁沿いに移動して隅っこに蹲る。惨めで、理想と掛け離れたカッコ悪い自分が誰にも見つからない様に。
    「……はっ、はっ……はぁっ……ッ!」
    「――っ?」
     声は聞こえなかった。ただ背中に添えられた手が暖かくて、ホッとしたのを覚えている。
     一瞬で離れてしまった温もりを名残惜しく思っていたら、医師が駆け付けてその場は落ち着いた。後からあの時に人を呼んでくれた女の子の話を聞いたのが始まりだった。
     一番弱い所を見せてしまった気恥しさもありつつ直接お礼を言うと、大事にならなくて良かったと柔らかく微笑んだ女の子に、静かに恋をした。

     △▼△▼△▼△
     
    「デート誘いに気付いてくれない……!」
     時間にして30分程度、病院のベンチで手には自動販売機で買った缶のお茶。それでも好きな女の子とのお茶会は楽しくて、浮かれた俺は次はオシャレなカフェにでもと誘ったつもりだった。
    「どうして……どうして俺と一緒に行く選択肢が無いんだ……!」
     ここのコレ、美味しそうだなって思ったんだけど君は好き?と、まずは好みを知ろうと尋ねれば満面の笑みで好き!と、返ってきた。そのあまりの可愛さに悶えていた俺も悪い。お店の場所を教えたら今度友達と行ってみるね、と。見事に振られた訳である。
    「萩原が女の子相手に苦戦するなんてね〜。松田が聞いたら笑い転げそう」
     向かいに座る男は上品に微笑んでグラスを傾けた。簡単な仕切りがあるだけのコスパが良い居酒屋が高級レストランだと錯覚しそうになる程に、優美で可憐な風貌の男は、大学からの同期だ。
     警察学校を卒業してからは疎遠になっていたが、最近再会してからはこうして良く飲みに出かける仲にまでなった。優秀な警察官でありながらそれを鼻に掛けず、聞き上手でつい何でも話してしまう。
    「もうただ良い店教えるお兄さんになってるよなぁ。松田に馬鹿にされる……」
    「その松田とは相変わらず?」
    「そうなんだよ〜。あいつたまに生きてるって生存報告してくるだけでさ、何だよ生きてるって。もっとなんかあるだろ!」
     柔らかな声に促されて全てを吐き出してしまう。松田は部署移動を繰り返して今どこで何してるのかさっぱりわからない。恐らく公安に配属されただろう同期達に至っては生きているのかも不明だ。唯一、伊達班長だけは忙しい合間を縫って顔を見せに来てくれるが、それだってどこか憐れみが含んでいるような気がしてしまう。
     他にも、同情だったり失望だったり。人から向けられるそういった感情が体にズッシリと伸し掛かる。あの事件以来、変わってしまった周りの環境と自身の心境。
     同期は出世してどんどん遠くに行ってしまう。仲の良かった女の子達も俺が落ちていくだけだと分かって何人も離れていった。
     俺だって好きでこうなった訳では無い。勝手に俺の未来を諦めるなよ。あの時に戻れたらって、誰よりも俺が望んでいる事だろうが。
    「お前くらいだよ。俺の相手してくれんの」
    「そんなことないだろ。ただ、皆も萩原とどう接したら良いか分からなくなってるんじゃないかな。萩原が大事だから、傷付けたくないから」
     彼と話しているとそんな初めて感じた醜い感情達が全部引っ張り出されて、浄化される気がして。病院に通うよりも楽に消化できた。
    「松田なんて特に躍起になってた分、犯人を捕まえられなかった不甲斐なさとかで顔合わせずらいんだろ」
     不思議なやつだ。醸し出す雰囲気もそうだが、発せられる声が、言葉が、スっと心に入り込んで染み渡る。霧が晴れる様な、晴れ渡る青空の下に手を引いて導いてくれる様な。不思議な感覚がする。
    「大丈夫。萩原は大丈夫だよ」
     上品で、優美で可憐な男だ。同じ歳の、背だって俺とそう変わらない。なのに、時折見せる花開く様な微笑みに、見惚れてしまう。
    「もう何なのお前、好きになっちゃいそう……」
    「ふふっ、俺は萩原の事好きだよ?」
    「そうやって何人の人間を落としてきたんだか」
    「人聞きが悪いなぁ。俺、一途なのに」
     クスクスと今度は子供のように笑って酒を煽る。度数の弱い酒でも顔が赤くなってしまうから、気を許してる相手とじゃないと飲まないのだとか。
     確かにこの顔で頬を染めて微笑まれたら勘違いもしてしまう。
    「フラれたら俺が貰ってあげるよ」
    「やだやだやだ。フラれたくないしお前に貰われたらダメ人間になる」
     なんて事ない戯言が心地良い。他の男友達とは違う、少し大人な戯れ。ゆったりと流れる時間が心を軽くした。
    「まぁ、でも。フラれたら慰めてね」
    「いいよ。旅行でもなんでも、付き合ってあげる」
     あの子が呼吸の仕方を思い出させてくれた。彼が手を引いて繋ぎ止めてくれた。
     時間はかかっても確実に前を向く準備を進めている。
     今度、松田に顔見せろって連絡してみようか。伊達には早く彼女と会わせろって文句言ってやらなきゃだな。
     次に会えたらあの子にはちゃんと一緒に行きたいって伝えて、連絡先を教えて貰えないかも聞かないと。
     駄目だったら彼に慰めてもらおう。きっと笑って受け止めてくれる。
     なんて、この時は全てが上手くいく様な気になって笑っていた。何も知らない俺は、その領域に踏み込めない俺は。ただ幸せになれる未来を夢見て、大事なことを見過ごして。
     ただ守られていただけの俺が全てを知るのは、大切な人達がどうしようも無く傷付いた後だった──




    萩原研二の片思いが書きたくて松田の女に恋させたら書くかも分からない松田夢のちょっと不思議な話のスピンオフ()になった
    今後同期の男夢主視点で何か書くかもしれない……というか理想の受けちゃん過ぎてちゃんと動かしたい……!
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