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    僻地。

    ミンナココニイタ

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    僻地。

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    別アカウントから転載〜ファンタジーパロで死んだり自殺したりしてるやつ〜

    ##文章

     浮腫んだ瞼を押し上げると、その下の黒い瞳が白濁に沈んでいる。焦点を結んでいない。目の縁どりに薄く貼った水に反射する光が、やけに眩い。
    「死んだのか、きさま」
     ……なぜ死んだ?
     そもそも本当に死んだのか?「意味がわからんな」あの生き汚い――傍目にわけがわからないほど生き急いでいるくせに、とびきりに生き汚い――男が死ぬとでもいうのか。真っ当な人間であったとでも。
    「そんなはずがないだろうが」
     青ざめた唇が開いて、今にも不明な言語で早口に話しかけてくるのではないかと、気が気ではない。そしておれの涙をあざ笑うのだ。胸の奥の臓がさっきから矢鱈に五月蝿いのは、その恐れの為に違いなかった。

    ***

     敵の手に落ちるのならば死を選べ。
     今際の際の矜持。ある意味では救いの形。自分自身に幾度となく言い聞かせてきたこと。であるから、車仁天が、抵抗の中で忍ばせていた短剣を懐から引き抜いたとき。傍の男の手に突き立てるよりも自分の首を掻き切ることを選んだのは、当然であった。

    「おれを弄びたかったか、なあ、悪趣味の虫螻ども、残念だったなあ――きさまらなんぞにくれてやる慈悲を生憎と持ち合わせていない……」
     残った左の腕で塚を乱暴に握り込む。
     切先を迷いなく自らの急所へ。
     男の太い首に頼りない刃はそれでも食い込み、肌を裂き、血管を引きちぎる。「死体を犯したくば犯せ! その位はくれてやろう。ああ、可笑しい、可笑しいなあ、気狂いどもが、あ、!」
     げたげたと笑うたび、喉から口から、夥しく鮮血が噴き出した。それはまさに赤であった。見る間に地面を染め、男の命を激しく削る。
     前のめりに倒れるそのとき、車仁天は殺意と狂気でもって口端を吊り上げ、笑ってみせた。

    ***

     屈強な男が胡座をかいて座り込んでいる。それよりはやや細身の、黒髪を首の後ろで結った男が近寄り、
    「おれに、きみの慈悲をくれ」
     そして祈りの仕草を取った。
    「……ふん」それを、請われたほうは鼻で笑った。「何を企んでいるかは知らんが……」言葉は伸ばされた手に遮られた。片手でゆるく頬を摩られ、なんとはなしにそれを返した。
     男の手は互いに無骨だ。それを受ける頬だって、丸くも、柔らかくもないのだから、なんの慰めにもならないはずだった。
    「後先、そんなものはどうだっていいのさ」請うた男は語る。「なあ、きみの言いたいことが、おれにはさっぱりわからない。きっと逆も然りだ。けれど、おれはそれでも、これしか知らないからなあ、奇跡を信じているわけだ。まったくおれらしくもない……わかるかい? きみの前では神の啓蒙な信者に成り下がっている。くだらない話だよ」
     男は黙って聞いている。いつになく鹿爪らしい顔をした男の、センチメンタルに浸されたそれがいつにもまして不明の単語に構成されたものであるから、やはり文意は爪の先ほどもわからなかったけれど、突っぱねることはしなかった。しかしこちらは行動で示した。鬱々あるいは朗々と喋るその喉仏をかすめ、うなじに指をすべらせ、首の付け根をなぞる。
    「あ、うわ、っ」不快感と擽ったさに身を捩ったかれは、それでも全てがわかった。
    「……いいのか」
     お行儀よく聞いてくるその顔を、屈強な男は両手で包んでやる。そして、言葉を使う男が同じようにする。
     そうやって、やっと唇を合わせるに至る。
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