最後の傷「ユリウス。邪魔するぞ」
書類にサインをもらうべく、友の研究室を訪ねる。おざなりなノックを数回。宣言と共に返事を待たずして扉をくぐれば、にょろにょろと伸びてきた触手に「ぎ」と奇妙な挨拶を受けた。つるりとした頭を左右へ振っているから、恐らく歓迎なのだろう。棘を撫でてやると鋭い牙が呑気に微笑み、「主人はどこだ」と聞けばマントの端をついばまれた。引っ張られるままついてゆけば、友は机の上でなにやら怪しげな小包を上機嫌に解いている。
「なにか仕入れたのか? 怪しいものじゃないだろうな」
「勿論。健全かつ安全な素晴らしい逸品だとも。高らかに入室の宣言を聞いた後だよ? 君に見せられないものであったなら足元に隠して書類仕事のふりでもしているさ」
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