狩人が誘拐された話「ええ、大人の事情というものですよ」
何も尋ねてはいないのに、学園長はそう私に前置きした。「大人の事情」だとかそういう言葉を使う人間はあまり信用ならないが、話を複雑にするのもナンセンスなので黙っておくことにする。そんな私の様子に気づいているのかいないのか、学園長は飄々と掴みどころのない語り口で、そのまま話を続けていった。
「どんなことにも多少の犠牲はつきものですし、私にも学園の運営という大切な仕事がありますからね。私、こう見えても忙しいので」
……分かってはいたけど、遠回りだ。業を煮やした私は話の続きを促した。
「それで、今日はどんな御用です?植物園の草むしり?喧嘩の仲裁?行事の使い走り?今日は17時からサムさんの店で特売があるので、できれば早く教えていただけると助かるのですが」
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