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    まもり

    @mamorignsn

    原神NL・BL小説置き場。

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    まもり

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    長官が一番長官している回だと思います。

    #スカ蛍
    ScaraLumi

    散兵様の憂い塵歌壺内のベッドの上。

    体調を崩したスカラマシュとの邂逅から一週間が経過した。稲妻に戻ってきた私は、雷電将軍と一悶着あったり抵抗軍と交流したりとなかなかに濃厚な日常を送っている。

    (早く空に逢いたいなぁ……)

    稲妻で出会った仲間たちのお陰で孤独は感じずに済んでいるが、心のどこかに寂しさがあるのは否定できない。期待とは裏腹に兄の手掛かりを掴めず焦る気持ちもあってちっとも落ち着かなかった。
    ころんと寝返りをうち、悶々と考える。

    (これ以上、何事もなければいいんだけど……)

    ぼーっと天井を見つめ、無駄に時間が過ぎていく。
    眠気に襲われたところで頬をベチッと叩き起き上がった。

    (だめだ、何かしよう)

    こうしている間にも空がもっと遠くへ行ってしまう気がする。なんでもいいから行動しなければ。しかし、

    (……あ)

    不意にクローゼットの上へ置きっぱなしになっていた服へ視線が留まった。
    着物──スカラマシュの……。
    嵐のような日々に追われ忘れていた。
    無意識に手に取る。おそらく枕代わりに置いて行ってくれたもの。破れてしまっているが、捨てるなど以ての外だと思い洗濯して保管してあったのだ。

    (人の服、勝手にポイなんてあり得ないもんね。……でも)

    返すタイミングはあるのだろうか?どこにいるのかすら分からないし……。

    (タルタリヤに預けるって手もあるけど、それはしたくない)

    きちんと自分の口でお礼を言いたいからだ。また嫌がられてしまいそうだけれど。感謝すればするほど不機嫌になるスカラマシュの顔が思い浮かんで少し笑った。ほんと、捻くれてるんだよなぁ。

    「……そうだ」

    つい声に出た。
    空に全く関係のないことを思いついて罪悪感を抱きつつ。

    「さがせばいいんだ」

    人の物をいつまでも所持しておく訳にもいかない。しれっと高級品だろうし、これ。スカラマシュをさがそう。うん、そうしよう。
    恐怖の対象であった人物に自分から会いに行こうだなんて我ながら正気を疑うが、不思議と気分が上がってきた。
    意気込んで着物をぎゅっと握り、ふと気付く。

    (……匂い)

    洗濯したせいですっかり私の服と同じ香りになってしまっている。それをとても残念に思い、どうしてだか今すぐ彼に会いたくなった。




    やる気満々で始めたスカラマシュ捜索の旅。しかしながらその中身は原始的なもので。

    「こんな感じの男の子知りませんか?」
    「んー……」

    私が渡した紙を見て困惑するおばあちゃん。彼の似顔絵を描いてみたのだ。所謂聞き込み。「ああ、人だったのかい。どうにしろ分からないね」、そう言って返された。まぁ知らないよね……ん?"人だったの"って、なに?
    ともかく、おばあちゃんにお礼を言って別れた後トボトボ歩き始める私。

    (元素視角でさがしてはみたんだけど)

    遠過ぎるのか全く追えなかった。そもそも彼をピンポイントで捉えられる自信もない。

    (というか、稲妻にいる前提で行動してしまった)

    この間は璃月で出会ったしね。あっちこっち行って何してるんだろう?……何を企んでるんだろう?
    脳裏を屈託のない彼の笑顔が過った。
    着物を入れた肩掛け鞄をゴソゴソ探る。ばさりとそれを取り出し思い出に浸った。

    (危ないこと……しないでほしい。あの表情、また見せてくれないかなぁ……)

