散文　ふっと目を覚ますと、目の前に石流の寝顔があって、乙骨はぼんやりとその顔を眺めた。下睫毛の伸びた目は閉じられていて、薄く開いた口が僅かに呼吸を刻んでいた。
（……寝てる）
　その状態は明らかで、乙骨もほんの一瞬前まで寝ていたのだから当然だ。
（いつも僕よりさっさと先に起きてるから、こんなにしっかり寝顔を見るのは珍しいかも）
　そんな風にまじまじと石流の顔を見つめていれば「んー」と唸りながら、石流が身動いだ。
「……おっこつぅ～～…」
　そしてその口が思ったより気の抜けた声で自分のことを呼ぶものだから、乙骨は目をパチクリとさせたあと、フフッと笑みを零した。
（僕の夢でも見てるのかな）
　そんな風に思ったら、なんかかわいいなぁと思って、じんわりと愛しさが溢れてきた。
（…キス、したいなぁ…）
　そして石流の顔を見つめているうちに、その唇が目に入って、そこに触れたくなってしまった。いつもだったら、キスしたいと思ったら、何故か石流の方からキスしてくれる。それもなんで分かるんだろうと思ってしまうが、今は彼の目は閉じられていて、乙骨がそんな気持ちになっていることにも気付いてくれない。
（キスしたい……少しだけ、してもいいかな？）
　そんな風に思いながら、身を乗り出し、石流の顔に自分の顔を近づけた。起きている時は、額の上からポンパドールが飛び出てて、キスするのに邪魔じゃない？って思うけれど、さすがに寝るときまでその髪型ではない。それでもその髪型のために、長く垂れ下がった髪を少し横にずらして、ちゅっとその額に口づけた。
　唇を離してから、石流の顔を伺った。額へのキスだけじゃさすがに起きないか。それならこっちはどうだろう？今度は瞼にキスしてみた。ピクンと震えたような気がして、起きたかな？って顔を見てみたら、まだまだすやすや夢の中だ。
（意外と起きないもんだな…）
　少しずつ、乙骨の中で、このドキドキが癖になってきた。
　じゃあ今度は鼻の先だと、口づけてもやっぱり目を覚まさなくて。そしたらもう、最後は唇にするしない。ドキドキとそわそわで、少し乙骨の息はあがっていた。その状態で、そっと石流の唇に、自分の口を合わせた。
「んっ……」
　柔らかくて優しい、時には激しく求められるキス、自分から触れたらこんなにも違うのかって思うくらい、何も反応がなくて少し寂しい。
　ちゅっちゅと彼の唇を啄むようにキスをして、それから舌を伸ばしてその唇を撫でた。そしたらするりとその間に舌が入って。
　ああこれで、もっと深くキスが出来る、そう思った、直後。

「ンっ……！」
　乙骨の舌が、石流の口内に入ってすぐ、待ち構えられていたように、彼の舌に絡め取られた。同時に、乙骨の身体を緩く包むように回されていた、石流の腕が、ぎゅっと乙骨の身体を抱き締めてきて、更には後頭部を抑えられて、身体を引くことも出来なくされた。
「ふぁ、ン…はぁ、ぁ……」
　舌の裏を撫でられ、敏感な場所を擽られる。唇が一度離れたかと思えば、覆い被さられて、今度は彼の舌が自分の口内に入ってきて、舌だけでなくその中の隅々まで撫で回された。息が出来なくて苦しくて、でも、気持ち良くて頭がボーッとしてくる。
「ん、はぁ…あん、ふぁ、ア……」
　やっと唇が離れたかと思えば、濃厚すぎたそれに白い糸が伸びた。ぼんやりと石流を見つめれば、「すげぇ顔だな」と言われて、べっとりと唾液のついた唇を舐め取られた。
「ん……う……」
「っ、とに……朝から煽るんじゃねぇよ…」
　そう言われて、もう一度キスをされた。それがもっと欲しくて、彼の首に腕を回した。

　起きなければならない時間まで、出来ればこのまま、もう少しだけ。