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    siiiiiiiiro

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    siiiiiiiiro

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    6/25の無配のエスデュのサンプルです。
    金持ち大学生×コンカフェアルバイターの現パロ

    #エスデュ
    Ace Trappola/Deuce Spade
    #恋はイカサマ愛は直球JB2023
    #JUNEBRIDEFES.2023

    グッバイネバーランド「お待たせしました、ご、しゅじん、さま」
    それは、雷に打たれたような衝撃だった。
    無愛想で、緊張しているのかガチガチで。運んで貰った水は零れているし、頼んだオムライスの上のケチャップは何て書かれているのか分からない。
    普段なら「金を払ってんのはこっちだぞ」なんて小言の一つでも漏れるだろう。それでも、全部がどうでもよくなってしまった。
    「どうぞ、ごゆっくり」
    「あ、あの!」
    そそくさとテーブルを離れようとする店員の腕を掴む。驚いたように丸くなってエースを振り返る瞳は、目が覚めるようなピーコックグリーン。その鮮やかさに目が眩んで、何かを考える前に言葉が口をついた。
    「あんた、名前は?」
    「……っ」
    つかんでいる店員の腕から動揺が伝わる。ぶつぶつと何か喋っている声は聞き取りづらく、腕を引っ張って顔を近づけた。
    「え、なに? 聞こえねーんだけど」
    「うちはお触り厳禁だ!!」
    ――エースの何倍もあるだろう力で振り払われたテーブルに突っ込んだエースが、卓上の水を全て被ったのは、つい先日のことだ。





    「コンセプトカフェとは、特定のテーマを取り入れて全面に押し出すことで、他のカフェとの差別化が図られたカフェである」――そう書かれた記事を見せてきたのは友人の方だった。所謂メイド喫茶だとか猫カフェなんてのもコンカフェの一つらしく、暇潰しぐらいにはなるだろうと「ついてきてほしい」という友人のお願いをすぐに了承した。
    友人の目的は、SNSでたまたま見つけた女の子だという。目がぱっちりと大きく小顔で、モデルのようなすらっとした女の子の投稿は、話題のドリンクや友達との自撮りの他にバイト先での写真が多かった。
    その子の働くコンカフェはコスプレ系カフェではあるものの一つのテーマを持っているわけではなく、月ごとにテーマが変わる人気店らしい。それに従業員は女性だけでなく男性もいるということで、客層も偏りがなく誰でも気軽に入れることが売りだと友人が熱弁していた。
    『普通のカフェについてきたと思ってくれればいいからさ』
    そう友人は言っていたが、実際に店前に立ったエースは少し後悔していた。大きく飾られている看板は少し下品で、ガラス張りから覗く店内にいる客は八割鼻の下を伸ばした男性のようだった。
    からん、と軽快な音を立ててカフェに入ると、パステル調の店内に同じく可愛いブルーやピンクのセーラーカラーに包まれた店員の「お帰りなさいませ!」の声に出迎えられる。今月のセーラーめっちゃ可愛くね? という友人の言葉もそこそこに席についたエースは、適当なメニューを注文して溜息をついた。友人は目当ての店員を見つけ話し掛けてしまったし、手持無沙汰にスマホでSNSを巡回するしかなかった。
    「お待たせしました、ご、しゅじん、さま」
    そんな時、オムライスを片手に持った店員の声に、ハッと顔を上げると……――