    溜息をついたその時。

    「おい、貴様!」
    「え?」

    突如、物々しい雰囲気の男に呼ばれた。仮面で顔は見えない……って、ファデュイ!?
    警戒心を強めると、いきなり着物を掴まれた。

    「なにするの!?」
    「これは散兵様の物だろう!なぜ貴様のような小娘が持っている!」

    まずい、なんだか盛大に誤解されているぞ。

    「か、貸してくれたの!」
    「嘘をつけ!あの御方に限ってそのようなこと、有り得ぬ!」

    地味に失礼じゃないか?
    思いつつ「本当だって!」と言い返し、取られまいと踏ん張る私。なぜにファデュイと服の引っ張り合いをしなくてはならないのか。
    流石に大人の男相手では分が悪い。うう、負けそう……!風元素でどうにかしよう、考えた瞬間バタバタと足音が聞こえた。

    「なんだ、敵か?」
    「子供じゃないか」

    (そ、そんな)

    ファデュイが次から次へと。完全に囲まれた。
    結局、多勢に無勢で白旗をあげるしかなくなり連行されることとなってしまった。鬱蒼とした森の中を歩かされながら、これからどうなるのかと……心底不安になった。



    連れて来られたのは森の奥深くにあった野営地。如何にも突貫作業でつくりましたといった具合だが雨風は普通に凌げそうだ。

    (拠点のひとつにしてるのかな……)

    稲妻でもなんらかの計画があるのか?
    目を細めて周りを見渡していると、乱暴に地面へ押さえつけられた。拘束されている為抵抗すらできず。

    「痛いって!」
    「おとなしくしろ、盗人め」
    「誤解だよ!スカラマシュに会わせて、そうすれば」
    「気安くあの御方を呼んだ挙句会わせろだと?無礼者!」

    ああ、ダメだ。話にならない。
    なにか突破口はないか……視線を巡らせて、険しい雰囲気でこちらを見る男がスカラマシュの着物を持っていることに気付いた。

    「ねぇ。あの着物、返してくれないかな?お礼を言いたいだけなの。その後尋問でも何でも受けるからさ」
    「戯言を。我等がお返しする、諦めろ」

    無理か……、でも。

    (イチかバチか)

    脅してやろう。

    「いいの?あなた達が返すってことで」

    頭上に疑問符を浮かべ私を見る下っ端の面々。精一杯ほくそ笑んでやった。

    「そんな破れた状態で渡しても怒らないんだね、あの御方って」
    「なに?」

    一斉に集まって着物を確認する下っ端ら。面白いくらいに焦りだす。

    「な、なんということだ……」
    「あくまでこの小娘の仕業だろう」
    「散兵様にその言い訳が通用するか?」
    「い、いっそ燃やしてなかったことに……」

    今だ。
    彼らが油断しまくっている内になんとか拘束を解き、風の力を借りて駆け抜ける。呆気にとられた下っ端共から着物を奪い返しながら。

    「き、貴様!」

    得意満面な私に慌てるファデュイ達。上手くいった、このまま退散して──

    「っ!」

    背後からの刺突をギリギリで躱す。また新手か、どれだけいるのだ全く!

    「観念するんだな」
    「くっ……」

    追い詰められ着物を強く抱きしめる。どうしよう、どうすれば……!
    迫り来る手に恐怖心を抱きじわりと視界が滲んだ。咄嗟に思い浮かんだのは、味方ですらない彼の顔で。

    「やだっ……!」

    叫んだと同時に閃光が迸り、男が飛び退いた。

    「誰だ、邪魔をするな!」

    怒号に答えたのは、

    「邪魔?……何の邪魔だ?」

    冷め切った声。けれど静かな怒りを感じる。
    無表情で歩いてきた、細身の少年。息をのみ退がる男達。私はと言うと。

    「返答次第では命の保証がないこと、分かってるんだろうな?」

    (スカラマシュ……!)

