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    sushiwoyokose

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    sushiwoyokose

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    熱出すユはなんぼあってもええですからね(看病アルユリ)

    ておいのけだもの自決騒動以来、我が親友の目は本当に鋭くなってしまった。申告するまでもない若干の不調はもちろん、自分でも全く気の付かない小さな変化さえ紅眼は一切の違和感を見逃さない。
    「……。お前、少し顔が青くないか?」
    「今日は至って健康だよ、冗談でも強がりでもなくね。さすがに勘違いじゃないかい」
    「ふむ……、いや、そうだな……。今しがた昼もきちんと食べていたし……」
    アルベールが買ってきた件のサンドイッチを、彼の執務室で平らげたその後。食後の休憩代わりに雑談を繰り広げる中で、ふと親友の紅眼が険しくなった。まったく心当たりがないので、問いかけには緩やかに首を横へ振る。嘘の見極めにおいて、右に出るもののいない雷迅卿だ。私の返事が嘘でないことはわかっているのだろう。だが、自身の直感を疑う気にもなれないらしい。納得したような言葉を零しつつ、親友の真剣な眼差しはいまだ私に突き刺さっている。
    (間違うこともある、と、思いたいが。……アルベールの直感は十中八九で当たるからな……)
    くすぐったく視線を受け止めつつ、急ぎの仕事がないかどうか自分の予定に思案を巡らせた。殊体調に関して口うるさくなった親友の一言は、このところ凄まじい精度を誇るのだ。彼が言うのであれば何かがおかしいに違いない。もしかすれば、午後の予定すべてが棒に振られる可能性もある。
    不調の自覚がなくとも体調が急変する、というのはこのところよくあることだった。腹を抉った傷が、ふさがった後もどうにも尾を引き燻っている。医者曰く、血が足りていないのだそうだ。ありえない量の失血を、ありえない技術――つまりは星の力で充填したことで、細胞が混乱しているらしい。こればかりは薬で補助できるものではなく、時が経ち身体が「ありえない状況」に慣れてくれるのを待つしかないというから厄介なものだ。動けなくなるのもそうだが、友の肝を冷やしてしまう申し訳なさが私の胸を締め付ける。
    「見直しても青く見えるかい?」
    「ああ。明確にというわけではないんだが……いつもと違うような気がする。……なぁ」
    「ふふ。そう心配そうな顔をするな。みなまで言わずとも、君の勘を信じるさ。悪いが午後は休む。対策本部に何かあったら面倒を見てやってくれ」
    「……!」
    返事を聞いたアルベールは、ぎょっとしたように目を丸くして私を眺めた。言い出したのは君だろうと笑いつつ、緩やかに身支度を整える。
    「退院してから今日にいたるまで、君に指摘された不調の予報はよく当たる。大丈夫と答えて倒れたこともままあるだろう? 素直になることにしたのさ。ようやく復帰させてもらった執務だ、身を粉にしたい気持ちもないではないが……なにより君の安寧を守りたい」
    「……。そこは自分の身と言ってくれ」
    呆れたようにため息をつきつつ、アルベールの顔が目に見えて安堵に包まれる。働きすぎて倒れた回数ならば果て無く彼のほうが多いはずなのだが、ほうっと微笑む穏やかな表情に反論する気にはとてもなれなかった。
    「対策本部には俺が伝えておくよ。ついでだ、部屋まで送る」
    「歩いて三分もあるかないかの道を騎士団長殿に護衛していただけるとは光栄だね」
    「やりすぎという自覚はあるんだ、これでも。だが……やれることをすべてやらないと落ち着かない」
