花開く煙花「花火くらい二人で見てあげて」
そう遠見さんに言われたから、仕方なく、あくまで仕方なく、真壁一騎と一緒に海岸の中でも人気のないスポットに向かっていた。
しばらく歩いているが、真壁一騎は黙ったままだった。たまにちらっと様子を伺ってみても、いつも通りの無表情で何を考えているのかさっぱりだ。
喜んで、る、のか……? 喜んでいないのなら、とんだ無駄足になってしまうのだが。
「総士」
「え? ぅわっ!?」
名前を呼ばれたと思ったらだき抱えられていた。しかも俗にいうお姫さま抱っこという形で。
いきなり何をするんだという僕の文句は打ち寄せた白波に飲み込まれる。真壁一騎の膝下までを濡らした波が、僕が今し方つけた足跡を消し去りながら返っていく。……いつの間にこんなところまで波が来ていたんだろう。
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