    冷酷な眼差しに……心の底から安心した。

    「お前、いつからそんなに偉くなったんだ?」

    腕組みをして淡々と喋るスカラマシュ。怒鳴りつけてくれた方が幾分怖くないのでなかろうか?
    私に手を出そうとした下っ端が震え上がって話せないものなので、別の男が口を開いた。

    「っ散兵様、これは」
    「誰に質問しているか分からない?──弁えろ」

    野営地が水を打ったようになる。このやり取りだけで彼らの力関係が分かってしまった、執行官の肩書は伊達ではない。
    すう…と、スカラマシュが私に視線を移した。ようやく落ち着いてはきたものの未だ涙ぐんだ状態なので少し気まずい。そんな私の様子を見て彼が僅かに唇を歪めた。

    「……勝手に泣き顔を晒すな」
    「え?」

    あまりに小さい声だったから全く聞こえなかった。しかし二度目はなく、

    「不愉快だと言ったんだ」
    「えっと……ごめん」

    見るからにイライラしていたので流れで謝ってしまう。侵入したとでも思われているのだろうか?だとしたらショックだ。嫌われちゃったかな……?
    落ち込む私の元へスカラマシュが歩いてきた。

    「……それ」

    目線は私が抱きしめている着物。おずおずと弁解してみた。

    「か、返しに来ただけなの。ほんとだよ、信じて」
    「まだ何も言っていないだろ。バカバカしい、そんなボロ布の為に危険を冒したのか?」
    「だって、スカラマシュの物、だし……」
    「着物なんて他にいくらでも持ってる、返されたところで捨てるだけだ。無駄な努力、御苦労様」

    なんの感情も込もっていない、心底どうでもいいのだろう。正直、傷ついたが……けれど。

    「……いいよ」

    呟いた私を、気怠げに首を傾けた彼が見る。

    「嬉しかったから。その気持ちを伝えたくて来たの。だから、これがスカラマシュの手元に残るかどうかは……重要じゃない」

    自然と笑みがこぼれる。この状況下で脳天気だなと自分で思ったが、感謝の言葉を口にするだけでとても幸せな気分になった。
    一瞬、スカラマシュが呼吸を止めたように感じた。

    「……くだらない」

    返されたのは素っ気ない一言。
    でも、どうしてだか本心からの言葉とは思えなかった。嘲るつもりなら目を逸らしたりしない気がしたのだ。
    スカラマシュ、呼ぼうとしたが彼が下っ端達の方へ戻っていってしまった為タイミングを失う。

    「それで?僕の許可を得ず無関係者を連れて来て……。誰から裁かれたい?」

    勿論、返事などない。

    (足が……震える)

    なんて冷たい瞳。止めようにも凄まじい威圧感に固唾を飲んで見守ることしか……。

    「散兵様、我等はそこの盗人を捕らえて」
    「僕の問いに関係のないことを喋るな。……ああ、口を縫ってほしいのかな?」

    ゆらりと歩きだすスカラマシュ。絶句している男の仮面を掴み、

    「涙ぐましいね、率先して調教されに来るとは。見せてやってくれないか?僕に逆らうとどうなるかを」

    ──嗤った。

    「お、お許し下さ…」
    「発言権を与えられてから喋れ」

    仮面にヒビが入る。本気だ……止めなくては。

    「やめて!」

    勇気を振り絞って二人の間に突っ込む。下っ端が、恐怖のせいだろう引っくり返ってガタガタ震え始めた。彼を庇うように立ちスカラマシュを見る。

    「……何の真似だ?」
    「た、ただの勘違いでこうなっただけなの。制裁とか、いらないと思う」

    寧ろ忠誠心を褒めてあげても、言いかけてゾワリとした。

    「代わりにいたぶってほしい、そう解釈していいの?」
    「っ……!」

    光を失った目。明確な殺気を感じて体温が一気に下がっていく。

    「な、なんで酷いこと、しようとするの」
    「酷いと思っていないからじゃない?」

    あまりにもアッサリと言われ現実味がなくなってきた。根本的に考え方が違う。別世界の住人なのではないかと、そんな気さえした。

    「あんなに、怯えさせておいて?」
    「さっきから何。どうして僕が責められてるわけ?君、僕を見て安心してなかった?」
    「それ、は」
    「……駄目だな、衝動が抑えられない。何故だ?殺したくて仕方がない」

    最早ぴくりとも動けずにいると、スカラマシュが不服そうに息を吐き私の方へ手を出した。思わず目を固く閉じ、身を強張らせる。そこから数秒経って、

    (……?)

