マル暴の昼飯 その1 マル暴の昼飯その1
組織犯罪対策第四課(通称マル暴)の警部補である馬渕修は歌舞伎町の往来を大きな欠伸を漏らしながら闊歩していた。
「いやぁ、久々に粉もんとか食べたいなぁ~。俺、モダン焼きが好きなんですわ」
真後ろから聞こえてきた暢気な声に馬渕は露骨に嫌な顔をする。マル暴の巡査部長である五十嵐陽芽は四六時中、馬渕の背後を金魚の糞のように着いて回っていた。全く、騒がしい昼休憩になりそうだ。
「モダン焼きって広島焼きと何が違ぇんだ?」
「あれ、前にも言わんかったっけ。微妙に作り方が違うんですわ。広島焼きは層になってるけどモダン焼きは…」
「興味ねぇな」
「馬渕さんが言ったんでしょ?最後まで聞いてくださいや。あっ、そこの二人乗り危ないで」
すぐ隣を颯爽と過ぎようとする二人乗りの若者を、自然な流れで注意するヒメ。
その隙に馬渕は人混みの中を掻き分け、ヒメの追跡から逃れようとした。しかし、軽快な足音と「待ってくださいや~」という気の緩む声が馬渕を執拗に追い回す。
ヒメは若くてタッパがあり、そして体力がある。それに対し、馬渕はちんちくりんな上に五十路を越えていた。いくら馬渕が全力疾走しようと、ヒメの早足には敵わないのだ。
「着いてくんじゃねぇ」
「いい歳こいたオッサンなんやから、無理したらあかんで」
馬渕は中腰でゼェゼェと肩で息をしながら、誰のせいだという顔でヒメを睨む。
「たく、昼飯くらいは一人で食わせてくれ。お前がいると飯が不味くなる」
「だって…。馬渕さん機嫌えぇと、飯奢ってくれるし…」
「ざけんな。お前に奢ってやる金なんぞ、びた一文もねぇ。帰って社食でも食ってろ」
「じゃあ馬渕さんも外食やなくて、社食にすればいいやん」
「ごちゃごちゃうるせぇ。昼休憩くらいは優雅に過ごすって決めてんだ」
馬渕は頭を掻きながら、わざとらしく舌打ちをする。ヒメは無類のお喋り好きだ。こうしてる間にも刻一刻と時間は過ぎていく。
「おめェと無駄話してる時間はねぇ。俺は回る寿司に行く。おめェはガリでも食ってろ」
「ひどっ!漬物で腹が膨れるかいな」
「食わせてやるだけありがたいと思え。茶くらいは飲ませてやる」
「鬼~!悪魔~!」