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    @tumugi_mB

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    飯受けワンドロお題「雨」
    カプ要素薄めトラ飯です。名有りモブが出てきます。未飯さん復活後の話。

    開いた古傷 悟飯が生き返ってこの世に再び戻った日、トランクスにお願いして今の西の都を案内してもらった。
     瓦礫が散乱し、雨風をまともに凌げる建物も少ない街だったここは、今ではすっかり悟飯が子供の頃のような背の高いビルが点在する都会へと戻っていた。
     カプセルコーポレーションのお膝元でもあるこの街は、地球でもかなり復興が進んでいる都市らしい。
     嬉しい反面、自分にできることの少なさに申し訳のない気持ちが湧いた。せっかく生き返れたのだ。なにか悟飯も役に立ちたい。しかし長年鍛錬に明け暮れたこの身でできることは限られている。肉体労働が最もわかりやすく、サイヤ人としての怪力も活かせてちょうどいいだろう。
     悟飯はトランクスに与えられたカプセルコーポレーションの一室を拠点として、世界中を見て回りながら復興の手伝いをすることにした。
     たまの休みにトランクスがついて来てくれることもあったが、ブルマの手伝いで忙しい彼には休めるときに休んでほしかったから、こっそり一人で外出することがほとんどだった。悟飯の死後、トランクスはたった一人生き残った戦士としてずっと頑張ってきた。師匠としての彼への労りと、全てを任せてしまったことへの申し訳なさからの気遣いだった。
     
     
     今日は西の都からみて、地球の裏側にある町に来ていた。昨晩トランクスが今日は休みだからついて行くと進言してくれたが、悟飯は彼の目の下の隈を見てやんわり断った。
     いくらサイヤ人が頑丈とはいえ、不摂生が過ぎると衰弱するし病気にもなる。それでもと言い募る彼を宥めて寝かせて、念の為今朝は書き置きも枕元に残してきた。
     一度何も言わずに出掛けたら、必死の形相で追いかけて来て悟飯の顔を見た途端にひどく安心したような顔をさせてしまったからだ。
     無理もないとは思う。悟飯が生き返ってからまだ日が浅い。悟飯だって父や師や仲間が生き返ったとなれば、今のトランクスのように毎日生きているか確認したくなるだろう。
     そう、毎日だ。朝起きて悟飯の顔を見てホッとして、夜眠る前に必ず悟飯の手首を握りにやってくる。
     彼が強引に悟飯をカプセルコーポレーションに住まわせたのも、不安だからなのだろう。

     
     ポツポツと冷たい水が当たったな、と思ったら急に土砂降りになってしまった。
     悟飯はまあまあ頑丈なのでこれくらい平気だが、一緒に作業をしている住人たちは風邪をひいてしまうだろうし、滑ると危険だ。早めに切り上げた方がいいだろう。
    「みなさん、雨がやむまで中止にしましょう。レインさん、指輪は見つかりましたか?」
    「いや……仕方ないさ。小さいものだしな。まあ見つかったら御の字だよ」
    「でも、奥さんの形見なんでしょう?」
    「まあそうなんだが……」
    「オレはもう少し片付けるつもりですから、一緒に探しておきますよ」
    「いやでもよお……」
    「身体も頑丈だし、平気です。ほら雨が強くなってきたから、早く屋根のあるところに」
    「あ、ああ……そりゃ助かるけど、無理しないでくれよ。ほどほどで引き上げてくれ」
     住人の男たちが引き上げていくのを見守って、改めてぐるりと周囲を見回す。
     悟飯の記憶よりもかなり復興が進んで、新しい建物がいくつも建っている。だがそれは町の中心部の話で、端の方へ行けば行くほど放棄された建物の残骸や車が転がっていた。
     この町が人造人間の襲来を受けたのは十年以上前のことだ。悟飯が死ぬよりも少し前で、トランクスに修行をつけ始めたばかりの頃だったと思う。
     襲撃を受けているという話を聞いて駆け付けたときにはもう遅く、町は火の海と化していた。必死になって瓦礫をどかしながら、生存者を担いで回ったことを覚えている。悟飯が救えたのはたった十数人で、その中にはレインもいた。
     そんな町や村はここだけではない。地球上にいくつもある中のひとつだ。それだけ人造人間の脅威は恐ろしいものであったし、悟飯は強くなかった。
     この手が救えるのは、この手が届く範囲まで。
     父と同じ道着を着たって、悟飯は父のようにはなれない。どんなにとんでもないことが起きても必ずなんとかしてくれる。そんな人になりたかった。なれなかった。
     
