タキオンにピアノを弾かせたい「おや……?」
地下鉄の駅構内を歩いていたアグネスタキオンの視線の先に、白いアップライトピアノが壁に向かって設置されていた。
ストリートピアノ、というやつか。確かに大きな駅だから、人々の注目を集めるにはうってつけだろう。
「モルモット君、せっかくだから何か弾いてみておくれよ」
無邪気な期待の眼差しに背中を突かれ、タキオンのトレーナーはゆっくりピアノの方に足を進めた。
見慣れた白衣と同じぐらい真っ白なボディーに、金色でYAMAHAの文字が刻まれている。
「もうずいぶん弾いてないんだけどな……」
横長の椅子に腰かけて丸い取っ手を回し、高さを調整しているトレーナーを見て、タキオンの心拍数が少しばかり上昇する。今から私のモルモットはどんな演奏を聴かせてくれるのだろうか。
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