    悔し気に握りしめられた手を、解くように包み込む。剣士にしては滑々と柔らかかったアルベールの掌は、随分と障り心地が悪くなった。天雷剣が焼いた肌が、ただれて固まってしまっているせいだ。白い肌に浮かぶ火傷の跡は、彼の身体に散る戦いの跡のどれよりも痛々しい。マイム君や医務班が施してくれた手当を、そのままきちんと続けていればここまで酷い跡は残らなかっただろう。しかしアルベールは、天雷剣から受けた痛みを「罪の証」として掌に残すことを決めてしまった。彼が苦しむ必要はどこにもなかったのに、苦しむことでなにか許されようとしたらしい。血筋がなくとも父に認められる強さに妬みはあった。王の命と友の絆を比べられ、真っ先に選んでもらえなかった子供じみた悔しさも然り。だが、だが決して、彼を恨んだことはない。何か許しを請うなら、よほど私のほうだというに。しかし、伝えども伝えども、彼は私の許諾を一向に受け入れてくれなかった。それほどまでの後悔があるのだろう。アルベールという男の人生において、ユリウスという存在が存外に宝であることに気が付けなかった私の責任だ。
    私を想って歯を噛むアルベールを見ると、申し訳なさに胸がきしむ。
    同時に、それほどまでに大切にされているという喜びが萌えることは心を共にする触手しか知らない。
    「加減をしてほしい、などと。私が咎める権利はないのだろうね。……君を変えてしまったのは私だ。傷をつけたといってもいい」
    「いや……。うん、そうだな。本当に、目の前で友に死なれることほど夢見の悪いこともない。嘘の未来を誓われる悔しさも。欺かれて一人残される寂しさだって」
    「ああ」
    「だがお前の負った痛みのほうがよほどということも、わかっている。わかった気になどなってはいけないのかもしれないが、知ってはいたいんだ。だから俺は、もう少し痛みが欲しいとさえ思う。できるのなら、同じくらいの痛みを」
    「自己犠牲はよせと誓い合わなかったかな」
    「……」
    「私を大事にしろというのなら、君も君を大事にしたまえよ。一心同体なのだろう?」
    ほの暗い心に目が向いてしまったらしい。しょんぼりと目じりを下げる友の背を、景気づけるつもりで軽やかに叩く。言葉を借りて鼓舞すれば、赤は比較的すぐに元気を取り戻してくれた。
    「……、善処する。はは、何をするにも不器用でいかんな。もう少しうまく振舞いたいものなんだが」
    「ふ……、そこが直ってしまったら、いよいよ貴公子の欠点がなくなってしまう。少しは愛らしさを残しておけよ、個人的な意見を言うならば気に入っている部分でもある」
    「……そう、なのか。意外だな、完全なほうが好みかと」
    「実験とは過程を楽しむものだよ雷迅卿。わかりきった事象を眺める面白さもあるにはあるがね」
    「どちらに転んでも愛してくれると聞こえる」
    「どうとでもとりたまえ」
    綿毛のようにふわふわとした金糸を撫でつけ、外へ出るぞと目配せをする。この柔らかさだけは、若いころから変わらない。子ども扱いするなとわめいていた友は、今や嬉しそうに目を細めて笑うばかりだが。
    「仕事に片が付いたら様子を見に行く。ちゃんと休めよ」
    「肝に銘じるよ。君も、慌てるあまりに執務をおろそかにしないようにね」
    「ありえる。気を付けよう」
    軽やかに笑い声を交わしながら、静かな廊下を歩いてゆく。不調の兆しはいまだなく。しかし、窓の外に嘶く遠い雷鳴がなぜだか不穏な音であるような気がしてならなかった。
    ◇◇◇
    しょり、しょり、しょり。
    「……ん」
    妙な音がする。耳元からだ、これは何の音だったろう。聞き慣れているような、そうでもないような。くるり、くるりと疑問が巡る。
    「……? ユリウス? 起きてるのか?」
    「……、んん」
    ぼんやりと漂う意識を覚醒させたのは、妙な音に混ざって聞こえる友の声だった。起きている、というほどはっきりしているわけではなかったが、アルベールの声に答えぬわけにはいかない。彼の恐怖心を、これ以上煽りたくない一心で喉を絞る。無理くりに瞼をこじ開ければ、視界が随分とぼやけていた。
    「わた、しは……?」
    「俺の勘が当たったんだ。熱がある。ここのところと比べると大分高いぞ、気分は?」
    「……、気分、は……別に。ぼんやりはしているけれど……。よく寝たからかな……」
    「ふっ、確かにぐっすり寝ていたよ。もうすっかり夜だ。手持無沙汰で林檎を剝いていたんだが……食べられそうならどうだ?」
