「カケル、今、忙しい……か?」
「大丈夫だけど……どうしたの?」
夜遅く、俺の部屋にやって来たタイガは、パジャマ姿ではなくきちんと制服を着ていた。時々夜にやって来ては俺のベッドで一緒に寝ることがあるけれど、こんな時間に制服で部屋にやって来たのは初めてだ。
「魔法の修行付き合ってくれないか?」
「え、それは良いけど……」
珍しいこともあるものだ。試験前や課題の提出前に俺を頼ってくることはあるけれど、そういうタイミングでもない。でも、やる気をだしているのなら、それを汲んであげたい。
俺も制服に着替えて、二人で寮の外に出る。本当であれば門限を過ぎているから外に出るのはご法度だけど……まぁ、いいでしょう。何かあったら俺の力で誤魔化しちゃおう。昔はこんなこと考えなかったのに、ヤンキーに影響されちゃったかな?
寮からも校舎からも離れ、俺たちは草原までやって来た。周りに木や岩が無い場所まで来て立ち止まる。ここなら多少魔法が暴走しても被害は出ないだろう。
「で、どんな魔法?」
「基礎から、しっかりやりなおそうと思って。コントロールを完璧にしたい。カケルみたいに!」
「俺、みたいに?」
自分を目標にしてくれているってこと? なんだか、こうして真正面から言われると照れくさい。皆の前でだったら、照れ隠しに茶化しているところだった。
「カケル、俺、カケルの隣に並ぶのにふさわしい魔法使いになりたいんだ。だから、頼む」
俺の手を取り、タイガは真剣な顔で言う。ヤバイ、ドキドキしちゃうじゃん。
「よぉし。じゃあ、手加減しないで鍛えちゃうからねん?」
「望むところだ!」
タイガと並んで呪文を唱える。大気中の水分を集め、水を生成する。月の光が反射して綺麗だ。タイガの生み出す水は、タイガの心見たいに本当に綺麗だ。
「さぁ、いくよ、タイガきゅん」
「おう!」
月と瞬く星たちが、俺たちを見守って応援してくれているような夜だった。