     
    「参ったな、こりゃ夜までやまないかもしれないな……」
     分厚い雲はかなり広範囲に広がっているようで、切れ目が見えない。悟飯もすっかり全身ずぶ濡れだった。流石に寒くなってきた。そろそろ引き上げ時だろう。
     結局指輪は見つからなかった。
     レインの妻は、かつて悟飯がその遺体を運んで彼の元まで送り届けた。瓦礫に押し潰されて左腕がなくなってしまった遺体に縋り付く彼の姿が瞼に焼き付いている。
     見つけてあげたかった。
     だから、溜め息をつきながら座り込んだ視線の先にキラっと光るものが見えた瞬間、思わず前のめりになった。瓦礫の隙間になにか光るものがある。もしかしてと思い這いつくばり、隙間を覗き込む。水溜りに顔が半分ほど潜ることになったが、もうすでにびしょ濡れだったから気にしなかった。
     目を凝らして見つけた。白い骨に引っかかる銀色の輪を。
     できれば骨ごとレインに送り届けたい。瓦礫を崩さぬよう慎重に腕を伸ばし、手が届いたときだった。
    「悟飯さん!!」
    「えっ!?」
     ここにいるはずのない弟子が突然大きな声を出すから、思わず肩が跳ねて瓦礫に当たってしまった。
     崩れる瓦礫が手の中にあるものに当たらないよう、慌てて気で周囲を吹き飛ばす。
     よかった。無事だったみたいだ。
     悟飯にとって脆い骨と指輪は、手の中で砕けずに存在していた。ほっと息をついて、突然現れて大声を出した弟子に苦言を呈そうと起き上がると、なぜかトランクスは泣きそうな顔で突っ立っていた。いや、泣いているのかもしれない。顔に滴る雫が雨なのか涙なのか分からなかった。
    「トランクス?どうしたんだ一体……」
    「悟飯さん……」
     ふらふらと近付いてきたと思ったら、がばっと抱き付かれて動揺した。さっきまで水溜りに浸かるように這いつくばっていたから、服はびしょ濡れの泥だらけだ。そんな状態なのに、トランクスは悟飯の胸元に顔を突っ込むようにしがみついている。
    「こら!汚れるからやめなさい!」
     肩を掴んで離そうとするが、なぜか抵抗されてはがれない。
    「お、おいトランクス……?」
    「冷たい……」
    「そりゃ、びしょ濡れだから……ああ」
     トランクスは耳を胸元に当てて、背中に回った手は悟飯の体温を確かめていた。雨に長時間打たれて体は冷え切っていたが、流石に心臓は止まっちゃいない。
     これは日課の生存確認だ。満足するまで、否安心するまで好きにさせるのが吉だろう。
     だがこの雨の中で彼が安心するまで二人してぼうっと立ち続けるのはよくない。せめて雨が凌げるところへ移動するべきだろう。
    「トラ、ちょっと場所を変えよう。な?」
    「…………」
     ダメそうだ。うんともすんとも言わない。
     悟飯はあっさり見切りをつけて、引っ付いたまま離れないトランクスを抱っこして、わずかに屋根の残る建物の下へ避難した。
     今日は長いなあ……
     悟飯が生き返ってから数週間、トランクスが今のように悟飯が生きているか不安になって、脈や体温を確認しながらフリーズする、ということが度々あった。おそらくなにか長考しているようなのだが、考えがまとまらないからと何を考えているかは教えてもらえなかった。
     この子が赤ん坊のときもこんな風に抱っこしたなあとぼんやり考えながら、無意識に背中をぽんぽん叩いた。
    「オレが悟飯さんを見つけたとき、雨が降っていました」
     しゃべった。しかもどうやら安心したから話し始めたわけではなく、考え込んでいることについて話す気になったらしい。
    「水溜りに突っ伏すあなたを見つけて、頭が真っ白になりました」
     そんなに変な格好だっただろうか。いや確かに、水溜りに浸かって這いつくばるなんて変だろうが。
    「身体が冷たくて、心臓の音が、しなくて」
     あっ、と思った。これは今日の話じゃない。
     十年前、悟飯の死体をトランクスが見つけたときの話だ。
    「オレを置いていったあなたに怒りました。足手まといだからって、置いていって」
    「ごめん。きみはオレへの怒りでスーパーサイヤ人に目覚めたんだな……」
     スーパーサイヤ人への目覚めは、激しい怒りがきっかけとなる。
     トランクスは悟飯との修行中、ついぞスーパーサイヤ人にはなれなかった。悟飯の死が彼の覚醒のきっかけになれたのなら、無駄死にでもなかったということなのだろう。
    「ちがう!そんなわけあるか!オレは、オレが一番許せないのはオレだ……」
