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    sushiwoyokose

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    sushiwoyokose

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    アルユリ落書き 画像読みにくかったのでこっちにも~

    些細なるいぶき騎士団員用に拵えられた訓練場には、隅に小さな花壇がある。女中が騎士に気を利かせて……などという浪漫は残念ながらない。花壇と言えば聞こえはいいが、あれはどこぞの研究者様が勝手に作り上げた実験場なのだ。中庭の手入れで出る枝葉がもったいないからと山のように引き取って、微生物がどうたらと言いながら植物を土へ返し、それを立派な土壌にしているのだから大したものではあるのだが。
    「ユリウス」
    時刻は昼飯に丁度いい頃合いだ。手にした紙袋には、サンドイッチが二人分。もちろんユリウスと分けようと考えて買ってきたものである。食事の誘いをかけるべく友の姿を探し回ると、悠然とした背は件の花壇で見つかった。
    「おや、午前ぶりだね親友殿。ランチのお誘いかな?」
    「そんなところだ」
    紙袋を揺らすと、友の顔を柔らかな笑みが彩った。軽やかに振られた手の意味するところは、少し待てといったところだろう。ずかずかと隣に並び立ち、にわか雨を浴びる花壇を見下ろしてみる。湿った土からは、小さな双葉がいくつか顔をのぞかせていた。
    「よかった。土、ちゃんと生きていたんだな」
    「手入れさえすればどうとでもなるさ。ふふっ、懺悔に来た君の顔と言ったら傑作だったがねぇ」
    「真剣に悩んだんだぞ、笑うことないだろ」
    「くふ、ふふ、ああそう睨むな雷迅卿。しょぼくれた君はどうにも愛らしくておかしいんだ」
    喉を鳴らすユリウスは心底楽しそうな顔をしている。しかし、揶揄うような声音の後ろには痛いほどの気遣いが透けていた。わき腹を軽く小突いて唇を尖らせるが、それ以上友を咎めることはできない。彼が笑う理由は一つ。俺の心に深く刻まれた後悔を、優しく薄めるためなのだ。
    ユリウスが姿を消してしまってすぐ。なにか一つでも友の名残を感じていたくて、俺はこの花壇の手入れをしはじめた。当然、土いじりなど見様見真似である。慣れない世話に植物はみるみるしおれ、ついにはすべてが枯れてしまった。ユリウスが大事にしていたものを駄目にした罪悪感と、思い出を消してしまった喪失感。あの日の絶望たるや、これでもかというほど落ち込んだのは言うまでもない。
    花壇を潰してしまった、とユリウスに懺悔をしたのは数か月前だ。彼の怪我がほぼほぼ癒え、リハビリがてら土いじりを始めようかと言い出したところで、そういえばと己が罪を思い出した。吐露を聞き届けた友の答えは今日と同じような笑み。そんなことかいと笑うなんてことのない返事が、あまりにも幸せで少し涙ぐんだのはバレていないと思いたい。
    「こんな小さな場所まで守ろうとしてくれるとはね」
    「何にだって縋りたかった」
    「そうかい」
    「寂しかったんだ」
    サンドイッチが濡れないように気を払いつつ、ユリウスの背に身体を寄せる。肩にずしりと頭を乗っけても、小声や触手は降ってこない。
    「わかるとも」
    にわか雨が止んだ。空になったじょうろを半ば放るように追いやって、ユリウスは柔く金髪を撫でつけてくれる。
    「なぁ、今植わってるのはなんの種なんだ」
    「普通の花だよ。薬にするでもなんでもない、ただ、ただ、きれいに咲く花さ」
    「どれくらいで咲く?」
    「二か月もしないうちに。ただ、うまく世話をすると種が取れる品種でね。来年、再来年と、次々楽しむことができるはずだよ」
    「……一緒に見られるか?」
    「一緒に見るために植えたんだ」
    頭から滑った手が、力強く指先に絡みつく。一方的で痛いほどの握手。もう離れまいと誓われているようで、たまらずがばりと顔をあげた。
    「約束か?」
    「約束だ」
    淡い口付けに呼吸が止まる。貪欲な獣が腹の底でもっともっととさざめくのを、必死の気合で圧し留めた。離れていく体温が恋しくとも、今ユリウスを求めれば端正な顔を困らせてしまう。
    「さて、これでひと段落だ。またせたね親友殿。今日は辛うじて空の機嫌がいいから、ランチは中庭でいかがかな」
    「……、ああ、準備しよう」
    口付けの甘さが消える名残惜しさが昼飯と天秤にかかったが、すぐさま後者に傾いた。薄れたらまた、上塗ってもらえばいい。それほど近い場所にいるのだ。何も憂うことはない。
    くすぐったく微笑みあいながら、二人そろって訓練場を後にする。見上げた空はユリウスの言う通り、わが国にしては上機嫌な曇天だった。
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    sushiwoyokose

