感傷、あるいは願い 物語の結末は、たいていは「めでたし、めでたし」といった幸せな結末で終わる。読者が気持ちよく本を閉じられるように。だが、それは「作られた物語」であるからだ。
現実はそうたやすくはない。人生が何かの拍子で狂い、あらぬ方向へ転がり、踏み潰されるなどよくある話。それが多くの人々、多くの人生が絡んでいるほどそうなりやすい。なぜならそれは、話の中心にいる人物ただ一人のための物語ではないからだ。誰しもが主人公であるならば、それぞれの思惑で人は動く。誰かが自分に都合よく歯車を組み替えれば、それは誰かの不都合となって歯車は狂い、壊れ、簡単に奈落へ転がり落ちる。それが故意であってもなくても。
ファウストは一時期、大きな物語の中心にいたことがあった。ひと昔前、桜雲街に今のような平和が訪れる前に。
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