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    shmw_1818

    @shmw_1818

    応援ありがとございます!メギド72。デカラビア中心に色々かきます。

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    shmw_1818

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    幼馴染×デカラビア。セーマンだった頃のデカラビアの過去のお話です。

    セーマンの話 セーマンは俺の幼馴染だ。家が近所で親が仲良しで、年が同じ。小さい頃から当たり前のように遊んできた。虫取り、木登り、川遊び。学校でもいつも一緒につるんでいた。しかしある時から奴は急に態度が変わった。いきなり口調が大人びて一人称が僕から俺になった。付き合いが悪くなり、そして妙な言動をするようになった。

    「俺はヴィータではない」
     ちょうど、町で流行っていた英雄冒険譚を読み終わった頃だった。俺も夢中になって読んだところだったから、影響されたのだろうと思った。登場人物が、何せすごくカッコよかったのだ。特にヴィータの姿を借りた武神のヨ・イーチが三千メートル先の敵が食べようとしたネクタルの実を射抜いたシーンは胸が震えた。ヨ・イーチはそこで初めて自身がヴィータではないことを仲間に打ち明けるのだ。
    「セーマン、最近変だと思ったらヨ・イーチに憧れてんのか?わかるぜ、でも俺はプレン・キョモーリ派なんだよなあ」
    「そんなことは言っていない、現実の話をしているのだ」
    「ふふ、その口調……ぽいぜ。クールガイだもんなヨ・イーチは」
    「まあいい、いずれわかることだ。その時が訪れればな」
     ほとぼりが冷めればまたいつもの明るいセーマンに戻るだろうと思っていた。しかし年を重ねても奴はあろうことかそのままで、言動どころか行動までおかしな方向に突き進んでいった。学校の倉庫で爆弾を爆発させるし、授業はしょっちゅうサボるし、教師に偉そうな口をきくし、やることなすこと滅茶苦茶だ。お母さんにもお父さんにもかなり叱られたようで、爆破事件は流石にそれから起こしていないが、何処かズレたその立ち振る舞いは周りから奇異な目で見られるには十分すぎた。地頭はいいからサボり倒していてもテストの点数はいいけれど、クラスでは明らかに浮いていた。
    「ねえ、なんでセーマン君と友達なの?」
     クラス替えの度にそう聞かれた。俺はクラスの皆ともそれなりに仲良くやっていたし、タイプが真逆で妙に見えたんだろう。でも友達に理屈なんてないし、根はいい奴なのを俺は知っている。少し性格に難があるのは明らかだが、優しいんだあいつは。


