【夏五】花火大会【祓本】 またか、と思った。
ほとんどなにもなくなった部屋を見ても、案外冷静だった。たぶん、どこかでは予感していたのだと思う。
初めて参加した賞レースでそこそこいいところまでいって、結果瞬く間に注目を集めて、目が回るくらい忙しくなって、半年も経たないうちにピンでの仕事も増えた。手に入れた金でちょっといいところに引っ越して、さあここからまた一緒にって笑いあったのに、顔を合わせることも少なくなっていった。
五条でさえすり減っていたのだから、繊細な相方はもっとだろうと予想はついていた。ついていたが、頑固なまでに通話アプリを入れない相方にせいぜいメールで大丈夫かと尋ねることしかできず――だから。
ついさっきまで、五条はひとりで3日間、泊りがけの仕事だった。こっそりと引っ越しの作業をするには十分な時間だったのだろうと思う。
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