ポーカーフェイス◇◇◇
「…テメノスさん、無理してませんか。」
そう声をかけたのは、旅仲間と杯を酌み交わした後。夜も更け帰路につくところに護衛を名乗り出た僕は、隣を歩く人に小さく尋ねた。
護衛など方便でしかない。この人の強さを知っている者からすればきっと笑われてしまうだろう。でも酒場でのこの人の様子がいつもと違う気がして、ついていこうと決めたのだ。
しかし、返ってきたのは素っ気ない返事だった。
表情は窺えない。返事の中の違和感はわずかで、本当に隠すのが上手い人だと思う。
大抵、こんな時は表情から何から一切を読み取らせない。旅仲間にさえ大事な感情は薄らと匂わせる程度にしか残さなかった。
酒場に面した色街を、疎らにたむろしている柄の悪い者たちの隙間を縫うように通り抜けようとした時。隣を歩く人の歩調が少しだけ鈍くなった気がした。歩幅を合わせつつ、さりげなく周囲の視線から庇うように位置取って気を配る。
1919