おかえり「おかえり、こはくちゃん」
「おかえりなさい、桜河」
「おかえりなさいっす、こはくちゃん」
昔は何とも思うことはなかった『裏』の仕事の後の
血の匂い 乱れた髪 世界が灰色にしか見えなくなる視界 悲痛な懇願の声が劈く路地裏 バイクの音 の 黒い世界
その言葉を聞く度に、抱きしめられる度に、バレませんようにと末っ子を装う
テーブルに広がるビール缶を横目に、長い脚を組みながら手紙を読んでいる人物の小指と、何本目かのビールを手にしている人物の膝小僧にそっと触れ、キッチンからのフライパンを煽る音を聞きながらその記憶を浄化させる
「おん。ただいま」
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