——誰が言い出したか知らないが、桜には昔からの有名な言い伝えがある。
『桜の木の下には死体が埋まっている』と、言うやつだ。
春になると、そんな言葉を思い出すのだ——
「そんなの、出鱈目に決まっているでしょう」
青斗から桜の話を聞いた樹は、フライパンを片手に一蹴する。
「あはは、樹ならそう言うと思ってたよ。でもまさか、樹がこの話を知らなかったのは、正直驚いた」
「私はオカルト否定派なので」
リアリストな樹に苦笑しながらも、青斗は納得した。
この様子なら、どこかで聞いていても聞き流していたのだろう。
今日は珍しくアジトに二人。
他の三人は任務で遠くに出ており、今日は帰れそうにない、と連絡が来ていた。
「二人だから簡単な夕食はものにしよう」と、樹が提案したのがきっかけで、青斗は「せっかくだから」と、夜桜を見ながらの夕食を提案したのだ。
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