「シャル兄ちゃん、大好き!」
そう言っていた笑顔は今でも思い出せる。
立香のその台詞はほんのちょっとしたことでもよく聞けた。
おやつを分けてあげた時、勉強の分からない所を教えた時、困っていたのを手伝った時、自慢にもならないような事でも何かが出来た時。
うまくいけば1日で何十回も聞ける言葉だ。
「ありがとう」や「カッコ良い」と言いながら、満面の笑みで大好きと言ってくれる弟。
愛おしくてどれだけ言われても飽きる事はない。
出来るだけカッコ良く浮かれすぎないように、なんて思っていてもそう言われると喜びにネジが飛ぶ。
「俺も大好きだ!」なんて言いながら抱き上げたのも数えきれないほどだ。
立香もそれが嬉しくて言っていたこともあった。
時々理由なんてなくても大好きだと言って、期待した目を向けてくるのだ。
それが何故か分かっていなかった頃、ありがとうと言って頭を撫でるだけに留めた事がある。もちろん立香は嬉しそうにしていたけれど、少しだけ物足りないという目を見せる時があった。はっきり言ったり、拗ねたりはしないけれど。
それが何度か続いて可愛さに耐えきれず抱き上げた時、ぱぁっと眩しいほどの笑顔で喜んで抱き着いてきた。さらに何度も大好きだと伝えてくる。
クセにならないはずがない。
立香の大好きにはハグで返す。
それが当たり前になり、もっと時が経つとこちらからも大好きだと抱きしめて立香が大好きだと抱きしめ返すやり取りも増えた。
あんな笑顔を忘れるはずがないし、忘れたくもない。今だってそれは変わらない。
「それが原因?」
「仕方ないだろ、立香があんな可愛いこと言ってくれるから!」
「カッコ良い!っていつもみたいに言っただけじゃないか」
「笑顔が可愛かった。俺が大好きな笑顔だ」
「……だからってみんなの前でいきなり抱き上げないで!あとそれは妄想の産物だからね!」