10/31:ハッピーハロウィン「ハッピーハロ……おおお!?パーさんどうした!?」
満を持して迎えたハロウィン本番。仮装したヴェインは街に繰り出す前にパーシヴァルの部屋を訪れた。知らない仲でもない関係に甘んじてノックをせずに扉を開ければ、鎧を外している最中の、髪をびっしょりと濡らした姿が目に入る。
「……グラン達の悪戯だ」
「そっかー、思いっきりやられたなぁ」
思い返せば、確かにヴェインは廊下を歩いていた時、髪や服を濡らしたグランや幼い団員達の姿を見かけていた。しっかりお菓子を持っていたが、話の内容からして恐らくあれはパーシヴァルが渡した物だったようだ。愉快に話しかけると、ヴェインは怪訝そうな顔で睨まれる。
「それよりも、用は何だ駄犬」
「あ、そうそう。良かったら一緒に祭行こうぜ!」
「何故だ」
「何故って……」
薄々予想はしていたとは言え、前向きではない返答にがっくりと肩を落とす。それでもヴェインは、髪を拭きながら話すパーシヴァルに理由をぽつりと話し続けた。
「パーさんは嫌かもしれねぇけどさ。俺は一緒に行きたいんだって……」
来年どうなってるかなんて、わからねぇから。思わず溢しそうになった言葉を、ヴェインは辛うじて留める。若干生まれた不自然な間を察したのか、パーシヴァルは一瞬だけタオルを掴む手を止めた。
「……駄犬の散歩には目付け役が必要だからな」
目を見開いて呆然としているヴェインに対し、呆れた表情でパーシヴァルは廊下に向かって指を指す。
「今から着替える。外で待っていろ」
「お、おう!待ってる!」
明らかに嬉しそうな声色で廊下に出るヴェインを見送ると、パーシヴァルは深いため息をひとつつき、ベッドの上に置いてある紙袋へと諦めたような顔で目線を向けた。
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暫く時間が過ぎると、部屋の扉が開いたので、ヴェインは出迎えるようにパーシヴァルの方を向く。何か声を掛けようとしたつもりだったが、予想外の光景にヴェインは暫く声を失った。
「何をしている。早く行くぞ」
「いや、パーさん……その格好……」
てっきり私服姿で出てくるものだと思っていたヴェインは、黒猫の耳と尻尾、そして同じように黒い色の燕尾服に身を包んだその姿にただただ唖然としていた。
「……グランに渡された。どこかの国の伝承に出てくる、猫の妖精をイメージした服だそうだ」
パーシヴァルが仮装をしてくれている衝撃のせいで、服に着いての説明は何一つ入ってこなかった。驚きがやっとのことで喜びへと変わると、ヴェインは弾ける様に話し出す。
「すっげー似合ってる!!!」
耳や尻尾をまじまじと見られながら、気恥ずかしくなるくらい手放しで褒められる。表には出そうとしないが、パーシヴァルも満更ではないらしく、呆れつつも表情のどこかでは嬉しさの色も含まれていた。ただ、それを悟られないよう、パーシヴァルは褒め続けるヴェインを無視して歩き始める。
「あ、待ってパーさん!」
空いた距離を詰めるようにしてヴェインがパーシヴァルの隣に並ぶと、小さくて他愛もない言い争いが始まった。町についても、しばらくは喧嘩をしながら歩いている二人だったが、衣装に付いた犬――一応ワーウルフらしい――と猫の尻尾が度々ぶつかり合う様子に、通りすがりの人々は皆微笑ましいと笑いかける。
感覚のない作り物の尻尾だったので、そのことに気付いていなかったのは本人達だけだった。