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    S_Y_pkmn_b

    書き物とかまとめ置いとくとこ。
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    S_Y_pkmn_b

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    ⚠︎本編で登場するpkmnと相違点有。
    ⚠︎︎支部から再掲+手直し

    イッシュ地方では野生で居ないはずのユキワラシを拾って新しい住処へ送り届ける話。

    ゆきの滲む、その先でヤグルマの森の奥から大木を打つ音が響く。
    音の主はダゲキのアヤム、この辺りに住むダゲキの中では比較的若いポケモンだ。修行の為に一晩中森の最奥で技を試していたが、流石に疲れたのか手を止めて持ち歩いていたヒメリの実を頬張り始める。
    「ふぅ……一先ずこれくらいにしておくか」
    木の幹を背に座り込んだ、その時だった。少し遠くの草むらが揺れるのが見え、思わず木の実を食べていた口をむぐりと止める。
    「……誰だ!」
    もしかしたら自分達を狙ったトレーナーかもしれない、と即座に立ち上がり構える。
    しかしその心配は要らなかったようだ。
    「これって…ユキワラシか……?」
    草むらからちょこんと出てきたのは、見たことの無い小さなポケモン。しかし名前だけは知っていた、遠い雪国では有名な生き物なのだと聞いていたからだ。
    突然のことに驚いていると「こんな所で珍しいなぁ」とオレンジ色のナゲキがアヤムの背からひょっこりと顔を現した。
    名はツトム、修行の群れからはぐれてしまったナゲキだ。たまたま近くを通り、アヤムに挨拶でもしようとしたところチラッとユキワラシが見えたから寄ったらしい。
    ユキワラシは元々イッシュには居ないポケモン、恐らく主人と離れてしまったのだろう。

    「……なぁ、このユキワラシ……もしかして弱ってないか?」
    自分の倍以上ある図体のポケモンに囲まれて怯えているのもあるのだろうが、それよりもアヤムは雪国にしかいないはずのポケモンがいる方が気になったのだろう。
    歩み寄って少ししゃがみ込み、かなり冷たいはずのユキワラシの額へ掌を当てると、引っ込める程の温度ではないことにアヤムは驚いたように目を見開いた。
    「早くコイツが住めるところに連れてかないと……!」
    慌てて抱き抱えると、アヤムはまず何か情報が無いかと森を歩き回る。
    こういう時は大抵パニックになっているのだ、それを分かっているツトムはやれやれといったように肩を竦めてアヤムを追いかけていった。

    「……ねぇ、本当にこの子の住処を探すの?」
    この辺って涼しい場所なんてあったっけ?とツトムはポテポテと足音を立てながらアヤムの後を追う。
    「当たり前だろ、それに俺たち冷たい物とかは大丈夫だし……」
    特別寒さに弱いわけじゃないしさ、とアヤムは未だ暑さで震えるユキワラシを抱えたまま歩き始める。ヤグルマの森はイッシュ地方の南側にあり、オタマロ達の住む湿地帯もあることから、涼しい土地を好むユキワラシには厳しい環境だ。
    「うーん……キミはどこから来たんだ?」
    「……とっても、さむいとこ…」
    ひんやりとした体温を感じながら、アヤムはユキワラシに尋ねる。
    大人しく抱かれながらぽそりと呟くユキワラシに、アヤムとツトムは困ったように顔を見合せた。この近くで寒いところ、ましてや涼しい土地すら覚えが無かったからだ。

    「……アヤ兄、あそこにいるローブシンに聞いてみようよ」
    もしかしたら何か知ってるかもよ?と、ツトムはアヤムの袖をクイクイと小さく引っ張る。
    弱って震えるユキワラシに視線を落とすと一応冷静にはなったのか、ツトムの提案に頷いてそのローブシンがいる方向へと再び歩き出した。
    「この辺で寒い地域か?……はて…」
    だがツトムの提案も虚しく、有益な情報は手に入らなかった。
    声を掛けられたローブシンは考え込むように手を顎に添える。ヤグルマの森の中ではリーダーに当たるようなポケモンで、とても博識だと噂があったが、それでも思い当たる場所がないようだ。
    やっぱり自分達で歩いて探すしかないか?と困ったように顔を見合わせるアヤム達であったが……

