そよそよと心地の良い風が頬を撫でる。次の瞬間、ビョアツ!!と吹き上げるからデジタルワールドの気候は本気で読めない。
「きゃあッ!」
「ぉッ!」
一歩後ろを歩いていた二人の悲鳴が聞こえてくる。…一つは悲鳴と言ってもいいものか、議論の余地がある。
「泉ちゃん、輝ニ、大丈夫か?!」
「ごめんなさい、大丈夫よ。スカートがちょっと…」
振り返れば、真っ赤になった泉と、不機嫌そうに顔をしかめた輝ニが足を止めていた。どうやらさっきの強風が彼女たちにイタズラしたらしい。
「泉、これでも巻いておけ」
青色のパーカーを差し出しながら、風で乱れた髪を一度解いていた。「Grazie!ありがとうっ!」と満面の笑顔で返事を返した泉が、スカートを覆うように腰元にそのパーカーを巻く。
「気をつけろよ、女の子なんだから」
「ふふっ…こーじって、たまーに王子様みたいなところあるよね」
「…何言ってるんだお前は」
「あら?照れちゃって…かーわいっ」
照れてない!と声を荒げるが、髪の隙間から覗く耳が熱そうで、思わず吹き出してしまった。
「…おい拓也ァ…何笑ってるんだ」
「くっくくっ…悪い…だって、王子様って…」
「……ハッ、悔しかったら、俺よりもかっこいいところ見せてみろよ」
「……」
勝ち誇った様に笑う輝ニの髪がふわりと風に舞う。重力に従って落ちていく一本一本がきらきら光っていて、眩しさすら感じた。
カッコイイ、勇ましい、王子様…。どれを言われても多分コイツは喜んじまう。この5人の中で、誰よりもカッコよくて、勇ましくて、王子様の称号が似合う少女は、俺の目には"キレイ"に写っていた。
この感情はなんだろう。いつか伝えてみたい。どんな顔をしてくれるんだろうか。怒るかな、照れるかな。喜んで、はぁ…くれなさそう。カワイイじゃないから許してくれるかな…。強くありたいと願う輝ニの姿が、カッコよくて、勇ましくて、王子様で…そして、何よりもキレイだと。
いつか、伝えてみたいんだ。
輝ニが、寒いのか手持ち無沙汰からなのか腕を擦っている。お前が王子様なら、俺はお前専属の騎士にでもなってやるさ。
手始めに寒さからコイツを守ろうと、赤いシャツから腕を抜いた。