     数年後、中等部に上がってもセーマンは相変わらずだった。
    「おい、セーマン!またサボりか?」
     町が一望できる郊外の丘の上。そこにある一番背の高い大木の枝の上がセーマンの指定席だった。高い所が好きなのは小さい時から変わらない。
    「…好きにさせろ、歴史の教師は嫌いなんだ。本流を捉えないただただ冗長な話は聞くに耐えん」
    「全く相変わらずだな、でもそれは同感だぜ。俺もサボったんだからちょっとは付き合えよ」
    「俺が降りるまでそこに居座るつもりか」
    「わかってんじゃないか、ほらおまえの好きな店のパンも買ってきたし」
     パン屋の紙袋をちらと確認すると、セーマンはスルスルと木から降りてきた。こういう素直なところもあるから憎めない。
    「で、何を買ってきた?」
    「クロワッサンと、あとタマゴサンドと、こっちは新作のなんだっけ、なんか甘いパン」
    「甘いのを寄越せ」
    「やっぱりな」
     木の幹に背を預け座り込んで二人でパンをもそもそと頬張る。遠くの教会から鐘の音が聴こえた。陽が傾きかけて、大木の影がオバケのように長く伸びていく。そろそろ最後の授業が終わる時間だ。
    「で、何の用だ?」
    「や、久しぶりにゆっくり喋りたかったんだよ。おまえ学校で話しかけても無視するだろ」
    「大した用でもないからだろうが」
    「いや、大した用なんだよそれが。相談に乗ってくれよ」
     学校の奴らには打ち明けられない悩みだ。他でもないセーマンに聞いて欲しかった。俺は息を整え口を開く。
    「俺さ!斜め後ろの席のエマちゃんが好きになっちまった!」
    「俺に言うな、本人に言え」
    「できないから相談してるんだよ!」
     エマちゃんは可愛い。そして学年で一番モテる。他の奴に相談したら揚げ足とられるかバラされて悲惨なことになる。でも誰かに聞いてもらいたかった。セーマンなら秘密を守ってくれる。
    「できないとはなんだ、ただ口にするだけだろうが」
    「あのさあおまえ本当…そういう単純な話じゃないんだよ」
     予想通りの反応とはいえ少し悲しくなる。周りが誰が好きだの付き合っただの盛り上がっていても、セーマンは全く話に入ってこないしそもそも必要以上に人と会話もしない。授業の合間の休み時間も一人で毒物の本読んでニヤニヤしてるし、それを見て女子はドン引きしている。顔はハッとするくらい綺麗なのにマイナス要素が多すぎて女子からはそういう対象として見られてすらいないようだった。もちろん、男子からも不気味だと距離を置かれている。
    「セーマン、好きな子と付き合うっていうのには手順ってもんがあるんだよ。だから俺悩んでるんだって」
    「ふむ、ヴィータというのは七面倒な手順をとかく重んじるからな」
    「そこはわかってくれるんだな、で、まず喋りはオッケーなんだよ俺すげえ喋れるし」
    「全くだ、今もやかましいぞ」
    「でもそこ止まりなんだよ今は。変にさ、アプローチしてそういう、そういう目で見られてる!いやらしい!て思われたら終わりじゃん?」
    「そこがわからん、察するにおまえの最終的な目的はそれだろうが。なりふり構わず求愛のダンスでも踊るがいい」
    「鳥じゃないんだからさあ⁈もっと情緒がいるんだって」
    「クックック……おまえの口から情緒という言葉が出るとはよほど深刻だな」
     セーマンは甘いパンを食べ終えると、丹念に指を舐めてさらに袋を漁ってクロワッサンを取り出した。見かけによらずよく食べる。
    「そもそも何故そいつが好きなのだ」
    「え?」
     意外な質問だった。どうやら相談をちゃんと聴く姿勢のようだ。
    「おまえの滑稽な様子を見ていたら興味が湧いてきた。詳しく聞かせるがいい」
    「えっと、ありがとな。そうだな、まず抜群に可愛いだろ?」
    「見た目か」
    「か、勘違いすんなよ!えっと、あとそれと、笑顔が可愛い」
    「見た目だな」
    「それだけじゃねえって!あとこないだ落とした消しゴム拾ってくれてそん時笑ってくれたっていうかそれがすごい可愛くて」
    「………」
    「もしかして俺今、すごいアホなこと言ってる?」
