こういう時、どういう反応をするのが正解なのか。そんな事、分かりきっている筈なのに。
「…聖堂騎士クリック・ウェルズリー。どういう思惑があって、私にそれを言うのです?」
差し出された小さな白い花、真剣な顔をしている彼、そして言われた言葉。
思考を巡らせずとも理解出来る事柄であるのに、頭がそうだと理解をするのを拒絶する。いずれこういう日が来るのだろうなと分かっていながら、気付かない振りをしていたのは私だというのに。
ふとした瞬間に、いとおしそうに私を見つめている瞳がある事も知っていた。私に触れる時に、まるで壊れ物を触るように優しく触れるその理由も。私の名を呼ぶ時に、その声色に宿っている感情も全部全部。
「君の知り合いに、異端者でも居るのですか?その者に許しを与えよ、と言うのですか?見逃せ、と言うのですか?…見くびられたものです、それぐらいで私が揺らぐとでも?」
「違います。」
「何も違わないでしょう!異端審問官に愛を伝える意味なんて、他に何があると言うんですか!?」
本当なら、彼にこんな事をさせる前に止めなければならなかった。その想いを何か別の物と差し替えるなり、形があやふやな状態のまま揉み消してしまわなければならなかったのだ。彼が歩むこの先の未来を、本当に想っているのなら。
それなのに私は何もしなかった、出来なかった。彼といる時間が心地好くて、失うのが怖くて、見なかった事にしてしまった。それでこの様かと、私は私を嘲笑った。
「…テメノスさん。」
名を呼ばれ、ヒュッと一瞬息をするのを忘れてしまった。
「僕を信じられないと言うのなら、僕を審問してください。いくらでも、貴方の気が済むまで。」
彼の瞳が、真っ直ぐ私を見つめている。その瞳に映る私の顔は、酷く怯えた顔をしていて。
何をそんなに怯えているのか、自分でも分からない。変わってしまう事に?それとも…。
「受け止めて欲しい、とは言いません。ただどうか、どうか貴方だけは、僕のこの想いを否定しないでください。」
それは違う物だと、勘違いなのだと、どうか言わないで。
「僕は、貴方を愛しています。」