    何もされないものなので、そっと瞼を開ける。すると。

    「……え」

    少しだけ……瞳を翳らせた彼と目が合った。
    行き場をなくした手がもどかしげに下ろされる。
    部下達ですら初めて見る表情なのだろう、全員が呼吸を忘れていた。
    茫然としていると、スカラマシュが私の持っていた着物を奪い取った。そして無言で歩き去ってゆく。

    「ス、スカラマシュ」
    「僕の気が変わらない内に何処へでも行け」

    暗に"見逃してやる"と、そう言われた。有り得ない光景なのか、何やらヒソヒソと喋る下っ端達。
    取り敢えず胸を撫で下ろしたけれど、どこへでもって……。

    「私、ここがどこだか全然分かんないよ……帰れない」

    情けない声で言うと、スカラマシュが足を止めずに返してきた。

    「なら野垂れ死ねばいい」

    完全に姿が見えなくなる。まぁそうなるよね……でも、もうちょっと優しい言葉を遣ってくれたって。

    (……ないな)

    スカラマシュの残忍さを目の当たりにしてしまったばかりだ、心の中で即座に否定する。仲良くなれるかもなどという甘い希望は吹き飛んでいったしそれどころか価値観が違い過ぎて彼が遠のいた気分になったのだ。
    スカラマシュが決断を下したからだろう、私に手出しする気のない下っ端達の横を通り、のろのろと歩きだした。




    (……本気で道分からないんだけど)

    とっぷり日は暮れていて不気味な夜の森を宛てもなく彷徨う。せめて人がいそうな場所まで辿り着きたい。絶対出るじゃん、ここ。何がとは考えたくない。

    「はぁ……」

    野営地を後にして何度目か分からぬ溜息。こんなはずでは……。

    (喜んでほしかっただけなのに)

    お礼を言い着物を返し、それに対してツーンとしつつ満更でもない様子のスカラマシュが見たかったのだ。妄想で終わってしまったが。

    (最悪な別れ方になっちゃったな……)

    金輪際まともに話をしてくれない可能性すらある。考えれば考えるほど気分が沈み喉が痛くなってきた。泣いちゃいそう……。
    どうして彼のことでここまで悩むのだろう?
    自分で自分が分からなくなってきて、ぼうっと歩き──

    「っきゃああ!?」

    足を滑らせた。崖だ、落ちるっ……!

    (、え?)

    誰かの腕に支えられていた。
    突然の出来事に思考が止まり、ぽけーっと後ろを見る。

    「……命拾いしたそばから死にかけるな、馬鹿が」
    「スカラマシュ!?」

    驚きのあまり密着している事実にも気付かず叫んだ。「声が大きい」、彼が苛つきを露わにしながら引っ張ってくれて、私がバランスを取り戻したと同時に手を離してきた。ぽかんとして見ると面倒そうに帽子をクイと上げ、

    「人里から逆方向に進んで何がしたいんだ?」
    「え、そうなの?というか、なんでここに……」

    無視。はいはい、いつものね。私が嫌いなのかそうじゃないのか……気まぐれ過ぎて全然読めない。
    お礼を言おうとすると、彼がスタスタと歩を進めだしてしまった。どうすればいいか分からず棒立ちしている私に振り返ってきて、

    「さっさと歩け、置いていかれたいの」

    ……え?
    意味がよく理解できない。……もしかして。

    「案内、してくれるの?」
    「気持ちの悪い言い方をするな。こっちに用がある僕に君が着いて来る、それだけのこと」

    「分かった?」、有無を言わさぬ威圧感にこくりと頷いた。こ、怖い。
    慣れない道、彼を見失わないよう何とか進んで行く。迷いなく歩くスカラマシュ。待って、ちょっと速い……。

    「わわっ……!」

    木の根に足をとられよろける。慌てて前を見ると。

    「遅い」

    立ち止まってくれていて。
    「ごめん」、小さく謝りまた着いて行く。

    (……あ)

    ほんの僅か……ペースがゆっくりになった。
    心臓がとくりと音を立てる。
    決して分かりやすく優しいわけではない。同じファデュイでもタルタリヤの方が圧倒的に親しみやすい。スカラマシュは簡単に私を突き放して、傷つける。交流しても辛くなるだけかもしれない。
    ……だけど。