     セーマンは吹き出した。ツボに入ったみたいで涙まで浮かべてずっと笑っている。恥ずかしくなってきた。しばらく笑い倒した後、息を整えていう。
    「つまりヴィータは見目形の良い個体が生殖という観点においては圧倒的に有利という事だな。そして友好を示すことによって更にそれが増長される……いい知見を得た」
    「学術的にまとめんなよ恥ずかしい!」
    「気を悪くするな、実に面白い。俺も少し己の在り方を省みるべきかとすら思ったぞ?」
    「え?どういう意味だ」
    「ヴィータの心というものを操るのに、友好は欠かせないものなのかもしれんと思ってな」
    「操る?まーた物騒な物言いしておまえは。こういうのって理屈じゃないんだぞ。こう心臓がギューってされるみたいな、ずっと気になって相手の事を考えちゃうっていうかさ」
    「ふむ、やはり色恋沙汰というのは全ての判断を鈍らせる。洗脳に近いな」
    「ふふん、おまえも経験してみたらわかるよ」
     沈む夕陽を背にしてちょっとかっこよく言ってみた。セーマンだって、あまり想像できはしないけどいずれ誰かと恋に落ちるかもしれない。俺は一足先にそういう大人な感覚を味わっているのだ。ほんの少しの優越感のようなものが湧いた。
    「ふむ、まあ一理あるな。試してみる価値はあるかもしれん」
     大真面目な顔でセーマンは頷いている。全く興味がないわけでもなさそうだ。
    「あ、でもエマちゃんだけはやめてくれよ?俺が好きだから、別の奴にしてくれ。おまえ黙ってたら顔はいいんだから、本気出されたら俺勝てる気がしねえよ」
    「顔はいい?」
    「そこもあまり自覚してないんだなおまえ…。まあクラスの奴らもおまえはただの変人だと思ってるから見えてねえんだろうけど、ちょっと悔しいくらいには美形だよ」
    「ほう、そうか…?」
     不思議そうな顔を浮かべセーマンは少し黙り込んだ。本当に黙ってさえいれば、女子と見間違うくらい綺麗な顔なのだ。口を開けば物騒が飛び出し、人を見下したような表情ばかりしているから多分俺以外は気づいてすらいないんだろう。
    「ではこの顔は利用できるという事だな。エマと比べたらどうだ」
    「何言ってんだおまえ…そういうとこだぞ。女子と張り合うなよ」
    「単純な疑問だ。自分の顔は嫌いではないが、美醜の基準はうつろい易いもの、一般的なヴィータの美意識について知りたいのでな」
    「いちヴィータの俺から見て綺麗だと思うよ、エマちゃんに負けないくらいにな。その性格のヤバさを取り除いたら女子が放っておかないと思うけどまあ無理だよな……」
    「褒め言葉と受け取っておこう」
    「ポジティブすぎるだろ、まあだからこそ凡庸な顔の俺は他で補うしかないんだ。面白トークとか、あとはもう一歩踏み込むための何かさえあれば」 
    「助言になるかわからんが……」
     セーマンは俺の言葉を噛み締めた様子でおもむろに呟く。
    「…俺がおまえに伝えられることが、一つある」
    「え、何だ?ぜひ聞かせてくれよ」
     セーマンの言葉は信頼できる。素っ気なくても毒があっても、奴の言葉はいつも嘘がないし何より的を射ている。冷静な視点が有難くて、本当に何かあった時相談したいと思えるのはいつもこいつだった。
    「エマの事だが、先週末ここでシヌーンと逢引していたぞ」
    「は?」
     頭から冷水を浴びせられた気分だった。耳に入ってきた言葉に対して脳が拒否反応を起こしている。
    「この丘はあまり人が立ち入らないからな。いつものように木の上で寝ていたんだが妙な声がして下を見たらそれだ。詳しく聞きたいか?」
    「待って待って嫌だ嫌だ嫌だ」
    「まあなんというか、盛りのついた猫のようだったぞ。流石の俺も降りるに降りれなくて困った、仕方ないから事が終わるまで観察していた」
    「うわああああ、嘘だと言ってくれよ!」
    「俺は嘘はつかん」
    「知ってるよ‼︎」
     シヌーンは学校の生徒会長だ。背が高くて筋肉もあって顔も頭も良くて人望があって足も速い。太刀打ち出来る相手ではなかった。まだ何も始まっていないのに俺の初恋は唐突に終わった。そもそも、あのエマちゃんがここでそんな事をしていたなんてショックすぎて死にそうだ。その場に突っ伏して俺は泣きに泣いた。先日ペットのリスが死んだ時より泣いた。