    「オヤカタさん、寒い地域っていうとセッカシティってとこになりますぜ!」
    「セッカシティ?」
    オヤカタと呼ばれたローブシン、アヤムとツトムは声の主の方へ振り返ると首を傾げる。
    ふふん、と小さく鼻を鳴らしていたのは小さなドッコラーだった。
    「そうなんス! この森から北西の端にある街なんスけど、何でも冬になるとめちゃくちゃ雪が積もるらしいんスよ」
    その辺で遊んでたニンゲンの子供が言ってたんス!とドッコラーは胸を張る。
    「確かにそれならこの子も住めるかも…!」
    良い情報じゃないか、とアヤムは嬉しそうな表情を浮かべたが、何故かツトムの顔色は優れなかった。どうしたんだろう、と不思議そうに見上げるユキワラシに、ツトムはおずおずとその口を開く。
    もしかしたらこのユキワラシは捨てられたのかもしれない、そんな不安が頭を過ったのだ。そしてそれは当たっていたらしく、ツトムの言葉を聞いた瞬間、アヤムの腕の中にあった体が強ばった気がした。
    アヤムもその可能性を考えていたようで、少し悩んだ後ゆっくりと口を開いた。だが、彼が紡いだ言葉は全く違うものだった。
    このまま見捨てたりなんかしない、俺達と一緒に行こう。その言葉にユキワラシは目を丸くして見上げ、ドッコラーもえぇ!?と驚きの声を上げる。
    「俺達がしたいのは、あくまでもこの子が住める所に送り届けることだ」
    それまでは絶対に手放したりなんてしない、とアヤムは腕の中のユキワラシに告げる。少しの沈黙の後、こくりと小さく首が縦に動いたのを見て、ツトムとアヤムはホッと息を吐いた。
    そうと決まれば早速行くぞ、とアヤムはユキワラシを抱いたまま頷き、道案内を頼んだドッコラーと共に森の外へと足を運んだ。

    「本当はここから近いホドモエシティって所にも冷凍コンテナがあるから、そこでも良かったンスけど……」
    あそこはニンゲンの出入りが激しいから、とドッコラーは続けた。ユキワラシを抱きながらアヤムは「何でそんなに森の外に詳しいんだ?」と何気なくドッコラーに尋ねると、さっきまでにこやかに話していた彼は一瞬だけ顔を曇らせた。
    「…実はオイラも、ニンゲンに捨てられたんスよ」
    「えっ!?」
    驚きの発言にアヤムとツトム、抱かれていたユキワラシが全員目を見開く。
    「捨てられて、森の中で彷徨っている時に助けてくれたのがオヤカタさんなんス」
    だから恩返しの為にこうして身の回りの事をさせて貰っているんス、と少し照れくさそうに頬を掻く。
    それに、とドッコラーは続ける。
    「同じように行き場のない子がいたら、やっぱ助けたいじゃないっスか!」
    ニカッと笑うドッコラーの姿に、ツトムは「優しいんだねぇ」と呟くと、ドッコラーは「へへん」と自慢げに笑みを深めた。
    「……お前、名前は?」
    「……? オイラはトビって言うんス」
    「じゃあ、トビ。今度からは俺たちが困った時、力を貸してくれないか?」
    その方がお互いの為にもなるだろ、とアヤムは優しく微笑む。アヤムの提案に、ツトムもうんうんと大きく何度も首を縦に振った。
    「そ、そこまで言われちゃ断れないッスね……! 分かった、オイラで良ければ喜んで!」
    よろしくお願いするッスー!!と元気よく返事をするドッコラー、いや、トビにアヤムとツトムは笑いながら「こちらこそ」と頷いた。

