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    @Clanker208

    水都百景録の一部だけ(🔥🐟🍠⛪🍶🍖🐿🔔🐉🕯)
    twitterにupした作品以外に落書きラフ進捗過程など。
    たまにカプ物描きますがワンクッション有。合わなかったらそっとしといてね。

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    ★水都史実二次。人を選ぶ要素含むので前書き確認PLZ
    ☆今回は要素なし

    今回は魏忠賢視点。彼の内面描写は結構気に入っている
    頂点を極めても過去に足を取られて、自分でも気づいてないっていう感じ。

    ##文章

    橄欖之苑 第十三幕「臣、魏広微が申しあげます。
    礼部の徐侍郎は恣意的に振舞い宮中の秩序を乱しております。臣は礼部であの者とともに科挙答案の査読に当たりましたが、奴は落第と決まった答案を独断で合格させ、結果を操作しました。さらに兵部や軍の所属でもないにもかかわらず、練兵に参加させるよう帝を惑わし、結果前線に混乱をもたらしました。朝廷の和を乱すこのような振る舞いには、処罰が必要であると考えます」

    「臣、沈搉が申し上げます。
    徐侍郎は邪教を信じ、我が国を侵そうとする蕃人どもの陰謀に加担しております。臣はかつて応天府で蕃人や邪教徒の排除に乗り出しましたが、その時も奴の妨害に遭いました。今でも蕃人の武器や砲手を取り入れるなどという、気狂いじみた主張を繰り返しています。奴を野放しにしておけば、必ずや外敵を招き入れ、大明は危機に陥るでしょう」

    「臣、智鋌が申し上げます。
    徐侍郎は党争には無関係と標榜しておりますが、実のところ東林党の者たちと親しく交流し、明らかに奴らと立場を同じくしております。東林党こそは、陰謀を引き起こし宮中を乱す害毒。その根はことごとく排除されなければなりません」

    「……我が愛する友人たちよ、お前らの気持ちは分かった」
    茶碗の蓋で茶葉を除けながら、俺は鷹揚にうなずいた。景徳鎮から上がってきた白磁に杭州の明前茶。上物中の上物だ。この国に暮らす百姓(ひゃくせい)のほとんど、眼前に跪いている犬ども、後ろで控えている宦官どもすら、滅多に手に出来ない代物だろう。器や茶葉の良し悪しに興味などないが、優越感に勝る美酒はない。

    「しかし徐侍郎も、随分嫌われたものだな?」
    今までも、配下の官僚たちはたびたび徐侍郎と対立し、不満の声が上がっていた。とはいえ俺からすれば、あんな奴は毒にも薬にもならず、一人で走り回ってるだけの道化のようなものだった。

    ――そうか、朝廷が清められたからな。
    俺はしみじみと感慨にふける。ここ数カ月で、目障りな奴は随分と片づけた。俺の目から見て、今の朝廷は磨きたての白磁のように輝いている。そこに虫が止まっていれば、それは目障りになるだろうな。それがたとえ、ちっぽけなものだったとしても。

    「まぁ、ちょうどいい。俺は蕃人が大嫌いだからな。万暦の帝が勅許なんぞ出さなけりゃあ、今すぐにでも順天府(みやこ)――いや、『我が国』から追放してやりてぇと思ってたんだ」
    だから俺は、天主教を嫌う官吏や書生たちを利用して迫害を焚きつけた。そうだ。そのたびに、奴は邪魔をしてきたのだった。そう思えば、途端に憎らしく思えてくる。奴がいなければ、蕃人どもを追い出してしまうこともできるだろう。
    それに――結局、あの男にも首輪はつけられそうにない。それなら、味方になりそうな奴は片づけておけば安心というものだ。


    「わかった、お前たちの要求は受け入れよう」
    「九千歳!」
    「九千歳!」
    「九千歳!」
    犬どもが歓呼の声を上げて叩頭する。それが半分は鳴き声だろうということは、自分でもわかっていた。それでも彼らが平伏し、俺を讃え媚びへつらっているという事実は変わらず、心地よいのはその点だった。かつて俺を蔑み罵倒した奴らは、十回生まれ変わってもこんな思いは絶対にできないだろう。
    俺は明前茶とやらをすする。なんだ、やはりただの茶だ。何がそんなにありがたいのか。

    「天子様のご都合はどうだ?」
    俺は馬鹿な天子の顔を思い浮かべ、後ろに控えた宦官どもに問いかける。
    「お忙しい頃合いです」
    宦官の一人がそう言って、袖を合わせて恭しく頭を下げた。今日も木工ごっこか、それとも、どこぞの女の所にでもいるだろうか。
    「そりゃあ重畳」
    唇をなめると、俺は茶杯を置いて椅子から立ち上がった。

    戸口を抜けて外に出る。赤い壁が立ち並ぶ内廷の回廊を抜けていく。風が生じて、黒い外套の裾が背後で踊った。
    「今度は礼部右侍郎か。欲しがってる奴がいたっけか」
    俺は帽子の飾り紐をくるくるといじりながら、脳内の名簿を繰る。
    そういや、一族で新しく子が生まれたと言ってたな。誰もいなけりゃ、そいつにでもくれてやるか。

    そんなことを考えているうちに、宮殿の前に出た。黄金の瑠璃瓦が、日差しを受けて燦然と輝いていた。紫禁城の屋根を彩る黄色は天子の色。どこを向いても、この城は、天子の威光に満ちている。
    だからその内側にいる者は、皆どこか緊張して、縮こまるようにして歩いている。 
    だが俺にはその必要はないし、今や、その畏怖をもたらすものはあの愚かな若者ではない。
    この城は、いや。この国は俺のものだった。

    愉快な気分だった。
    頂点を極めたことは勿論だが、それ以上に、大明も、皇帝も、官僚も、やけを起こしたゴロツキ程度に支配されている。その事実が実に愉快だった。
    どんな豪華な皮をまとっていても、人なんてものは実に愚かでくだらない。天子は歓楽に我を忘れ、必死に科挙を潜り抜けてきた官僚共も、己の身可愛さに共食いを繰り返しているばかり。俺はただ、そこに風を送ってやっただけだ。そんなことにも気づかずに、俺を指さす奴らもまた愉快だ。

    天子だろうと絶世の美女だろうと、乞食だろうと悪党だろうと、一皮剥けばただの肉。やがて腐り果てる肉塊だ。
    それを暴き出してやるのが、俺の一番の楽しみだ。

    ああ、愉快愉快。

    百回生まれ変わったら、「奴ら」もこんな気分になれるだろうか?
    いいや、やっぱり駄目だな。
    転生(てんしょう)したところで、二度と人になんかなれやしねえだろうしな。
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