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    case669

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    続かないって言ったけど続いたけれど完結する事は多分ない元セフレ止まりだったレオジャミ

    ##レオジャミ

    メインストリートはちょうど帰路へ着く車がひしめき合い、その脇には色とりどりの看板が軒を連ねて賑わう。昼の痛いほどの日差しが陰りを見せ、通り抜ける風はひんやりと肌に心地よい。先ほどの試合の様子を肴に酒を浴びるバルの客が路上にまで溢れ出て、皆口々に今日のレオナの活躍ぶりを褒め称えていた。
    レオナ・キングスカラー。魔法士養成学校時代の、ジャミルより一つ学年が上の先輩。年齢自体は三つ上。スマホで名前を検索してみれば、去年プロ入りを果たしてすぐに実力を発揮し、昨年度のマジフトリーグMVPまで獲得している。スポーツ選手にしては年齢的に遅いプロ入りだが、身体能力以外にも魔法能力も重視されるマジフトにおいては珍しい年齢でも無いらしい。夕焼けの草原出身とは明記されているものの、それ以上の出自は不明。しかしインターネット上では既にかの国の王弟であるという噂が半ば暗黙の了解であるかのように囁かれている。後は去年の活躍ぶりを事細かに解説しては褒め称えているサイトやら、彼の今までの経歴の不透明さを面白おかしくマジフト界の陰謀論に紐付けた物、後はフォロワーは軽く六桁を超えているというのに去年から今までたった五回ほど、何の変哲もない風景写真が乗せられただけのマジカメのアカウントを見つけたくらいで、ジャミルの欲しい情報には今一歩届かない。だがどんな情報が欲しいのかもいまいちわからない。
    レオナからのメッセージにはまだ返信をしていない。かつて週に二、三回ほど同じような内容のメッセージを受け取っていた時だってほとんど返す事など無かったのだから、なんと書いて良いのかわからなかった。
    あの頃は、行ける時は指定の時間にレオナの部屋を訪ねればよかった。行けない時は断りの連絡をする余裕があれば「今日は無理」と一言返していたが、大抵は気付けば指定の時間を過ぎてしまって諦める事の方が多かった。それでもあの頃ならば次の機会が当たり前のように存在していて、断る事も、断ることすら出来ずにすっぽかすことだって何の呵責も無かった。
    だが今回は。きっとすっぽかせば次は無いだろう。それがジャミルの拒絶の意思だと判断され、二度とレオナから連絡が来る事は無いだろう。
    逢いたくないわけでは無い。だが逢っていいのかわからない。未練はあっても納得した上での別れだった筈だ。
    そう思いながらも時間に余裕があるからと一度アパルトメントに戻り、汗をかいたし一度アルコールを抜く為にとシャワーを浴びて丁寧に身を清め、Tシャツだけは新しい物を着てから腕時計を置いて再び街へ出た。約束の時間までにはホテルに着けるだろう。



