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    かみすき

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    ゼン蛍
    いいから早く付き合え

    #ゼン蛍
    ##ゼン蛍

    《ゼン蛍》曖昧さ回避「君に交際を申し込もう」

     ひゅっと喉が締まる。まだコーヒーを口に入れる前で良かった。世間話でもするかのようにとんでもない発言をした男に、危うく吹きかけてしまうところだった。
     口付けただけのカップを戻す。唇の形に残ったピンク色を拭う余裕もなく、ぷるぷると震える手は思ったよりも大きな音を立てて、それにまた驚いて肩が跳ねた。

    「大丈夫か」

     かろうじてソーサーに着地したカップも、その中の黒い水面は今にも零れそうな程に波打っていた。忙しない瞬きの合間にもあちこち視線が彷徨ってしまう。これのどこが大丈夫に見えるのだろうか。
     全身で動揺を示す蛍を認めたアルハイゼンが、ほんの少し口角を持ち上げる。一見冷たくも感じられる複雑な色彩はすっかり熱を孕んで蛍を射抜いていた。彫刻のように綺麗な顔から放たれるその表情は、たった今爆弾を渡された蛍には強すぎる刺激で。
     今度はばくばくと音を立てる心臓がうるさくってたまらない。

    「急だったから、びっくりして」
    「そう突然でもないだろう。まさか知らなかった、とは言わないな」

     そうだ、アルハイゼンが蛍のことを好きらしいことは、今までにも散々仄めかされてきた。ただ肝心な言葉がなかっただけ。だからそこに関しては疑問はないけれど。
     だってずっと、現状に満足みたいな態度だったじゃないか。どうしていきなり、付き合うとかそんなつもりになったんだろう。

    「それで? どうする」

     発展させる気がないらしいと知って、蛍だってその問題に向き合うことは避けてきたのに。好きとか嫌いとか、恋人がどうとか、あまりにも難しすぎるから。考えるだけで頭がパンクして、わけがわからなくなってしまう。それでいい、テイワットで旅をする上では、ひとつも必要のないイベントだ。
     そうやって逃げてきたのだ。はじめて誰かから向けられる思いがくすぐったくて、自分の中の知らない感情が怖くて。結論を出さずに曖昧で宙ぶらりんな関係に甘えていた蛍には、突然答えを求められたところで、どうやったって正解がわからなかった。

    「今のままじゃ、だめなの」
    「君に触れる権利があるならなんだっていい」
    「触れ、る」

     それが頭を撫でるとか手を繋ぐとか、そういう健全で可愛らしいものではないことはすぐにわかった。
     理性の塊みたいなこの人にもその類の欲があるんだなとか、こんなに広いカフェでわざわざ隅の席を選んだのはこういう話をするためだったんだなとか。一周回って冷静になった頭がぼんやりと考える間にも、答えを求めるアルハイゼンはどんどんと前のめりに急かしてきた。
     机の上でぎゅっと握りしめたままの拳に、許される距離を測るように指先が近づいてくる。
     じわじわと間合いをつめるものだから、とっさに手を引いたのに。それよりも早くちょん、と触れた爪が、拳を引っ掻いた。落ち着いてきたはずの心臓が、またどんどこと踊り出す。
     これを振り払うことは簡単だけど、もしそうなればきっと二人はそれきりで。受け止めてしまえば、ぱくりと食べられてしまうのだろうか。

    「あの」
    「なんだ」
    「どうして……私に……その、触れたい、の」
    「……どうして、とは」

     震える唇では、上手に話せなくて。それでもアルハイゼンは、蛍に合わせてひとつひとつの言葉をきちんと拾い上げてくれる。マイペースではありながらも、相手を置き去りにすることもない。
     ああ、そう、アルハイゼンのそういうところが。

    「理由を、教えて」

     好きなんだ。
     でもそんなこと、ずっと前から知っていた。目を逸らして仕舞い込んでいただけで、現状の心地良い関係に溺れていたかっただけで。
     そうでなければ、誘われるままにカフェを訪れることなどないのだから。そんな気もないのに、自分に好意を寄せる人と二人きりになる程馬鹿じゃない。

    「だから、君を好ましいと思って――」
    「好ましいって、なに? 友愛の話?」

     だからって、あやふやな表現に誤魔化されるつもりもないから。蛍の思わぬ抵抗に揺れた瞳を見据える。

    「……成程」

     言葉遊びはもういらない。向き合うための、きっかけを。恋心に素直になるための、言い訳を。魔法をかけて、臆病な心を溶かして。
     最後まで虚勢を張るような、可愛さの欠片もない女でも、それでも良いと言うのなら。
     どちらからともなく、居住まいを正す。息を吐いて、たっぷりの間。

    「好きだ」

     ふるりと、背中が震えた。待ち侘びた言葉。欲しかったそれ。全身を駆け巡ったのは、喜びか安堵か。ぶつかった視線は、蛍に負けないとばかりにその思いを乗せていた。

    「君が好きだ」
    「うん」
    「君と共にありたい」

     じわりと、涙が滲む。ぼやけた視界が映すアルハイゼンは、なぜか今にも泣き出しそうな表情に見えた。どうして、貴方が泣くの。

    「……触れても?」
    「ん、いいよ」

     目尻を拭う手は、嫌になるほど温かい。愛を知る人の温度だった。その熱はほろほろと流れる涙を全部掬って、心の奥底まで入り込む。
     誰より純粋で、言葉足らずな、馬鹿な人。

    「君からも、聞かせてくれないか」
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    天生麻菜

    PROGRESS自分への尻だたきに。
    5月の叡智で出す綾人蛍のお話。
    綾人さんに許嫁の話がでて、裏に潜まれた策略を蛍ちゃんに許嫁のフリをしてもらい探すことになるが…といったお話。本編は3部構成。本になる時は今まで書いた前後のお話の再録とその後のお話2つを書き下ろし予定です。
    監禁の話でもあるので苦手な方はご注意ください。
    2以降はR-18の内容を含むのでフォロ限にさせて頂きます。
    idola1(綾人蛍)equal


     パキン、と固い金属音が室内に響く。
    音を立てて壊れた銀の輪は、無機質に、重力に逆らうことなく床へと転がり落ちた。
     それは、枷だ。自らの首に嵌められていたそれは、逃げられないようにとこの優しく歪な鳥籠に閉じ込めるために付けられていた。突然壊されたそれを、少女は呆然と眺めることしかできない。目の前に立つ淡い水色の髪を持つ男性は静かに愛刀を携えていたが、宙へ手放すと刀は虚空へ光となって消える。
     銀の輪は彼によって破壊された。彼に、付けられたのに。
    「……これで、貴方は自由です」
     彼女を見つめる瑠璃色の瞳には葛藤と執着と、隠し切れない情が見えている気がして。
     この人の瞳は、こんなにも感情がわかりやすかっただろうか、と呆然とした思考のまま少女は思う。
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