桜並木「おお、絶景、絶景」
無惨は嬉しそうに桜吹雪の下を歩く。蕾のうちに周辺の集落に雑魚鬼を放ち、盛大に食い殺すように命じた。次々と人が姿を消すので「神隠しに遭った」「桜に攫われた」と村人は恐れた。そして人々は夜、出歩かなくなった。鬼狩りに勘繰られる前に無惨によって鬼は消された為、誰の邪魔も入らず、ひっそりと静まり返った川沿いにずらりと咲く、満開の桜並木を独り占めできたのだ。
今宵は満月。暗闇の中、月明かりを浴びて白く輝く桜を見て、無惨は上機嫌だ。
夜桜見物が好きなど、やはり風流なお人だと、数歩後ろを歩いていた黒死牟は桜より無惨を見ている時間の方が長かった。
月や桜ばかり眺め、ずっと上を向いていたが、ふと足元に置かれた地蔵を見ると、折った桜の枝が供えてある。
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