    ああ、そうだ。しょりしょりと鳴っていたあの音は、林檎の皮が剥けていく音だ。答えを得たことに思わず口元を綻ばせると、アルベールからも嬉しそうな吐息が落ちる。何か勘違いをさせたような気もするが、彼からもらう看病の贈り物は須らく私の心を弾ませる。零れた笑みを歓喜と取られても、あながち間違いではない。
    「ほら。無理はするなよ」
    「ああ……、ありがとう」
    そっと体を起こしてみる。何度か瞬きを繰り返すと、ぼやけていた視界も多少ましになってくれた。眩暈がしたり頭痛がしたりといったその他の不調もあまり感じられない。血の増減が落ち着かないが故の発熱だろう。この類の不調は突発的に起こる代わりに、火照るだけなのが救いだった。
    差し出された小皿には、赤い耳をぴんと立てたウインドラビットが二羽乗っている。成人男性の見舞いにしては愛らしすぎる細工だが、アルベールは私の看病となると必ず林檎をこの形に切る。始まりは友になったばかりのころ、もうずっと昔からだ。はじめこそ揶揄うつもりで切ったようだが、「看病される」という環境に慣れていなかった私があまりに無邪気に喜ぶものだから、向こうも嬉しくなってしまったらしい。
    「上手くなったものだね」
    「特技と言っても過言ではないな。この技術はグランサイファーでも大いに役立った」
    「ふふふ。ああ、目に浮かぶようだよ。あれでいて団長たちはかわいらしいものに弱いからな」
    一口齧った林檎はみずみずしくて甘い。少しぬるいが、それでも火照った喉に心地よかった。体温が上がっていると眠るだけでも体力を持っていかれる。思いのほか腹が減っていたようで、手持ちのふたつはすぐさま胃の中に消えてしまった。
    「いつ食べても格段に美味いものだね、寝込んでいるときの果物というのは」
    「それだけで健康になる気がしないか?」
    「くふ、君らしい。まぁ気持ちはわからんでもないよ。栄養価が高いのは事実だろうしね。……もう一つほしい」
    図々しいねだり方だったが、アルベールは笑顔で頷いてくれる。空になった皿は瞬く間に攫われ、小刀を構えた手が器用に果実を加工しにかかった。具合が悪いときは少し傲慢になっても許される。この感覚も、愛らしい林檎と同じくアルベールに付き添われるようになって初めてもらったものだった。
    「よかった、食欲があるなら回復も早いだろ」
    「そう願うよ。……スライムに似せて切ってくれ」
    「うちはウインドラビット専門だ」
    「ふふふ、じゃあそれで」
    ふと降りた沈黙を、しょり、しょり、と小気味のいい林檎の音が埋めていく。小さく割られていく果実を見ていると、なぜだか胸が暖かくなった。のみならず、唐突に目頭が熱くなる。はっと気づいた時には、ぼろぼろと涙が頬を落ちていた。理由もわからない涙に困惑しながら、アルベールに気づかれる前に拭わなくてはと焦りを覚える。が、熱にぼやけた頭では俊敏な動きなどできるはずもない。結局、林檎に集中していたはずの男が不意に目線を上げるほうが早かった。
    「……、っ、おい……?」
    「いや……、別に苦しくもなんともないよ。なんだろうね、どうということはないんだけれど」
    見るからに動揺した親友殿は、手にしていた一切を手近のテーブルに預けると、わき目もふらずに私の頭を抱き寄せてくれた。有無を言わさぬ抱擁にけたけたと笑うが、離れがたくて背にすがる。
    「……、孤島で一人の時も、すこし具合をくずしたことがあった」
    「うん」
    「ひとりで眠るのは、寂しかった。昔に戻っただけだと思っても、どうしようもなく寂しかったんだ」
    「うん」
    「それを今……、すこし、思い出してしまったのかもしれない」
    「そうか」
    分厚く皮膚をゆがませた掌が、服の上から力強く背を摩ってくれた。正直痛い。けれどそのほうが、ほっとする。
    「すまない、なんでもないから……。もう、大丈夫だよ」
    「あやまることでも、なんでもなくでもないだろう。……俺の傷をあやしてくれるように、俺もお前にそうしたい」
    「傷……、きずと呼べるだろうか」
    「傷だよ。孤独に慣れようとするのも、痛みを押し隠して笑おうとするのも、全部お前が長く負ってきた傷だ」
    じっと体温を分け合う時間が続く。身じろぎもせず身体を預ける私を、アルベールは飽きずに摩って抱きしめてくれた。
