『ナグシン未満』 ##『ナグシン未満』
「シンくん、しよーよ~」
――来た。
今日も今日とてやって来た南雲にハァと一つ溜息をつく。毎日毎日、拒絶するだけではちっとも変わらない状況に、今日のシンは違う対応をした。
「なんで、俺なんだよ」
拒絶以外を喋ったシンに目をまあるくした南雲もまた、「しよーよ~」以外の言葉を吐く。
「身近でー、ヘンに隠したり嘘ついたりしなく良くてー、溜まってそうなうち、僕の好みに合うから?」
大好きな坂本くんの家じゃあ、一人だってそんなことしづらいでしょ?
訊いたことを後悔しそうなほど下らなかった理由が返ったことに、シンは頭痛を覚える。
「ほか当たれ」
「えっ、事足りてるわけないよね?」
キミなんかに恋人がいるわけないし、どこかで調達できるような感じもないよね?
当たり前のように言い切った南雲に、シンの堪忍袋の緒が切れる。
「ウルセェ! そういうのはしない主義なんだよ!」
「へ~」
意外そうに間の抜けた相槌を打ったくせに、続いた言葉は変わらない。
「じゃあ、しよ?」
「だから、何でそうなるんだよッ!」
どうして、こんな面倒な男に付き纏われるようになってしまったのか。清く正しく坂本さんの店で働いていただけなのに。渋い顔になったシンに、南雲はニコッと笑う。
「そういうのもいいな~、と思って?」
ちっとも通じてない言葉にシンが絆されてしまうまで、あと数回……。