    そうこうしているうちに、気が付けばライモンシティにまで来ていて。辺りも暗かったので、一度休憩を挟むことにした。
    「……あぁ、そうだ。なぁ、トビ」
    「? どうしたンスか?」
    「その……オマエはどうして捨てられてしまったんだ?」
    唐突にアヤムからの質問に、うーんと小さく首を傾げる。
    不味いことを聞いてしまったかな。そんなことを考えながらアヤムはトビの回答を待つ。
    「たぶん、飽きたんスかね」
    「飽きた……?」
    予想外の答えに、アヤムは首を傾げた。
    大抵捨てられる…良くいえば自然へ逃がされるポケモン達は「強く立派に育ててあげられないから」「図鑑というものに情報を書き込むために一度捕まえなければいけないから」等、様々な理由があると聞いていたからだ。

    「はい。オイラはほら、こんな姿なんで……」
    そう言ってトビは体のあちこちにある浮き出た血管のような部分を指差す。
    ドッコラーやドテッコツ、ローブシン達にある特徴的な盛り上がりだ。筋骨隆々なポケモンにはありがちなモノだとアヤムは思っていたが。
    「見た目もあんまりいいモノじゃないし、ニンゲン達と完璧な意思疎通ができる訳でもない」
    だから捨てられたんでしょう、とトビは苦笑した。

    「でも、もう平気っス! オヤカタさんのおかげで新しい居場所ができたんで!」

    これからはここで頑張るつもりなんスよ!と意気込むトビに、アヤムは「そうか」と笑って頷いて見せた。
    あの子もただ自然に返されただけだと良いんだが…と思いながら、ツトムと話しているユキワラシを見守りながらアヤムは次第にうつらうつらと居眠りをし始めたのだった。



    それから一晩が経ち、すっかり回復した一行は再び歩き出す。道中何度か他のポケモン達と遭遇し、喧嘩を吹っかけられたりもしていたが、流石と言うべきかその度にアヤムは彼らを蹴散らしていた。
    そんな彼に抱き抱えられているユキワラシはというと、最初は緊張した面持ちだったが次第に慣れてきたのか今ではぐっすりと眠っていた。
    そして数時間後、ライモンシティからホドモエシティを抜けて外に出ると、そこには暗い洞窟が現れた。トビ曰く「電気石の洞穴」と呼ばれるそこはとても道程が長く、通り抜ける頃にはボロボロになってしまうかもしれないとの事だった。
    「だから、暫くはこの中で泊まるしかないと思うンスけど……」
    大丈夫っスか?と不安そうな表情を浮かべるトビに、アヤムは問題ないとばかりに力強く首肯して見せる。先に進むと光りながら浮いている石のお陰で思ったより明るいようで、初めて見る景色にアヤムもツトムも目を輝かせていた。

    だが、そんな二人とは対照的にいつの間にか目を覚ましていたユキワラシはずっと俯いたまま何も喋ろうとしない。それが心配になった二人は一旦足を止め、ユキワラシの方へと視線を向ける。すると彼女はビクッと肩を震わせて怯えた様子を見せた。その反応を見て、もしかして…とアヤムは辺りを見渡す。
    「あっ、もしかしてあのコイルか?」
    無機質な見た目のポケモンが見えて呟くと、ユキワラシはコイルと呼ばれた生き物をじっと睨むように見つめている。その姿がまるで何かを訴えかけているかのように見えて、アヤムは腕の中のユキワラシに優しく声をかけた。
    「怖がる必要はない、お前になんかあったら全部吹き飛ばしてやるよ」
    そう笑うアヤムに安心したのか、ユキワラシの表情は少し和らいだ。その様子を見届けてから、また三人は再び歩き出す。
    道中アヤムもツトムも何度かバトルを挑まれたり、ただ遊んでほしいだけバチュルに絡まれたりしていたが、軽くあしらってしまうあたりは流石としか言いようがない。
    特に何事もなく進んで行くと、やがて開けた場所に出た。そこは今まで歩いてきたどの空間よりも明るくて、とても涼しい所だった。

    「さて、セッカシティはこの街を抜けたらスグっスよ!」
    先導していたトビが進行方向を指差してアヤム達に告げる。アヤムもツトムもようやく見えた目的地にホッとしたような表情を見せていた。

