「それでさぁ、タイガってばさぁ~」
「おまえ、いつまでここに居るつもりだ?」
数時間前に俺のところにやって来た十王院カズオは、最初こそドラチの相手をして何かしていたが(俺は筋トレしてたから何をしていたのかはよくわからん)、もう一時間は香賀美タイガの愚痴を漏らしている。と、いっても時々惚気が混ざっている。愚痴だって、脱いだ靴下を裏返しのまま洗濯機に入れたとか、自分の分のプリンまで食われたとか、シャンプーボトルに水を入れて薄められていたとか、そういうのだ。
「タイガが迎えに来るまで~」
「はぁ?! ふざけんな!」
「タイガにはさっきアレクサンダーのところにいるって連絡したからすぐ来るでしょ」
ソファーに寝そべったまま、奴との会話画面を見せられる。ただ俺のところにいると一言だけ。その上にはその前に送っていたであろうハートマークのついたチャラチャラしたスタンプがあったが、見なかったことにした。
「トラチも一緒に来るドラ?」
「来ると思うよ~! 一緒に待ってようね、ドラチちゃん!」
「ドラァ~!」
「ったく……」
ドラチはすっかりコイツに懐いてしまっている。溜息しか出ない。
なんだかんだエーデルローズの奴らとも付き合いが長いが、特にストリート系の奴らとはまぁまぁ交流が続いている。俺も、さっさと追い出せばいいのに、なぜかこいつの愚痴に付き合ってやってる辺り、仲間的な情は沸いてるんだろう。俺は総帥がエーデルローズの主宰をどう思ってるかどうでもいいし、気にすることはないんだろうけど……。
「あ、見て見て! タイガこっちに向かってる! しかも凄いスピード! タクシーかにゃ?」
今度は地図アプリを見せられた。青い丸が点滅しながら移動している。まさか、これ……。
「アイツのGPSか?」
「ピンポーン! あ、もうすぐ着く!」
嬉しそうに荷物を纏めながら、ちらちらスマホを見ている。そんなに会いたきゃさっさと帰れば良かったのに。なんで付き合わされてんだ、俺は。
「あ、ねぇね。茶番でもしない?! タイガが着いたらさ、昭和の親父みたいな感じに『息子はやらん!』って言ってよ!」
「誰が言うか! なんで俺がお前のオヤジ役やらなきゃならねぇんだ!」
まったく、付き合いきれない。
到着した香賀美タイガに向かってドラチがそのセリフを言った時、俺は不覚にも笑ってしまった。