今だけはその日は風が強かった。
固く閉ざされた窓の外には暗闇と吹き荒れる風のみが在った。
寝台にうつ伏せになり、セリスは本に筆で何かを書いていた。蝋燭の僅かな炎の光だけを頼りに、彼は書き綴っていた。
やがて風が静まる夜更けになり、蝋燭は貴重だから使いすぎるなという忠告を思い出してセリスは火を吹き消す。身体を仰向けにして、暗い天井を見つめている。物思いに耽りつつ暫くの間目を少しも動かさずに見つめ続けた。
寝台が軋む音が小さく聞こえたかと思うと、セリスはそこから降りて階下へ向かい始めた。
暗い中で目を凝らして階段を下る。特にあてがある訳でもなく、ただ気まぐれに自室を飛び出したのであった。
王族の城には、城内を巡回する兵が存在する。彼らには、例え軍の最高指揮官であるセリスであっても夜間の徘徊を注意する義務がある。彼らに見つかる可能性もあったが、今のセリスには自暴自棄な気持ちが宿っていた。
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