    「やはりそうなるか」
     しばらく経ってから、セーマンの気の毒そうな声が降りかかる。
    「グス、うう、酷えよ、そりゃ泣くだろうが、す、好きだったのに」
    「ふむ、なるほど……」
     後頭部に柔らかい何かを感じた。手だ、髪を撫でられている。誰がと思ったが一人しかいない。
    「え?え?」
    「何かおかしいか?」
     意外すぎる行動に動揺した。いや、人としておかしい行動ではないけれどセーマンがするととんでもなくおかしい。普段は肩に触れたくらいでも嫌がって払うのに、自発的に人の頭を撫でて慰めるなんて。涙も引っ込んでしまった。
    「あ、ありがとう?どうしたおまえ変だぞ」
     慌てて涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げると、撫でる手はピタリと止まった。気まぐれだったのかと思った瞬間、今度は片手を握られる。
    「えっ」
     自分の心臓が跳ね上がる音が聞こえた。意味がわからない。これも慰めのつもりなんだろうか。恐る恐る顔色を窺う。木から落ちる影と夕闇に溶けてわかりづらいが穏やかに笑っているような気がする。うんと小さい時は手を繋いでその辺を駆けずり回ったりもしたけれど、今のこの状況は少し理解が追いつかない。冷たいかと思った手は予想に反して暖かい。そこに意識を向けていると、じわりと掌に汗が滲んできた。
    「セーマン……その」
    「今はどんな気分だ?」
    「や、その、もう大丈夫な気分になったから!ありがとな!もう行くかっ」
     妙な雰囲気にこれ以上は耐えられない。手をさりげなく解こうとして立ち上がったが、解けなかった。さらにぎゅうと握られ引き寄せられて尻餅をつく。
    「いっつ、て、な、何だよおまえ」
    「………」
     今度は無言で顔を近くに寄せてきた。異様に近い、顔がいい、いや、いよいよ訳がわからない。何の真似だこれは。エマちゃんの事でパニックになった以上に混乱してきた。満足そうに微笑むセーマン。形のいい薄い唇がゆっくりと動く。
    「シヌーンはエマにこうしていたのだが」
    「いやいやおかしい、それを俺相手にするなよ。何のつもりだよ」
    「おまえがどんな反応をするのかふと気になってな、なるほど随分動揺するのだな」
     本当に知りたくてそうしているかのような口振りだった。こういうところが危なっかしい。
    「セーマンおまえ、ほんとダメだぞ無闇にそういう事したら。勘違いされるって!好きな相手ができたらそいつにそうしろ。てかいきなりはダメだ何つーか順序をだな…その」
     言いかけて気づく。正しい順序は俺もよく知らない、が、とにかく釘を刺しておくべきだと思った。誰彼構わずこんな真似をして回ったら、また別の変な噂が立つに決まっているしそれは流石に可哀想だ。
    「おまえの事は嫌いじゃないぞ?」
     悪びれもせず言うのがタチが悪い。
    「あのなあ、それは友達としてって事だろうが。友情と恋愛は別なの、で今のおまえが試そうとしてるのは後者の方なんだよ」
    「ほう……?その二つは明確に区別できるものなのか?境界をどう引くか教えろ」
    「や、それは人によるだろうけど…何となくで分かれよ」
    「阿呆、分からぬから尋ねているのだ。いずれにせよ、俺はそれが何なのか、何をもたらすのか知りたくなった。今後の野望の為にも、知る必要がある。他の相手と言われても、すぐには思いつかん…今までヴィータと必要以上に関わっていないからな。おまえは羽虫のようにしつこいから例外だが」
    「しつこくて悪かったな!いや、というか自然〜にその時を待てばいいだろ?俺相手じゃなくてもいつか見つかるって、考え直してくれ頼む」
    「悠長に待つ暇はない、ヴィータの生は短いからな。そもそもおまえの七転八倒を見て興味が湧いたのだ。それならば俺の望みを叶えてくれても良いだろうに」
     酷い言い草だ。しかもとんでもない提案をしていることに当の本人がまるで気づいていない。気づいていないと言うより色んな事を気にしていない。まるで違う世界の人間と会話をしているようだった。ここまでぶっ飛んだ考えの持ち主だとは思わなかった。
    「セーマンおまえ本当にヴィータ離れしてるよな……」
    「俺はヴィータではないと言っただろうが」
    「なんか今ならそれが信じられるよ」
    「クックック、ありがとうよ。そう言ったのはおまえが初めてだ」
    「だいたい具体的に何が知りたいって言うんだよ、言いたくないけど俺だって経験はねえし、おまえの期待してるような『知識』?みたいのは何も与えられねえぞ」
     何とか思いとどまって欲しくて、説得を試みる。そもそも大事な友達だ。
    「思い違いをしているな。知識とは他人から無条件に与えられるものではない、自らの手で探り掴み取るものだ。その過程にこそ真実が潜んでいるのだ、このようにな」
     滔々と語る様子に呆気に取られていたら、次の瞬間ふっと視界が暗くなった。
    「……」
     生温かいフニフニとした感触が自分の唇にある。吐息が吹きかかってきて、ようやく触れているそれがセーマンの唇だということに気がついた。
    「ぎゃわああああ⁈」
    「ほう、悲鳴を上げるか。なかなか愉快な反応だ」
    「いや、なんで!おい!何してくれる」
    「気分はどうだ?」
    「最悪だよ!いきなりキスする奴がいるかよ!しかも口に!は、はじめて、うわあ」
    「なるほど…どうやらおまえの言う順序をすっ飛ばしたようだな。そこについては悪かった」
     恭しく頭を下げたかと思うと今度は俺の右手を両手で包んできた。手の甲に唇が押し付けられる。驚きのあまり固まる俺を上目遣いで見て、確認するかのように小さく囁く。
    「ではこうか?」
    「そういう意味じゃ、おまえ…ダメだってそれは」
     無邪気なのか計算なのか、面白がっているのか真剣なのか全く読めない。手の甲、指先、指の間に掌。啄むように唇が触れる度、背筋にビリッとした感覚が走る。心臓がバクバクと音を立てて鼓動が速くなっているのが自分でもわかる。これは本当にまずい。
    「や、やめろってこれ以上は」
    「これ以上はなんだ」
    「変な気分になるって言ってんだよ!」
    「つまり興奮状態か、エマでなくても構わんのだな。俺の顔が良いからか」 
    「は、はああッ⁈」
     指摘されてさらに心臓が潰れそうになる。しかし言われた通り確かに相手がセーマン以外の、例えば、想像したくもないが筋骨隆々のシヌーンだったら俺は相手をグーでブン殴って『ふざけんな』の一言で終わらせた気がする。無駄にセーマンの顔が綺麗で、華奢な体をしているのが悪い。
    「ふむ、いい学びを得た。見よう見真似だが案外通用するものだな」
    「無理やり押し通すなおまえ!ほんと俺じゃなかったら大変だぞ!」
    「大変?」
    「そんなことしたら、普通なら自分が好かれてると思って…えっと、本気にされるって言ってるんだよ。どういえばわかるんだ……?マジでいつか痛い目みるぞ、不安でたまらねえよ」
    「やはりおまえは面白い。ヴィータとしての社会通念を口うるさく諭す者は多いが、心から俺の心配をしているのはどうやら両親とおまえくらいのようだ。改めて礼を言ってやる」
    「どういたしまして‼︎」
     握られっぱなしの手をブンブンと振り、収拾をつけようとした。地頭はいいし、人の心情も案外読めるくせに、どうしてこうズレてるんだろう。どうしても放っておけない。悪い奴じゃないんだ、根っこのところで妙な優しさがある。
    「いい加減帰るぞセーマン!また遅くなったら両親の雷が落ちるんじゃないか?」
    「それは俺の望むところではないな。仕方がない、今日のところは帰るか」
     セーマンは何事もなかったかのようにスルリと手を解くと、さっさと早足で丘を下りはじめた。切り替えが速すぎる。俺は少し屈みながらそのあとを必死で追った。家が近いせいで帰るまではほぼ同じ道なのだ。

