七月二十日、快晴。
笑いの学校らしい派手な祝福の余韻が抜けぬまま光は屋上で呼吸を整えていたが、すかさず追いかけてきた派手な金髪頭を発見してもう一つ息を吐いた。
「誕生日やからって構いすぎっすよ」
「なんなら一日中貸したるで」
「遠慮しときます」
太陽に近い屋上のコンクリートはとびきり熱を帯びており、避難してくる場所を間違えたと光は少し後悔した。ただ、目の前にいる謙也を放っておく気にも不思議とならなかった。
「前から思ってたんやけど、財前の下の名前ってかっこええよな」
「いきなり何すか」
「誕生日に名前の由来思い出すのもええやろ? 俺なんか『やんけ』を逆さに読んだんやて。ひどない?」
「由来とはちゃいますけど、俺、もし女で生まれたら『ひかり』って名前になっとったって、いつか親が言うてましたわ」
「そうなん?」
「上にはもう男がおるから、親としては女の子が欲しかったんやないすか? 知らんけど」
「俺は、『ひかる』で良かったと思うで」
一瞬の間、光は謙也の言葉の意味を図りかねた。謙也は続ける。
「多分『ひかり』やったら俺とお前は今こうやって話してへんし、そもそも出会ってへんと思うから。それって……寂しいやんか」
彼の口から寂しい、という言葉が出てきたことが意外だった。常に仲間に囲まれている謙也はそのような感情とは無縁の人物であると光は勝手に思い込んでいたが、彼も単純ならざるものを内に秘めているのかもしれない。
上手く返事ができないでいると、頭上を旅客機が音もなく滑るのが見えた。いやになるほど青い空に真っ白な飛行機雲がすっと一筋引かれていく。
「なぁ、その……お前のこと、光、って呼んでええ?」
そう言った謙也の顔が心なしか赤いのは猛暑のためだけではないことくらい、光にもわかった。空に引かれた白線がゆらぐように、光の心もまた動きはじめる。一体どうしてこんなに胸が躍るのだろう。三十五度の体温は今にも沸騰しそうだ。これは暑さのせいか、それとも。
言葉の代わりに一つ頷いた時の、陽光に照らされた謙也の表情を光は生涯忘れないと予感した。