    DOODLE何度でも擦りたいギュステのバカンスアルユリ いずれスケベシーンを足したい気持ち
    西日の祝福常夏のアウギュステは夕暮れ時になっても暑く、しかし祖国の夏と比べれば空気が乾いていてさっぱりとしている。汗ばむ肌を海風に晒すと、ちょうどよく冷えて心地が良い。長髪を靡かせる友が「中へ戻ろう」と言い出さないのは、きっと彼もこの空気を心地いいと考えてくれているからだろうなんて、勝手な推測を押し付ける。コテージのベランダに二人。何を言うでもなく夕日を眺め続けているが、小波の音以外特に会話もなにもない。沈黙の共有は、何より友愛の証だった。美しい光景を隣に立って一緒に見つめる。それがどれだけ幸福なことか、俺たちはよく知っていた。
    (長閑だ)
    執務室で睨む時計と、アウギュステで見つめる時計とでは針の進みが異なる気がしてならない。楽しい時間というのは往々にしてすぐさま過ぎ去ってしまうものだが、常夏の時間はありがたいことにゆったりと遅く流れている。以前より気を遣うようになったといえ、祖国に戻れば執務に追われる毎日が待っていることだろう。酒も煽らず、言葉もなく、ただひたすらにぼうっと呆ける贅沢なひとときは休暇と銘打った今しか味わえない贅沢だ。深呼吸を一つ、二つ。塩辛い空気で肺を満たし、少しずつ色を変えていく空を眺める。
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    sushiwoyokose

    DOODLEガイゼンボーガ→→ジータ
    仄かな兆し あるいは萌芽初めて命を屠った日のことを、昨日のことのように覚えている。誰しもが意外と言うだろう。己自身、不可思議である。今や自ら死の溢れる戦を渇望しているというのに、そこに後悔など何もないように思えるのに。何故、あの不気味な畏れを未だ覚えているだろう。
    初めての戦場はそれはそれは酷いものだった。統率はもちろんろくな装備もない。歪んだ鎧を力づくに捻じ曲げながら着込み、刃こぼれした剣を頼りなく握る。どちらも無駄死にした誰かの使い回しだろう。勝ちに行く気持ちなど微塵も、足掻く気持ちだってもちろん。死への恐怖は積もりすぎてあまり感じず、あと三ヶ月もすれば美しい春の花畑が見れたのにとぼんやりした後悔が残るのみだった。
    律儀な開戦の合図はなかった。強いて言えば、偵察に行った味方の兵士がばん、ばん、と遠方から撃たれたその音と血飛沫が合図であった。雄叫びに悲鳴が混じって足音がやかましくなる。混乱に乗じて後退りすれば逃げられたかもしれない。しかし、誰もが前へ進んだ。後ろへ戻れば、春を待つ故郷がある。それを踏み躙られるくらいならば、足止めになろうと言う気概はもしかするとあったのかもしれない。吾輩に宿る微かな覚悟もそれだった。穏やかな故郷がせめて何か守られれば意味もある。だが覚悟という鎧は、貧相な装備の何より早く弾け飛んでしまった。立ちはだかる相手軍は皆足並みが揃っている。戦いに慣れた一振りの太刀筋が、洗練された一発の砲撃が、何か恐ろしい獣のように見えた。
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