    「って感じなんだけど」
    「……そんな話をしに来たのか?」
    「いいじゃん、チェキ代に五分トークも入ってるって書いてあるし~」
    相変わらずのファンシーな内装に似つかわしくない男が、呆れた顔でエースを見下ろす。あの日出会ったこの男――デュースは、エースが友人と連れ立って入ったコンカフェのアルバイトくんだった。
    「さっきも言ったでしょ、デュースに会いに来たんだって」
    再訪したエースはお一人様で、友人も一緒ではない。エースは、あの日一目惚れしたデュースに会う為だけに、コンカフェを訪れていた。
    ここに来た理由も経緯も洗いざらい話すと、デュースのどんどん目つきの鋭くなっていく。焦って言葉を紡いでも、なんだかすべて逆効果になっていくようだった。
    「そうやって人を揶揄って楽しいのか?」
    「揶揄ってねぇって」
    「こんな風にストーカーが付いてしまうキャストもいるけど、まさか僕になんて……」
    「たった二回会いに来たぐらいでストーカーとか、酷くね?」
    初対面のあの日、「触るな」と言われ強めに振り払われたのは記憶に新しい。指一本触れないよう顔を覗き込むと、勢いよく逸らされた。
    「とにかく、もう五分経ったからおしまいだ」
    「えー、じゃあチェキもう一枚追加で」
    「はあ!?」
    テーブルから去っていこうとするデュースを引き留める為に、メニューに書かれたチェキ付きお話し券を指さす。何にそんな金が掛かってるんだ、と思うぐらい高いけれど、デュースと話す為なら安いものだ。
    「……大学生、なんだよな? ここの食べ物だってチェキだって、こんなペースで頼んでたらバイト代あっという間に無くなるぞ」
    「バイトとかしてないけど」
    「そう、なのか?」
    「別に、親の金だし」
    ピシ、と空気が凍りついた気がした。何の気なしにキャッチボールしていた会話がぴたりと止んで初めて、デュースの眉間にそれまでと比にならないぐらいの皺が寄っていることに気がついた。
    「帰れ」
    「は?」
    「八番宅様、お帰りです!!」
    「「ありがとうございました~!」」
    氷のような冷たい声。呆気に取られている間にあれよあれよと会計まで通されて、店中の従業員の声に後押しされるように店外へと押し出された。
    「は、はあ~!?」
    ばたんと閉じられた店の扉の前で、エースは吼えるように叫ぶことしか出来なかった。







    「まじで、意味わかんねーって」
    「あ~、まあエースって人の地雷を軽々しく踏むからさ……」
    「見てもねーくせにテキトー言うなっての」
    もうろくに残っていないいちご牛乳のパックを行儀悪く啜りながら、友人の苦笑いを受け流す。大学の学食はいつだって喧騒に溢れていて嫌いじゃない。こうやってあまり人に聞かれたくない話ですらも、こそこそ隠すことをせずとも聞いている人なんてろくにいないだろう。
    べこりと凹んだパックを握り潰して、食後のデザートを頬張る友人をじとりと睨む。「通う為に節約すんの」なんて言っていた癖に、人を嵌めておいて良いご身分だ。
    「店入るとさ、デュースは居ませんって言われんの。オレが入るまでホールに居たのなんて分かってんのに」
    「お前、それ続けてたら今度こそ出禁じゃね?」
    「だからそうならないように、一緒に行こうぜって言ってるじゃん」
    「えー、今月執事だろ? あんまテンション上がんなくてさ……」
    確かに、しっかりとした燕尾服に身を包む女子は、どちらかというと同性人気の方が高い。可愛い路線の彼女を気に入っていた友人のテンションが低迷期なのも納得はしていた。
    それでも、友人の忠告通りこのままでは出禁になっても可笑しくない。既に他の店員に顔も割れ始めているし、他の一手が必要なのだ。
    「押してダメなら引いてみろでさ、行くのやめてみたら?」
    そう言ってケラケラ笑う友人に舌打ちをして、ゴミと化した紙パックを投げつけた。