     帰り道、ポツポツと明かりの灯った家々から夕飯のいい香りが漂ってきていた。ギリギリ怒られるか怒られないかくらいの時間だろう。ただサボったのがバレていたらどっちにしても怒られるのだが。
    「じゃあ、また明日な。学校サボるなよ」
    「明日は薬草学の授業があるからな、サボるつもりはない」
    「ならいいけど」
     分かれ道で、セーマンは少し立ち止まった。何か言いたげにこちらを見ている。
    「ん?どしたセーマン」
    「……先ほどの行為だが、また付き合え」
    「ふぁっ⁈」
    「あの程度ではわかった内に入らん。それにおまえでなければ勘違いをされて大変と言われてしまったからな」
    「俺なら大丈夫だとか、そう言う意味じゃねえんだけど!」
    「俺としても本気にされるのは実に面倒で困るのでな、その点おまえならば安心して事に及べるというわけだ。先ほどのおまえの反応を見るに、存外悪くない提案ではないか?」
    「悪さしかないけど!もう帰れ帰れ、持ち帰って検討する!馬鹿!」
     手でしっしっと追い払うと、目を見開いて驚いた顔をされた。まるで理解できないようで首をひねっている。癪なことだがそれが妙に可愛らしい仕草に見えた。
    「検討の結果が出たらすぐに教えろ、ではまたな」
     優雅な歩みで家の扉をくぐるセーマン。そのままぼんやりと立ち尽くしていると、程なくしてセーマンの両親の声が外にまで響いてきた。心配しただの遅いだのの怒鳴り声。あいつの事だ、また意味のわからない説明をしてるんだろう、いや……さっきのことをありのまま正直に話していたらどうしよう、十分あり得る。俺はああいう行為は人前で話すもんじゃないと説明し忘れた。まずい。
    「おじさん、おばさん!セーマンは悪くないです!俺が引き止めちゃってすいません!」
     間一髪駆け込んだ俺は何とか必死にフォローを重ね、事なきを得た。
     

