よくある昼の、よくある日常の、 例えばそれは、あり得たかもしれない——そんなよくある日常の一ページ。
「なあ、暇」
「暇って、貴方……」
不満そうにソファから、言葉を投げる光牙に樹は呆れた様な視線を落とした。
しかし、やることがないというのは、光牙からすれば間違いではない。
それは、樹も理解はしていた。
「じゃあ、家事手伝ってくださいよ」
洗濯物を抱え視線を送るも、『お断り』という様に、視線を逸らされる。
「ヤダ。今日、俺当番じゃねぇーし」
「暇、と言ったのは貴方でしょう」
[だって、暇じゃね? 朝陽は用事があるって出かけたし、青斗はバイト。ロイのやつは気がついたらどっか行ってた」
「気がついたら⁉︎ 一言もなく?」
「だから、暇」
[ロイは探しに行かなくて良いんですか?」
「多分散歩だろ? それか、青斗のバイト先」
ロイならどちらも正解なのだろう。
樹は呆れた様に息を吐くが、相手は成人。
心配はいらないだろう、と思考を切り替える。
「で。それで、私に声をかけたと」
「そうそう! 樹も休憩大事だろ? 遊ぼーぜ」
「お断りします。これから洗濯物を干さないといけないので」
「いーじゃん、ちょっとくらい」
「駄目です。まあ、白鷹さんが手伝ってくれるなら、早く終わって時間もできるでしょうけれど」
「う……」
面倒だと思いつつ、今アジトにいるのは樹だけ。
その樹も、やることがある。
手伝わないなら、暇な時間が長く続くだけだ。
——となれば、仕方がない。
「わかったよ、手伝えば良いんだろ」
渋々ソファから立ち上がり、樹に着いていく。
「終わったら、白鷹さんに付き合いますよ」
「じゃあ——」
光牙の言葉に樹は目を丸くした。
「……まあ、いいでしょう」
洗濯物の束を手渡し、二人で作業を始める。
なんでもない話をしながら。
そうしてやるべきことを片付け、向かったのは公園。
いや、正確に言えば公園の奥にある駄菓子屋だった。
「両手いっぱいに駄菓子を抱える成人男性……いくらなんでも、シュールすぎませんか……」
いつだか学園に潜入した時、ロイも似たようなことをしていたな、と少し眩暈がした。
「別にいーだろ! ほら樹! これやるよ」
差し出したのは、二つ折りのアイス。
「いえ、私は結構です」
「んな冷たいこと言うなって。ほら、今日あちぃし」
「白鷹さんが買ったんですから、一人で食べればいいでしょう」
自分に差し出したことを『理解ができない』という顔で見つめる。
そんな樹の表情など気にせず、光牙はアイスを折り、片方を改めて樹に差し出した。
「ほら! 食ってみろって!」
「あぁ……もう。分かりました、頂きます」
諦めてアイスを受け取ると、光牙はいたずらに笑った。
「他の奴らにはナイショな!」
「はいはい」
——きっと、こんな日もいつかは日常になる。
きっと、よくある日常に。