    「あ」
    往来で思わず声が出てしまうぐらいには、エースは驚いた。大学から真っ直ぐ帰宅しようとしたエースの最寄り駅のホームは、夕日に照らされている。まだ帰宅ラッシュを迎えていないせいか人は疎らで、エースがその影を見つけるもの容易かった。
    「……デュース?」
    「? ゲッ」
    「ゲッて酷くない?」
    店以外でデュースを見るのは初めてだった。エースと同じく改札に向かおうとしているところを見るに、この駅が目的地なのだろう。しかも、例のコンカフェがある駅と異なるということはエースと同じ最寄り駅の可能性が高い。
    エースを避けるように歩く背中に追いついて横に並ぶと、嫌そうに顔を歪めるが逃げ出そうとする気配はない。改札を出てデュースが歩く方面はエースの帰り道とは逆だったが、黙って付いていった。
    「デュースこの辺住んでんだ」
    「……答えないぞ。個人情報話すなって言われてる」
    「店ん中じゃないじゃん、道端で会った知り合いってだけで」
    さすがのデュースもエースがいる状態で家に直帰する気はなかったらしい。駅直結のスーパーに入ると、付いて回るエースを気にも止めないまま買い物を始めた。
    新鮮な野菜に、生鮮食品。調味料とカゴに商品が増えていく。その間も、エースの質問には答えてくれた。
    「……僕の家は、母一人で僕を育ててくれてるんだ。だから、少しでも高い時給で働けるあそこでバイトしてる。本当は、接客が向いている質じゃないけど……」
    卵のパックを眺めながら、ぶつぶつと独り言のように会話が続く。段々とプライベートなことまで話し始めていることに恐らくデュースは気付いていないだろう。デュースと話す時間はそんなに多くなくても、デュースが少し間の抜けた真面目くんであることは分かっていた。
    一つのパックを手にしてカゴに入れると、あまり合わなかった視線が絡む。笑顔が見たいと思っているのに、やっぱり叶いそうにない。
    「僕は少しでも家計を助ける為に精一杯やってる。お前みたいに、親の脛を齧って生きてるようなやつには分からないだろ」
    どん、と胸の辺りを突き飛ばされて、身体がよろける。そこまで強い力ではなかったけど、やっとデュースの怒りの根源が分かった気がした。
    エースを退けてレジに向かおうとするデュースの腕を慌てて掴む。ぐっと力が入って振り解かれそうになったけれど、エースだってもう離す気はなかった。
    「……じゃあ、尚更じゃん?」
    「は?」
    「オレは、お前に惚れてる」
    「ほっ……!?」
    一瞬で沸騰した顔はスーパーの明るい電灯の中でよく映える。想像もしていなかった言葉に硬直した身体は電池切れのロボットみたいに動かない。掴んでいた腕から持っていた買い物かごに移動してそれを奪い取ってやっと、主導権すらも取られたことに気付いたようだった。
    「しかもオレはそこそこ金回りがよくて、お前に投資出来るってわけ。そしたら、オレを使って稼ぐ方がお前の為になるんじゃない?」
    さっさとセルフレジに並んだエースは、慣れた手つきで一つ一つバーコードをスキャンしていく。買い物の付き添いは、末っ子の得意分野だった。
    未だエースの言葉を噛み砕けないデュースが手を出せないうちに、あっという間にカード決済まで完了させる。量がそこまで多くないから大した金額にもならなかったけど、やっと思考が充電されたデュースは大声を出してエースから買い物袋を奪い取った。
    「こんなことして欲しくて話したわけじゃない!」
    「だから、利用すればいいじゃん」
    「っそんな、自分の利益の為に気持ちを利用するなんてことは……」
    「デュースさあ……」
    ――そんな風に甘いと、こうやっていいようにされんだよ。
    そう心の中で続けて、舌打ちをする。スーパーの外に出てさっさと逃げられると思ったのに、デュースは何か言いたげなエースの言葉を待っていた。
    ふわふわと気分が浮いて、ああ、好きだな、と胸が満たされていく。でも、うまく口から出せなかった。
    「とりあえずさ、いくらでデートしてくれる?」
    史上最高に優しい笑顔を浮かべたはずなのに、デュースの顔は困惑と哀傷で濁っていた。

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    siiiiiiiiro

    MENU2023/5/3「SUPERbrilliantdays2023」にて発行予定の新刊サンプルです。

    【スペース】東6り17a // milmel
    【サイズ/P数/価格】B6/表紙込54P/500円

    「幸せだけがハッピーエンドではない」をテーマにした、パロディのひめ巽3篇を収録しています。
    そのうち1篇はこちら⇒https://t.co/T6r2Wbq84D
    Silence CurtainCall①bite at neck (通常HiMERU×リカオン巽)


    この世には、自分によく似た人間が最低三人いるという。
    ドッペルゲンガーとも言われるそれに出会ってしまうと、寿命が縮むだの大病に罹るだの、様々な不幸が降りかかるらしい。安っぽいバラエティで声ばかり大きい芸能人が話していたことを、妙に覚えている。
    ――じゃあ、自分の大嫌いな人間にそっくりなやつに出会った時は、何の不幸と言えるのだろうか。




    「~っああもう! どうして言うことが聞けないのですか! 巽……!」

    フローリングを駆け回る足音がリビングに響く。自分のものではない軽いそれは、ろくに物を置いていないマンションの一室を縦横無尽に駆けていた。
    現在進行形で住んでいる寮とは別に借りていたここを、契約し続けていてよかったと思う日がこんなに早く来るとは想像も出来なかった。病院にも近く、仕事にも行きやすい立地で選んだだけで、決して今手を焼いている男の為ではないけれど。
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