    (嬉しい)

    スカラマシュに優しくされるのが、一番嬉しい。

    (もっと……話がしたい)

    私ってこんなに単純だったんだなぁ。
    口元が緩んでいく。いけない、また言われてしまう。自分と打ち解けた気になっているのか、と。それでも、

    「ねぇ、スカラマシュ」

    高揚して話しかけずにはいられなかった。
    こちらを見てはくれない。そのまま歩いて行って、

    「……何?聞こえてる」

    言葉少なに返してくれた。
    月並みだがきっと今、私の目はそれはもうお星さまみたいに煌めいていると思う。

    「っ……あのね!」

    駆け寄りながら話し始めると、「だから声が大きいって」、しかめ面になったスカラマシュがそう言いつつも耳を傾けてくれた。

    一生分と言っても過言ではないくらい話した。
    モンドに滞在していた時の出来事、璃月での死闘、稲妻に着いてからのこと。「よく喋るな」、呆れた様子ではあるけれど相槌を打ってくれて。お陰で全く口を閉じられる気がしない。

    「でね、スミレウリを使ったピザが…」
    「おめでたい奴だ。行く先々で命の危機に晒されて尚、旅をするのか」

    はたと止まる。
    確かにそうだな……普通はまぁ、有り得ないだろう。トラウマ級の事件だってあったし。
    しかし空に逢いたい気持ちが大きくて……それから。

    「たくさんの仲間がいるからね。ちっとも怖くないよ」

    私を支えてくれる人達の顔を思い浮かべ微笑む。稲妻でも早速酷い目に遭ったが、彼らがいれば絶対に乗り越えられると信じている。

    「すごく大切なんだ」

    笑いかけた瞬間、

    「──え?」

    手を握られていた。
    月明かりの下、虫の声だけが聞こえる。
    私をまっすぐに捉えるスカラマシュの眼差しに目を見開いた。

    「な、なに……?」

    小さく問う。彼の瞳が揺れた。

    「……分からない。こうすれば君が僕に意識を向けると……そう、思った」

    目が、逸らせない。
    静かな声だったのに、野営地で見下ろされた時よりも遥かに緊張して何も言えなくなる。
    スカラマシュがゆっくりと顔を近付けてくる。
    鼓動が、痛みを感じるほどにうるさい。

    「……あ」

    鮮明に彼の双眸が見えてくる。暗くて深い色……夜空みたいで綺麗だと、思ったその時。

    「……同じ」
    「え?」

    すん、首筋を嗅がれた。

    「あの着物……君の匂いになっていた」
    「へ?あ、ああ」

    解放されるも、未だ心臓の音は収まらない。
    スカラマシュが顎に手を添え、やや不機嫌そうにする。

    「あんな甘ったるい香り……恥ずかしくて着られないね。手直ししても残ってたら燃やすから」

    憎まれ口を叩かれ、キョトンとした。

    「す、捨てないの」
    「捨ててほしいの?」

    棘のある口調に焦り、急いで首を横に振る。また身体が熱くなってきた。どうしよう、嬉しい……。
    スカラマシュが自身の袖を嗅ぎ、溜息をつく。

    「うわ、移り香……。最悪」

    言葉とは裏腹に、そこまで嫌がっていない風に感じるのは気のせいか?
    袖を見つめる彼に話しかけようとすると、

    「いつまで僕に着いて来る気?」
    「え?」

    木に背中を預け、目を閉じるスカラマシュ。
    困惑して……すぐに意味が理解できた。前方に広がるのは、整備された道だ。

    「や、やった。森を抜けた……!」

    ありがとう、笑顔で振り向いたが既に彼の姿はなかった。またもや何も言わずに去ってしまったのか。一応、周囲を見渡したがやはりいない。
    本当に捻くれた人だ。

    (……でも)

    苦笑した私が考えついたのは、彼がとてつもなく嫌な顔をするであろう欲深いこと。

    ──次は、今日のお礼を言う為に逢いに行こう。

    ひとつ、彼を訪ねる口実ができた。
    悪戯じみた笑みを携えて、私はスカラマシュが背を預けていた木に優しく触れたのだった。
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