    ────その時だった。

    アヤムの額に、点々と冷たい何かが当たる感覚がしたのだ。それはツトムとトビも、アヤムの腕に抱かれるユキワラシも感じていた。
    「もしかして……これって雪?」
    まだ秋なのに、とツトムは信じられない!と言ったような表情で雪を拭う。
    「どうやらここは…本当に一年中寒いらしいッスね」
    だからか、とアヤムはトビの声に納得する。どうりでまだ暑い日があるというのに雪が降っているわけだ。それにしても随分と降り始めたものだと空を見上げる。
    セッカシティに着いた途端、アヤムに抱かれていたユキワラシがみるみるうちに元気になっていく。挙句には冷たすぎて持てないほどに回復していたので、アヤムはそっとユキワラシを地面に下ろしてあげることにした。
    「良かったぁ、これならこの子も安心して暮らしていけるね!」
    嬉しそうに駆け回るユキワラシにほっとしたツトムとトビだったが、アヤムは改めて「ここでお別れか」とボヤき眉を下げて笑う。その言葉に驚いたのは言うまでもない。
    だが、この広い世界で再会できる可能性の方が低いことを理解しているのか、ツトムは何も言わずに苦笑してみせた。
    それから暫くの間、アヤム達は思い出話に花を咲かせていたが、ふとユキワラシがとことことアヤムの足元に歩み寄ってきた。
    どうした?とアヤムが目線を合わせるようにしゃがむと、ユキワラシは何処からかキラキラと光る薄いウロコのようなものを取り出した。
    「これは……ハートのウロコってヤツっすね!」
    本物は初めて見たッス!とトビが横から手元を覗いて目を輝かせる。
    とあるポケモンから採れるものらしいが普通は中々手に入らないらしく、人間と行動を共にしていたことがあるトビですら初対面の代物だったのだ。
    「これを……俺にくれるのか?」
    そう聞くと、ユキワラシはこくりと大きく首を縦に振った。アヤムは礼を言うと、それを受け取って大切に道着の隙間へと仕舞った。その様子にユキワラシは満足げにぴょんぴょんと跳ねると、そのままどこかへ行ってしまった。

    「……行っちゃったねぇ」
    降り続ける雪と陰る霧で見えなくなったユキワラシを見送りながらツトムは呟く。短い間だったとは言え、一緒に過ごした仲だ。トビも例外なく寂しそうに笑って頷く。
    オイラ達も戻らなきゃッスね、とトビが歩き出そうとした時。動こうとしないアヤムに気付き、振り返る。

    「……ユキワラシー!元気で暮らすんだぞー!」

    大きく息を吸い込み、アヤムはユキワラシが消えていった方向へ大きく手を振った。その様子にツトムとトビは顔を見合わせて頷き、その声と共に手を振ったのだった……



    季節は流れ、寒い冬がやってきた。
    活動的だったオタマロ達は大人しくなり、静かな森で木を打つ音が一層響き渡る。いつものように修行をしていたアヤムは額を伝う汗を拭い、休憩を取ろうと木の幹に凭れ掛かる。ぼんやりと景色を眺めていると何かを思い出したように「あっ」と声を上げた。
    そういえばあのユキワラシ元気かな…と道着の隙間にしっかりとしまわれたハートのウロコを出して眺める。あれからというもの、アヤムは毎日欠かさずそのハートのウロコを身につけるようにしていた。何せ自分達が送り届けたユキワラシから貰ったものだ、しかもあんな綺麗なものを貰っておいて思い出さないだなんて失礼だからな。そんなことを考えながら再びしまうと修行を再会しようと立ち上がる。
    その時少し遠くでガサガサと草むらが動いた。思わず固まってじっと見つめるが、その正体にアヤムの顔がパッと明るくなった。



    「おにいちゃん、あのときはありがとう!」



    おれいをいいにこれたよ!と告げる声の主はニッコリと笑って、あの時と同じようにぴょんぴょんと跳ね回って見せたのだった─────



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