キスの日「蜂楽、キスしようぜ」
キスの日――なんていう都合の良い日があるらしい。
別に蜂楽とは付き合ってもいないし、そもそも俺の気持ちが伝わっているのかどうかも定かじゃない。俺なりに精一杯、蜂楽へ気持ちを伝えていると思っているけど…いつも鮮やかに躱される。え、あれ?俺いま、結構直球投げたよな?と思っても飄々とした態度でケラケラ笑われると拍子抜けしてしまう。
ぜんっぜん相手にされてない?!と落胆するも、あの笑顔に簡単に絆されて「まあいいか」という気にさせられる。恋だの愛だのにあいつはまだ興味は無いのかもしれない。だけど、後から来た人間にうっかり取られる位なら多少無理やりにでも俺が彼を覚醒させたい。
このド直球な申し出に、彼が少しでも戸惑いを見せてくれれば、今日はそれで満足なんだけど――
「え、キス?潔と?」
きょとん、と目を丸くさせながら首を傾げる姿に心臓がぎゅんっと掴まれたのも束の間。
「いいよ!キスしよ♪」
と満面の笑みで答える蜂楽に、結局俺が戸惑って何も出来ずに逃げる羽目になった。
そんな答え、返ってくるとは思わないだろ!
どこまで予想外なんだとお門違いに腹を立て、次の作戦を練る事にする。
負けられない戦いが、ここにはあるのだ――
*
「ねえ千切りん。潔はいつまであんな遠回しな事してんのかな」
「知らねーよ。もうお前が告ればいんじゃね?」
「えーっやだよ!俺待ってるんだから。潔がちゃんと告白してくれるのを♪」
「……ぜってぇ伝わってないならな、それ」
「ちぇー。まあいっか!面白いし。この状況も」
「お前って結構意地悪なのな」
「ちがうよー!潔のエゴを大事にしてるだけ♪」
次はどんな方法で蜂楽を振り向かせようか作戦を練る俺と、そんな俺を泳がせて楽しむ蜂楽の攻防はまだまだ続きそうだ。