CAn'T◇CAn'T
――猫を飼うのが夢だったんだ。
「ぼく、手、きれいかな?」
「知らねぇよ!」
ぱっ、と指までいっぱいに広げた手を見せられても。大きな手だ。まぁ、白くて、手垢のついているようには見えないが。「ちゃんと見て!」と怯えたような焦ったような声に急かされる。知らねぇよ、見て分かるワケあるか?
「こちらで消毒してください」
エプロンをつけた女性店員のうながしに、「あ、ウン」と二人の返事がハモった。
そういえば、猫を飼うのが夢だったんだ――まるで大切な用事を忘れていたかのように振る舞い、その実はただの気まぐれで、早く早くと人を連れ出す手口はいつもと同じだ。そうして(まずは保健所という俺の意見はガン無視されて)急きょ訪れた保護猫カフェで、猫を抱かせてもらう前にはまず手を消毒する、という作法を知った次第だ。
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