冨岡が出勤すると、学校中とある噂で持ち切りだった。なんでも昨夜、不死川とカナエが宝石店から現れたところを学校関係者が目撃し、不死川の手には小さな包みがあったのだという。その時の二人の雰囲気は実に柔らかいものだったらしく、「おそらく婚約したのでは」と皆が騒いでいた。
不死川もカナエも完全に否定しているが、誰もが「おめでとう」「幸せに」と祝福していた。
その光景を見た冨岡は、嫉妬や悲しみよりもホッと安堵するような、心が軽くなったような、そんな気持ちを抱いたのだ。
これでやっと、さねみを解放してやれる。
もうこれで、いつ飽きられるのだろうと怯えずに済む。
普通の幸せを、選んでくれたんだな。
冨岡は心から祝福してあげたいと、穏やかな気持ちで不死川を見る。とてもとても優しい、本当に綺麗な微笑を携えて。
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