    一般的なグレードの範囲内ではあるがそれなりに高い事が察せられる上層階の部屋の扉の前。此処まで来て初めてはっきりと恐怖を感じた。綺麗な思い出にした筈だった。傷つかないように柔らかな綿で包み、大事に心の中にしまい込んでいた筈だった。今この扉をノックするのは、その思い出を鷲掴んで地面に投げつけるような物なのかもしれない。再会が綺麗なものになるとは限らない。だってジャミルはレオナが卒業してから今までの彼を全く知らない。国に帰った筈なのに何故こんな所でマジフト選手になっているのか、何故ジャミルに気付いたのか、何故連絡を寄越したのか。色んな何故が渦巻いては、やはり会わずに帰った方が良いという結論にたどり着くのに未練がましい爪先は扉に向いたまま動こうとしない。
    さすがにこれ以上は不審者として通報されかねないと床に根を張った足を動かそうとした時、ジャミルの目の前で、扉がゆっくりと開かれた。隙間から覗いたのは当然ながらレオナ・キングスカラーその人で、片眉を上げジャミルを上から下まで見た後に、ふ、と笑った。
    「何してるんだ、お前」
    「いや、だって、躊躇いもするでしょう」
    「此処まで来ておいて何言ってやがる。入れよ」
    学生時代よりも頬が削げて美しさよりも野性味が増しただろうか。風呂上がりなのか仄かに湿った肌が晒された上半身は分厚く、申し訳程度に履いたスウェットの股下は相変わらず馬鹿みたいに高い所にある。記憶の姿とは少し違うのに顔を見れば懐かしさの方が上回ってしまい、あれだけ悩んだのが馬鹿らしくなってしまうくらいにすらすらと言葉が出た。
    「それじゃあ、お邪魔します。ああこれ、手土産です」
    「輝石の国のスパークリングワインか。この街でよく売ってたな」
    「珍しい物なんですか?前にお好きだと聞いた気がしたので何も考えずに買ってしまったのですが」
    「へぇ、よく覚えてたな」
    「そりゃあ、」
    ぺたぺたと素足で歩くレオナに案内されるままに踏み入れた室内はゆったりとした広さがあるものの、クイーンサイズのベッドの他にはソファとローテーブルが一つずつ、それからテレビがあるだけの極々シンプルなものだった。促されるままにソファに座り、続く言葉が思い浮かばなくてこみ上げた何かをこくりと飲み下す。たぶん、何か危ない綱渡りをする所だった。
    「先輩こそ、よく俺に気付きましたね」
    「さすがに半信半疑だったけどな。テメェが呼ばれるままホイホイ来なけりゃ俺はアレが結局誰だったのかわからねえままだった」
    「呼び出しておいて酷い言い草ですね、来て欲しく無かったのなら帰りますけど」
    「石鹸の匂いさせておいて何言ってやがる。テメェだって期待して来たんだろうが」
    「自意識過剰じゃないですか?汗をかいたらシャワーくらい浴びるでしょう」
    「俺は勝ちゲーム後の最高の一杯を断ってまでいそいそとホテルに戻って浮かれていたのに?」
    「は、」
    唖然としてレオナを見る。してやったりと言わんばかりの顔で笑うレオナはちょうど手土産のワインを二つのグラスに注ぎ終えた所で、片方を押し付けるように手渡されて呆けたまま受け取る。
    「まあ、とりあえずは再会に乾杯、か?」
    そうしてジャミルのすぐ隣に腰かけたレオナの、触れなくても伝わる仄かな体温。馴染のあるその温度に抗えた試しがない事を思い出しながら、ジャミルは繊細なフルートグラスをレオナのグラスへとぶつけた。
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    case669

    MEMO黒峰さんの猫じゃみちゃんの絵から書いたカリジャミにゃあ。

    と、ジャミルが鳴いた。
    いつもひんやりとした眉毛をへにゃりと下げて、つり上がった目尻を垂れ下げて、いつもきりりと結ばれた唇をぱかりと大きく開けて、もう一度、にゃあ、と鳴いた。
    「じゃっ……じゃみ、ジャミルが可愛い!!!」
    カリムが思わず頬へと手を伸ばせば、避けるどころか自ら近付いてすりすりと頬擦りされた。更にはそのままカリムの足の上に我が物顔で乗り上がって座り、ちょん、と鼻先が触れあう。思ったよりも重くて足が痛い。けれど、今まで見たことも無いくらいに蕩けきったご満悦な顔をしているジャミルを見てしまっては文句なんて言えようも無かった。
    「……ジャミル?」
    「なあう」
    名前を呼べばふにゃふにゃの笑顔でジャミルが答える。なあに?とでも言ってるような顔でこてりと首が傾き、ぴるぴると頭に生えた猫耳が震えていた。
    ジャミルが可愛い。
    いやいつもの姿だって十分可愛いのだけれど、それはそれとしてジャミルが可愛い。
    感極まって思わず唇を重ねようと近付けるも、ぐいっと二つのぐーにした手で思い切り顔を押し退けられてしまった。
    「ふなぁーあ」
    やーだね、とでも言っている、ような。思わぬ抵抗を受けて 1203