     セーマンはやはり変なやつだ。これからも、俺が見守っていかなければいけないのだ。 
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🌳💜👏👏👏😭💜💜💜
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    shmw_1818

    DONE前作セーマンの話の続き。デカラビアの言動に振り回される幼なじみの話。
    さよならセーマン 前編 セーマンは俺の幼馴染だ。親友だ。先日、恋愛相談をしたら俺の好きなエマちゃんがクラスのイケメン、シヌーンと付き合っていることが判明し急転直下の失恋に打ちのめされたかと思ったのも束の間、何故かセーマンにブッチュとキッスされ、しかも続きを試させろと求められている。どうしてこうなったんだ。一日で起きていい情報量ではない。

    「で、返事はまだか?」
     しれっと真っ昼間の休憩中の教室でそんなことを言ってくるのがセーマンだ。せめて声を顰めて欲しい。
    「しーっ教室で聞くな馬鹿……おま、本当そういうとこだぞ?」
    「ふむ、何か問題だったか?では帰りに今一度問うとしよう、それまでに答えを出しておけ。流石に待ちくたびれたぞ」
     あれから一週間経っていた。先延ばししておけば、いずれ興味を失って諦めてくれるかと一縷の望みを託していたのだが無駄だったようだ。返事をしなければいけない。しかし困った。俺は別に男が好きなわけではない、エマちゃんへみたいな普通に可愛い胸の大きい女子が好きだ。いや、好きだった。セーマンは確かに綺麗な顔はしているが、同性だしそれより何より友達とそういう関係性になるつもりはない。気を抜くとずっとあの日の事を反芻して何とも言えない妙な気分になってしまってはいるけれど、それはそれ、これはこれだ。
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