    思えば、互いに手負いの獣じみている。大切な友が幸せでいてくれればそれでいい。ごく単純な願いに気づくのに、随分と余計な遠回りをしてしまったものだ。ぼろぼろになって、ようやく二人でたどり着いた未来。ここに来るまでに、あまりに多くの危機があった。失ってしまうかもしれない恐怖、離れ離れになってしまった悲しみ。溢れる感情を理解する間もなく、現にこうして遅れた怯えが押し寄せている。もしかすると、こうして何気ない沈黙をただ寄り添って過ごすことが、今の私たちにとって何より肝要なことなのかもしれない。
    「なぁ……アルベール」
    「ん」
    「ずっと……、ずっとこうしていたいね……」
    「ああ。そうしよう」
    迷いのない頷きに満足する。互いの鼓動が混ざる距離が、今は何よりもの薬になるような気がした。
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    sushiwoyokose

    DOODLE何度でも擦りたいギュステのバカンスアルユリ いずれスケベシーンを足したい気持ち
    西日の祝福常夏のアウギュステは夕暮れ時になっても暑く、しかし祖国の夏と比べれば空気が乾いていてさっぱりとしている。汗ばむ肌を海風に晒すと、ちょうどよく冷えて心地が良い。長髪を靡かせる友が「中へ戻ろう」と言い出さないのは、きっと彼もこの空気を心地いいと考えてくれているからだろうなんて、勝手な推測を押し付ける。コテージのベランダに二人。何を言うでもなく夕日を眺め続けているが、小波の音以外特に会話もなにもない。沈黙の共有は、何より友愛の証だった。美しい光景を隣に立って一緒に見つめる。それがどれだけ幸福なことか、俺たちはよく知っていた。
    (長閑だ)
    執務室で睨む時計と、アウギュステで見つめる時計とでは針の進みが異なる気がしてならない。楽しい時間というのは往々にしてすぐさま過ぎ去ってしまうものだが、常夏の時間はありがたいことにゆったりと遅く流れている。以前より気を遣うようになったといえ、祖国に戻れば執務に追われる毎日が待っていることだろう。酒も煽らず、言葉もなく、ただひたすらにぼうっと呆ける贅沢なひとときは休暇と銘打った今しか味わえない贅沢だ。深呼吸を一つ、二つ。塩辛い空気で肺を満たし、少しずつ色を変えていく空を眺める。
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    sushiwoyokose

    DOODLEガイゼンボーガ→→ジータ
    仄かな兆し あるいは萌芽初めて命を屠った日のことを、昨日のことのように覚えている。誰しもが意外と言うだろう。己自身、不可思議である。今や自ら死の溢れる戦を渇望しているというのに、そこに後悔など何もないように思えるのに。何故、あの不気味な畏れを未だ覚えているだろう。
    初めての戦場はそれはそれは酷いものだった。統率はもちろんろくな装備もない。歪んだ鎧を力づくに捻じ曲げながら着込み、刃こぼれした剣を頼りなく握る。どちらも無駄死にした誰かの使い回しだろう。勝ちに行く気持ちなど微塵も、足掻く気持ちだってもちろん。死への恐怖は積もりすぎてあまり感じず、あと三ヶ月もすれば美しい春の花畑が見れたのにとぼんやりした後悔が残るのみだった。
    律儀な開戦の合図はなかった。強いて言えば、偵察に行った味方の兵士がばん、ばん、と遠方から撃たれたその音と血飛沫が合図であった。雄叫びに悲鳴が混じって足音がやかましくなる。混乱に乗じて後退りすれば逃げられたかもしれない。しかし、誰もが前へ進んだ。後ろへ戻れば、春を待つ故郷がある。それを踏み躙られるくらいならば、足止めになろうと言う気概はもしかするとあったのかもしれない。吾輩に宿る微かな覚悟もそれだった。穏やかな故郷がせめて何か守られれば意味もある。だが覚悟という鎧は、貧相な装備の何より早く弾け飛んでしまった。立ちはだかる相手軍は皆足並みが揃っている。戦いに慣れた一振りの太刀筋が、洗練された一発の砲撃が、何か恐ろしい獣のように見えた。
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