     勢いよく顔を上げたトランクスは、悟飯に掴み掛かった。
    「役立たずの無力な自分が許せなくて、オレはスーパーサイヤ人になったんですよ……」
    「そうだったのか……オレと同じか」
    「え?」
    「オレもさ、スーパーサイヤ人になれたのはみんなが死んでからだったよ。ピッコロさんもクリリンさんもヤムチャさんも天津飯さんも、あのベジータさんすらオレを逃がそうとしたんだ。それが悔しくて情けなくて。石になったドラゴンボールを見てピッコロさんが死んだことを知って、それで……」
     なぜもっと日頃から修行をしていなかったんだろう。なぜ父は死んでしまったんだろう。なぜ生き残ったのが悟飯だったのだろう。
     自分への激しい怒りが悟飯をスーパーサイヤ人に覚醒させた。
    「案外似てたんだなあ、オレたち」
    「あなたが死んだせいですよ。他人事みたいな言い方しないでください」
    「ごめんごめん」
    「……なんであんな、倒れてたんですか。もしかしてどこか具合が悪いんですか?今日も朝起きたらいないし、書き置きひとつでオレを置いていって……」
    「いや倒れてたんじゃなくて、ほらこれ。これを取ろうとしてたんだよ」
     そっと握り込んだそれをトランクスにも見せてやる。「指輪とこれは……骨、ですか」
    「うん。知り合いの奥さんの形見なんだ。どうしても見つけてあげたくてな」
    「そう、だったんですか……紛らわしい格好してるから……心臓に悪いですよ。オレを置いていくし」
     誤魔化せなかったらしい。
     悟飯がすたこらと外出した日は、半分くらいの確率でトランクスが追いかけてくる。隈ができるくらい忙しいんだから休めと言っているのに聞きやしないのだ。
    「でもなあトランクス。何度も言うようだが君は忙しいんだから、休日くらいゆっくり休んでほしくてだな」
    「もう!オレが寝不足なのは悟飯さんのせいなんですからね!あっ!」
    「えっなんで?」
    「あっ、うう」
     明らかに失言した、という顔で目を泳がせたトランクスに、今度は悟飯が詰め寄る。
     悟飯がトランクスの寝不足の原因?弟子の体調を慮っていたつもりが、なんてことだ。
    「トランクス」
    「う……はい」
     引く気のない悟飯に観念したのか、トランクスは俯いてぼそぼそ話した。
    「夢じゃないかって、不安で。その、気付いているかもしれませんが、毎日あなたがちゃんと生きてるか確認しないと落ち着かなくて。……夢を見るんです。朝目が覚めたらあなたがいなくて、母さんに悟飯くんはとっくの昔に死んだじゃないって言われる。それで、ああなんて都合のいい夢を見てたんだって思って目が覚める。どちらか夢か現実かわからなくなって。目が覚めたら現実なのはどちらか確認したかったし、夜寝る前はあなたが生きていることを確認してから眠りたかった。……すみません、オレもうあなたより歳上なのにこんな、情けない……」
     トランクスの傷は悟飯が思っているよりずっと深くて、癒えていないのだ。古傷をこじ開けられてしまったのかもしれない。悟飯が死んでから十年の間に塞がりつつあった傷が、悟飯が生き返ったことで開いてしまったのだろう。
     生きているということは、いつか死ぬということでもある。
     悟飯が本当に生き返ったのか。悟飯が再び死んでしまわないか不安なのかもしれない。
     だがそれは解決のしようがない問題だ。心を穏やかに安定させることはできても、不安を完全に払拭することはできないだろう。
     悟飯にできることは、トランクスが悟飯が生きている実感を持てるまで安心させてやれるよう努めることくらいだ。
    「わかった。置いていってごめんなトランクス。これからはきちんと朝は顔を見せに行くし、夜眠る前はおやすみを言いにいく。はは、昔みたいに本でも読んでやろうか?」
    「も、もう子供じゃないんですよ!揶揄わないでください!……本、というか話がしたいです。ときどき時間をつくってもらえませんか」
    「いいよ。積もる話は山ほどあるだろう。指輪を届けに行ったらさっそく話をしようか。まずはそうだな……過去の父さんやピッコロさんの話が聞きたいな」
    「はい!」
     時間は有限だし、この先悟飯がトランクスをまた置いて逝かない保証なんてなかったが、今はこの奇跡のような復活を素直に喜んでいいだろう。
     願わくば、次は遺言くらいは残したいものだ。
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