「ほら、カケル、タイガって呼んでみろ」
「あいぁ……」
「惜しいんだよなぁ……」
「たぁ、い、あ」
「ガが言えないのか? でも、唸ってる時ガって音出してるよなぁ?」
貼りつけられている札が剥がれて、大暴れしている時のカケルを思い浮かべる。言葉にはなっていないけれど、いろんな音を発しているから、声に出せないわけではないのだろう。
「やっぱ、ちゃんと自我が戻るまではダメなのか~」
「あぁう、あ!」
くしゃくしゃと頭を撫でると、カケルは嬉しそうに笑った。出会ったばかりの頃は笑顔になることも無かったけど、今はこうしていろんな表情を見せてくれる。ヒロさんも、俺と出会ってから急速にカケルは人間らしくなってきているらしい。
「ま、ゆっくりでいいんだけどよ……」
出来れば、最初に自分の名前を呼んで欲しい。なんて、贅沢な望みなんだろうか? カケルの道士であるヒロさんを差し置いて……。
「たぁ?」
「なんでもねぇ。さ、カズオ、日も沈んだし散歩行くか」
「うぁ!」
カケルはぴょんぴょん飛び跳ねてドアの方へと向かう。そのうち、歩き方も人間らしくなって、並んでゆっくり話ながら歩けるのかな。
そんな日が来るのを想像すると、カケルの成長(と言っていいのかわからないけど)が楽しみになった。