羅針かつて、変化とは私の周囲を彩るものにすぎなかった。
雨の日も雪の日も、誰が生まれた日も死んだ日も、鉱物の私にとっては変わらない。この世で最も硬く変質しにくいといわれるオリハルコンの身には、噴火や落雷さえ些事にすぎない。
まして生身の生物など、あっという間に死に墓も朽ちて忘れられていく存在だろう。私だけは何があっても変わらない、変わることはないとそう思ってきた。
それが、あの日――
バーンパレスで起きた一連の出来事を境に、我々の立場はまるで変わってしまった。かつて、再び魔王を名乗り地上の全てを取り戻すがよいと揚言した大魔王とは袂をわかち、寄る辺のない身として潜伏に甘んじている。
しゃら、しゃらら。
雲ひとつない夜空の下、凪いだ海から来る潮風がかすかに私の髪を鳴らしている。
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