2人の朝通る仕事を終えて帰っていた時だった。家の近くのゴミ捨て場に人らしき影があった。様子を見に駆け寄ってみるとそれは見なれた人だった。
「……ルカ?!」
血だらけで服も破けて髪もぐちゃぐちゃなルカ──僕が密かに慕っている人──が倒れていた。呼びかけても少し叩いても反応は無い。脈があるのを確認し、深呼吸して冷静になる。ルカはマフィアのボスだ。仕事で何かあったのだろうと病院ではなく家に連れ帰った。できる限りの応急処置と呪術で荒かったルカの息は落ち着いき、やがて寝息になった。
「ハァ、よかった…」
一息つくとどっと疲れた。好きな人が大怪我したことで思いの外緊張していたのだろう。その日はシャワーを浴びてすぐに寝た。
ガタンッッ
ルカを寝かしていたリビングからした大きな物音で飛び起きた。
「ルカ?!」
リビングに駆け付けると倒れた棚とそのすぐ近くにルカが倒れていた。
「ルカ?!大丈夫?!」
「んッ…シュウ、?」
「そうだよ、僕、シュウだよ!」
「あぁ…よかった、」
そのまましゃがんでいた僕の方にもたれ掛かるもんだから心臓の音が聞こえてしまうのではとヒヤヒヤした。
「ルカ、大丈夫?昨日家の近くで倒れてて、仕事柄病院に連れていくよりも家で手当した方がいいのかなって思って連れて帰っちゃったんだけど…」
「ん、ありがとう。シュウが丁寧に手当してくれたおかげで痛みも落ち着いてる」
…嘘つき。ほんとはここがどこかわからず逃げようとしたけど傷が痛んで倒れたんでしょ?
なんて言えるはずもなく、体が密着した状態で沈黙が続いた。
「ッ、僕朝ごはん作るから適当にくつろいでて、!」
「あ、うん。ごめん、ありがとう」
謝らなくたっていいのに。どんな形であれ、好きな人がいる朝はなんだか気持ちが良くて、少し豪華な朝ごはんでも作っちゃおうかな、なんて浮かれてしまって。
「あ、シュウ、!」
「どうしたの?ルカ」
「おはよう」
「ッ、!」
大きな声を出せば痛むだろうに。やっぱりルカには敵わないや。
「、シュウ?」
「あ、ごめんなんでもない。おはよう!」
今までは適切な距離で良いと、想いなど明かすつもりなかったのに、またこうしてルカと朝を迎えたいと思ってしまった。我儘なのだろうけど、しょうがないじゃないか、好きなんだもん。
「シュウ料理上手なんだね、美味しかった〜!」
「ンは、よかった〜、やっといつものルカに戻ったね」
「え?」
「当たり前だろうけどなんか元気なかったからさ」
「POG!シュウには敵わないや」
「…ねぇルカ」
「ん、何?」
「今後も、一緒に朝ごはん食べない?美味しいの作るからさ」
「えっ、とそれは、?」
「僕ルカが好き。ほんとは言わずに留めとこうと思ってたんだけどまたおはようって言って欲しくなっちゃって…」
「え…シュウ俺のこと好きなの?」
「うん、ッ」
つい勢いで言ってしまった…あ、心配だから一緒に暮らそうだけでもよかったな。これで関係崩れちゃったらどうしよう…今にも涙が溢れそうで、でもきっと今酷い顔してるから俯いてるしかない。
「ッシュウ!」
「る、か、?」
あれ、僕何かに包まれてる…あ、るかが抱きしめて…え?!
「シュウ俺嬉しい!俺も同じ気持ちだったから」
「え…ほんと、?」
あー、なんて情けない声なんだ。さっきと違って今度は嬉し涙。こんな涙流せる日が来るなんてね。
「シュウ、俺シュウの事が好きです。こんな俺で良かったら付き合ってください!」
「ッ、はい、喜んで」
「あと、さっきの朝ごはんの話…」
「あ、結論言っちゃうとここに住まない?一緒に、って話」
「え、でも…」
「あ、勿論嫌ならいいんだよ?それにその…今付き合ったばっかりだし」
「違う!嫌とかじゃなくて、シュウが危険な目に合わないかが心配で…」
ルカはマフィアのボス。確かにそいつが住んでる場所は少なくとも安全じゃない、かぁ。
「大丈夫、だって僕呪術師だよ?そう簡単にはやられないし、そもそもここにルカがいるってバレないようにできるから」
「え、そんな凄いことできるの?!」
「えへ、まぁね。だからさ、嫌な訳じゃないなら一緒に暮らそうよ」
「その…シュウがいいなら、!」
「いいに決まってるでしょ!」
朝7時。卵を2つフライパンの上に落とし、2人分のパンを焼く。今日はサンドイッチにでもしようかな。
「んッッぅ…」
「あ、ルカ?おはよ!」
「ん、シュウおはよう!」