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    すずらん

    @whitelily9128

    お絵描きは小学生以来のデジタル初心者です。のんびり練習をしています。

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    すずらん

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    ポイピクに整理③

    月明かりの夜に「薪ちゃーん!今日は編み込みにしてー!」
     舞がご飯を食べ終わった食卓で薪さんを呼んでいる。可愛い舞のおねだりに薪さんは、すっかり手慣れた様子で舞の髪を結い始めた。
    「行ってきまーす!」元気よく舞がランドセルを背負って出ていくと、微笑みながら玄関で見送っていた薪さんが、くるっとこっちを向いた。
    「青木!何締まりのない顔してんだ!さっさとお前は仕事に行け!」
    ……薪さんは今日も怖くて可愛い。
     
     4月に福岡の第八管区から異動し、第三管区の副室長になってから瞬く間に3ヶ月が過ぎた。引っ越してきた頃の柔らかい日差しは日増しに強くなって、東京は暑い夏になりそうだ。
    突然増えた同居人に、最初はどことなくぎこちなかった薪さんも騒がしい環境に段々慣れてきたように思える。
     半年前から上司に東京への異動を打診されていた。全国区になった第九も3年が経ち、軌道に乗って来た様子を見て上層部は室長クラスの異動を検討し始めたようだ。
    俺の異動話を聞いた母は、福岡を離れたく無いから残ると言っていたが、恐らくは俺と東京に居る薪さんとの関係を考え、気を利かせたつもりなのだろう。正直、母が一人暮らしになるのは心配だが、まだまだ元気で町内会に参加している事を考えれば、見知らぬ土地で知らない人の中で暮らすよりは母にとっても良い選択に思えた。舞は、新しい生活に前向きで、まだ決まってもないのに、行ちゃんと一緒に東京に行く!!と大騒ぎだった。
    そんな俺の異動話は、当然薪さんも関わるところであり、最後まで舞の環境の変化を心配していた。
     いよいよ異動が具体化して来た頃、薪さんに会いに行くついでに東京での引越し先を考え始めた。出来れば、薪さんの近くに住みたい…でも、舞の為に職場に近い方が良いのかと葛藤する俺に、薪さんが逡巡しながら、「一緒に住むか…?」と聞いてきた時には、ポカンとしてしばらく固まってしまった。「嫌なら別に…「是非!一緒に暮らしましょう!!」と食い気味にかぶせ、そこからは怒涛の日々だった。
     薪さんのマンションも十分に3人で住めそうであったが、九州からいきなり都会のタワーマンション暮らしになるよりは、一軒家で伸び伸びと舞を生活させてあげたいと、荻窪の薪さんの古い実家に住むことを提案された。東京都内の一等地に薪さんが一軒家を保有していたことにも驚いたが、その広さにさらに2度驚いた。
     あれよあれよと言う間に、薪さんは一軒家のリフォームを済ませ、舞の春休みを待って引っ越しをした。
    引っ越しの夜、興奮する舞を寝かしつけ、水を飲みに台所に行くと、薪さんが居間の柱に刻まれた印を無表情で、でもどこか寂しそうに撫でている姿があった。それはよく見ると福岡の家でも見覚えのある成長の印だったが、50センチくらい離れた印は2つしかない。そして、慈しむ様に柱の印を撫でている薪さんは、縁側の月明かりに照らされ、その幻想的な姿に思わず言葉を失う。月に帰ってしまいそうな儚げな様子に、少し怖くなって、そっと後ろから抱き締めると、「舞は寝たのか…?」と小さな声で薪さんがつぶやいた。
    「あれだけはしゃいで、疲れたんでしょう。ぐっすり寝てますよ」と言うと、「そうか…」と薪さんがぼんやりと答えた。月明かりをまとった薪さんの髪がキラキラと輝いている。
    「薪さんも今日はお疲れでしょう。ゆっくり寝て、明日近所を探検に行きましょう」とベッドへと誘う。そっと手を繋ぐとポツリと薪さんが何か呟いたのを、聞き返さずゆっくりと寝室までの廊下を歩く。
    ――第九時代にたまたま青梅街道を車で通った事があった。その時、ふと会話が止まり、遠くを見るように窓の外を眺めていた薪さんを思い出した。あれはこの街だったのだろうか。
    薪さんの寂しげな表情の意味は分からないけど、いつか話してくれる日が来るのだろうか。
    「薪さん、近所に美味しいお店たくさん見つかると良いですね」と微笑むと、「お前、たくさん食べるから安い肉屋も見つかると良いな」と薪さんは意地悪く笑った。
    3人で過ごす日々が、いつか優しい記憶になれば良い。そう願いながら灯りを消して、薪さんを優しく抱きしめた。
     

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    kouyamaki

    DONEpixivに上げた「青木の選択」シリーズの続き。
    #9「悪計」

    悪戯の後、薪さんと青木がくっつくまでの話。他のシリーズとは別軸の2人です。

    福岡の土地勘無しで色々フィクションで書いています。おかしな点が多々あると思います。お目こぼし頂ければ幸いです。

    この話では季節はまだ冬です。

    このシリーズはあと1~2回で完結の予定です。お付き合い頂ければ幸いです。
    #9「悪計」 青木はクリスマス時期に取った休みを、予定通り消化しきれなかった。
     例年12月下旬に固まる予算案の決定がずれ込み、年越しとなった。来年度中は諦めていた分の研究計画予算をどさくさに紛れて計上すべく、青木は休みを切り上げて霞が関へ向かった。
     ここにきて、新しい省庁の設置が見込まれている。そこに新たな権益を確保すべく、警察庁もこどもに関する行政に急に積極的な姿勢を見せている。
     利用できるものは利用する。
     警察官僚出身の政治家へのレクチャーは、秋にミドリのもとを訪れた件の児童精神科医が協力してくれた。彼の計画への参画もほぼ確実となった。
     立場上、青木はミドリやつばき園の子供達には直接何もできない。せめてできるのは、子供達のその後を長期に渡って追う、この新たな研究計画を軌道に乗せることだ。
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