12/18:白い息 複数の依頼が同時に舞い込み、グランが団員達に協力を仰いで依頼を分担した日があった。
この時、ランスロットとジークフリートが担当したのは、突然現れて森の奥に住み着いてしまった魔物の討伐という内容のものだった。
件の魔物は難なく討伐することが出来たものの、捜索に思ったよりも時間がかかり、辺りが暗くなり始めていた。
安全の為、朝を迎えてからグランサイファーへと向かうべきだと判断した2人は野営の準備を行う。天幕を張り終え、この後の動きを相談していると、外敵から身を守ろうとしていた先住の魔物の殺気が収まり切っていないことに気付く。
原因は既に対処しているため、直にこの森の雰囲気も落ち着く筈だと予測はできたが万が一に備えて交代で見張りをしながら夜が明けるのを待つことにした。
ランスロットが先に仮眠を取っている間、ジークフリートは周りを警戒しつつ焚火と共に過ごしていた。ゆらゆらと動く炎の温かさと、息を白くするほどの凍てる夜の冷たさは酷く対照的だった。
それから更に時間が経ち、交代の時が近づく頃には森の雰囲気が初めよりも随分と穏やかになっていた。
仮眠を終えたランスロットが天幕から出てくると、ジークフリートに交代を申し出ると同時に謝罪をひとつ加えた。
「すみません、一番辛い時間を貴方1人に任せてしまって……」
森の変化に、ランスロットも気付いたらしい。ジークフリートは、申し訳なさそうな顔の彼に微笑みを向ける。
「気にするなランスロット。お前が謝る必要はどこにもないさ。それとも、お前はこの後の見張りが楽なものだと考えているのか?」
そうジークフリートに言われると、ランスロットは躊躇うことなく首を横に振った。
「まさか。確かに魔物達の殺気は収まりつつありますが、全てが元に戻ったわけではありません」
ぶれない決意の色から、彼の認識には間違いがないと判断するとジークフリートは安全を託し、出発までの仮眠の為天幕へ入ろうとする。
だが、既の所でランスロットに呼び止められたので、ジークフリートは彼の方を振り向く。闇の中でもはっきりとわかる空の色をした瞳が、あるひとつの要望を語っていた。
愛を育んだ関係の中で、接吻は無事を祈る意と、守る者を再認識する意を含むと聞いたことがあった。欲情ではなく、それが決意の為だと理解した瞬間、ジークフリートは受け入れることを承諾した。
ランスロットが唇を重ねると、ジークフリートは目を閉じてその熱を感じていた。普段であれば自分の方が高い体温が、この時ばかりはーー防寒具を身に付けているとはいえーー外気に晒され続け、随分冷えていたのだと体感する。
ランスロットが名残惜しそうに口を離すと、溢れた白い息がジークフリートのものと混ざり合う。
「では、任せたぞ」
ジークフリートに返事をするランスロットの表情は、心なしか先程よりも随分と頼もしく見えた。